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━2章【不器用な二人】━

4.5-1『愛しい』

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 ****♡side・鶴城

 はあ、まったく。
 このお姫様は。

 膝の上にはお土産の箱を抱き締め喜ぶ、美崎。その腹に腕を回し落ちないように支えつつ利き腕は胡坐をかいた膝の上に置き頬杖をついてため息。

 可愛い、可愛いんだけど。
 俺をほったらかしてお土産に夢中ってどうよ?
 
 苦笑いをしていたらその箱を片腕で胸に抱いて写メを撮り始めた。鶴城はガックリと肩を落とす。どうやらSNSにアップするらしい。鶴城はSNSをやってはいなかった。
「俺もやろうかな?それ」
 構ってもらえないことに不満を感じ始めた鶴城がそう溢すと、音がしそうな勢いで彼が振り返る。何故か泣きそうな顔をして。
「?」
「慎はダメ!」
「なんでだよ」

 ネコの人形焼きを半分に割ってしまって怒られ、仕方なくロビーのお土産屋で買ってきて渡すと半泣きだった美崎はとたんにお土産に夢中になった。どうやらネコが四種類だったことがとてもお気に召したらしい。鶴城はというと、こんなのただの色違いだろ?と、変な顔をしてそれを眺めていた。
「だって……」
 その先は消え入りそうなくらい小さな声で”慎モテるから、嫌だ”と。なんて可愛いんだ! と鶴城は悶絶しそうになった。
「フォロー?優也のことしかしないし」
「嘘だ!この面子みても絶対そう言いきれる?」
 画面を見せられ、そこにはちょっと面白そうな面子がずらりと並んでいる。
「これは!」
 あまりの魅力的な面子に思わず鶴城は”無理”と吹いた。しかしながらそのメンバーはフォローしても問題はなさそうである。

「こいつらなら良くない?」
「いいけどさ、でも! 片倉……」
「わざわざこんなとこで絡まなくね? むしろなんで片倉フォローしてるんだよ」

 そこに並んだ面子といえば、”大崎 圭”一の叔母にあたる、謎の同人をアップしている”夏海”、大里の姉今日の圭一くんという謎の日記らしきものをアップしている”ミノリ”と、今日のわたくしという自撮りをアップしている”愛花”、自分でデザインしている厭らしい男性用下着の写メをアップしている”片倉 葵”であった。美崎はどうやらリアルでの知り合いしかフォローしていないようだ。

 ****

 ふと、あることに気付いた。

 ──ん? いいねの上がり方一定じゃね?

「なあ、ちょっと見せて」
「いいよ」
 美崎は素直にスマホを渡してくる。フォロワーの面子を見てぎょっとした。四十名ほどが全員同じ日に美崎をフォローしていたのである。
「ありがと」
 それだけ確認すると彼にスマホを返し、自身も登録し始めた。

 あれは名前適当にしてるけど、どう考えても”風紀”の連中だろ。しかもあのフォローの仕方は白石に強制的に登録させられた感じだな。あの女め! いくらなんでも、キチガイ過ぎるだろ。

 苦笑しながら操作していると、美崎が心配そうにこちらを伺っているのが可愛らしい。温泉旅館まできてなにやってるんだ! という話ではあるが、可愛い恋人のためである。
「ね、できたの?」
 チラチラ画面を気にする彼を抱き寄せるとカメラモードにして掲げる。
「笑って」
「え?」
 カシャっと撮影音がして、撮影完了。アイコンに設定した。
「これでいいだろ?」
 鶴城に虫が寄ってくるのを気にする美崎だが、自分からしたら美崎のほうがよっぽど心配だ。美崎をフォローし、面白面子をフォローすると、ピロンという音がして次々とフォロー返しされた。みんな暇なのか? と、鶴城は思ったが片倉だけは反応がなかった。スマホの時計に目をやる。今頃忙しいのかもしれない。

「ん? どうした?」
「なんでもないよ」
 美崎はうっとりとこちらを見つめていたが、首を横に振ると鶴城の胸に額をつけた。その仕草が愛しくて襲いたくなったが、その前にお楽しみがある。
「SNSは後にしてさ、温泉はいろうや」
「え? うん」
 これで心おきなく美崎を眺めまわせると鶴城は思っていた。襲う気満々だ。

 ──隅から隅まで堪能してやる。
  いつもは恥ずかしがって、見せてくれないしな。

 鶴城は彼を膝の上からおろすと機嫌が悪くなりそうな気がして、抱き上げそのまま部屋についてる温泉のほうへ向かう、鼻歌を唄いながら。
「なんて歌?」
 あまりにもルンルンで歌っていたのが気になったのか、美崎に尋ねられ
「what lovers Do」
 と曲名をこたえ
「スマホに入ってるから後で聴かせちゃるよ」
 と言えば、彼は大人しくお姫様抱っこされながら嬉しそうに笑う。

 ──優也、最高に可愛いな! おい。
  旅行様さまだな。

 と、旅行をプレゼントしてくれた圭一に感謝していたのだった。

 ****

「そんな、見るなよ」
「なんで? 興奮しちゃう?」
 初めての温泉。二人きりで浸かる湯。後ろから美崎を抱き締め、彼の指を見つめていた。そこにあるのは恋人の証、ペアリング。
「するわけないだろ」
 だってさ、といって自分の手の平の上に彼の手を乗せる。
「なんでそんなに手ばかり見るんだよ」
「俺のものだなって思って」
 鶴城の言葉に、彼は不思議そうな顔をするばかりだ。

 ”U make me wanna love.”

 耳元でそっと囁けば、彼は頬を染める。
「なあ?」
「うん」
「明日は何処にいこうか?」
 美崎の髪の良い香りが鼻先を掠め、首筋を指先で撫でると彼はくすぐったそうに首を傾けた。
「ガイドブック穴があくほど眺めてたんだろ?」
 美崎は可愛い。初めての旅行がよっぽど嬉しかったのかギリギリまでガイドブックに付箋をつけ行きたいところを吟味していた。彼の行きたいとこ何処でも連れて行ってやりたいと鶴城は考えている。この先何処へでも。

 しかし気になるのは白石だ。何を考えているのかわからない。まさか旅行中に電話はしてはくるまいなどと思ったが、電源は切っておいた。美崎とのお楽しみの最中に電話などかかってきようものなら機嫌を損ねかねない。初めての旅行はいい思い出にしたい、是が非でも。

 ところであいつ、何で俺にかけてくるんだ?
 白石の好きな相手は優也だよな?
 普通は相手にかけなくないか?

 変わった邪魔の仕方だな、と鶴城は思っていたが。白石がずれている事は風紀委員には周知の事実だった。
「なあ、優也。そろそろイイコトしようや」
「その前に舟盛り」
 月が綺麗な夜で。ロマンチックな演出には持って来いであったが、どうやらイチャイチャはお船の後らしい。
「写真とる前に食べないでよ?」
「え、撮るの?」
 どうやら夕飯にありつくことから始めないといけないようである。

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