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━2章【不器用な二人】━

2-1『強引な君には屈しない』【R】

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 ****♡side・美崎

「慎ッ……やだッ」
 彼とのエッチは嫌じゃない。
 むろん彼のことは好きだ。
 強引なのが彼なのだし、そこも含めて“鶴城 慎”という一人の人間だと理解している。
 結婚したいと言われるのは嬉しい。ちゃんと考えてから返事をしようと思ってるのだ。

 なのに!
 これは脅しだよな?
 無理矢理yesと言わせるのはちがう!
 こんなの…ッ。

「んッ……いやぁッ」
「嫌? 俺と結婚するの嫌なの?」
 自分ばかり二度とほど逹イかされて、鶴城には『返事をくれなければれてやらない』と言われた。
 先ほどから鶴城の指が奥の良いところをツツく。美崎は彼が欲しくてたまらないが、そのことを口にすることは出来ない。
「違うッ」
 自分の気持ちを上手く伝えることも、口に出すことも苦手な美崎の気持ちが否定の言葉だけで伝わるはずもなく。それでも臆病で自信のない自分は心の中で抗議するしかない。

 ──ズルい、いつもだ。
  こんなやり方は、汚い!
  なんでだよ。
  大切にして欲しいって言ったのに。

 彼の普段の態度ではなおのこと、美崎には“鶴城の自信のなさ”は伝わって来なかった。
 彼の強引さはむしろ自信に満ちているように見えたし、それが納得できるほどに彼はモテる。彼が不安から無理矢理にでも美崎と婚約したいと思っているだなんて、露ほどにも思わなかった。

「慎のバカッ」
 美崎は頭の近くにあった枕を掴むと、鶴城に投げつける。
 彼は驚いて美崎の中から指を引き抜いた。目に溜めていた美崎の涙がぽろりと転げ落ち、窓の外から差し込む光に煌めいて彼が息を呑むのがわかる。
「なんでいつも意地悪するんだよッ」
 そんな鶴城に美崎は文句をいいながら抱きつくが。
「俺……」
 彼は俯いた。
 強引なことをすれば素直でない美崎だって文句を言われることくらい想像がつくはずだ。いつもの彼ならば、自分の強引さを反省して謝罪の言葉を述べるだろう。それなのに、なんだかいつもの彼と違っていて美崎は不安を感じた。

 ──別れるとか言わないよな?
  そんなこと……。

「頭冷やしてくるよ」
 案の定、いつもとは違う言動。
 そして彼はスッと美崎から離れる。床から服を取り上げ無言羽織る彼を美崎は見つめていた。
「ちょっとロビー行ってくる、すぐ戻るから」
「慎ッ!」
 着衣を整えると鶴城は力なくそう言って背を向ける。美崎が名前を呼んでも、彼は振り返らなかった。

 ──なんで?
  なんで行っちゃうわけ?
  俺が悪いの?

 パタンと閉まるドア。
 夜景と月明かりが相変わらず部屋を照らし出している。美崎はこぼれ落ちる涙を止めることが出来なかった。

 ──慎はモテる。
 思い通りにならない俺よりも、言いなりになる子を選ぶかもしれない。
 そんなの、嫌だ!

 コミュニケーションを上手に取れない自分。他の人に対してはなんら問題はないのに、大好きな彼に対してはいつもこうなのだ。思っていることを上手く伝えられたなら、すれ違うこともなくもっと分かり合えるかもしれないのに。後悔したくないと思った美崎は、彼を追うため急いで衣服を身につける。
 鶴城がロビーで意外な人物たちに遭遇していることも知らずに。

 ──慎……。
  どこ?

 一階ロビーは人が多かった。
 ロビーの客層は大抵がビジネスマン。取引先の人と待ち合わせに利用しているようだ。待ち合わせの相手と合流すると彼らはエレベーターに乗り込んでいく。地下のバーに向かっているのかもしれない。そして外国人も多い。
 それはそうだ、ホテルなのだから。

 「まこと……」
 美崎は、心細くなってきた。部屋で待っているべきだったのかもしれないと思った。
 『まさか一人で帰ったりしないよな』などと考えていると、トイレへの入り口付近で彼の背中を見つける。どうやら誰かと話をしているようで。そんな彼に美崎は恐る恐る近づいてみた。『まさか、浮気じゃないよな』などと思いながら。

 「!」
 彼の話し相手を見て美崎は驚く。
 「あ、美崎先輩」
 先にこちらに気づいたのは鶴城ではなく、話し相手の方であった。

 ──なんでこんなところにいるんだ?

 それは二人の後輩にあたる“大里 聖”であった。
 ここは大崎グループ系列のホテル。彼が利用するなら自社である大里グループ系列の方ではないのかと思っていたら、鶴城が振り返りばつの悪そうな表情かおをした。
 何か言いかけたところで、トイレから出てきた人物を見て美崎は更に混乱したのだった。
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