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5『変わり始めた日常』
2 傍に居るだけで
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****side■唯野(課長)
「黒岩総括、以前にも増して積極的ですね」
しぶしぶと言った風に苦情係から出ていく黒岩の背を見送っていると、板井にそう声をかけられ、
「そうだな」
と返答した唯野。
板井がそう感じるのなら、そうなのだろうと思った。
「あれだけはっきりと、諦めてくださいと言ったのに」
はっきりと意思表示が出来る板井を正直、尊敬する。
だが、
「黒岩は自分で納得がいくまで、誰に何を言われようが自分を曲げないやつだ。営業時代もそれで好成績を納めていたから」
と唯野が言うと、板井はため息をついた。
「それって結果だけで言えば良いことなのかもしれませんが、経緯は”しつこい”ですよ?」
その言葉には唯野も苦笑い。
「俺は……そういうことでもはっきり言う板井が好きだな」
「え?」
予想外の話しだったのか、板井が驚いた顔をする。
そこで、モニターの向こう側を見て、塩田と目が合う。
まるでイチャイチャするなと言われているような気持ちなり、板井の肩をつつくと唯野は立ち上がった。
「ちょっと外でないか?」
と唯野。
板井は何も言わずにその後へ続く。
苦情係を出て商品部を通り、廊下へ出ると、
「どうかしたのですか?」
と板井。
「あまりああいうところで言うのは良くないかなと思って」
と唯野が返答すると、何かを察した彼が”すみません”と謝罪をする。
別段、彼が悪いわけではない。
複雑な気持ちになりながらも、唯野は小さく笑みを浮かべた。
近くの休憩室に入ると、冷蔵庫からドリンクを取り出す。
この会社の休憩室では自由に飲めるドリンクが冷蔵庫に常備されている。もちろん自動販売機も設置されてはいるが。
「カフェオレでいいか?」
唯野は取り出した一つを板井に渡すと、ソファに身を沈めた。
「ごめんな、俺がハッキリしないせいで」
座れよというように、隣の席に手を置きながら、唯野は板井に謝罪する。
「なんで謝るんです? あの人がシツコイと、あなたが断ったことにならないんですか?」
”そんなのおかしいでしょ”と板井は言う。
「NOと言ってても、相手が折れるまで粘る人が正義なんですか? 俺はそんなのただの迷惑な人だとしか思いません」
板井が怒るのはもっともだと思う。
「そうだな」
──黒岩はしつこくすれば、自分が折れると思っている。
折れる気なんてないけれど。
「どうしたら引いてくれるんですか?」
「俺にも分からないよ」
そもそも何故今頃になって再燃したのだろうか?
離婚がきっかけだとしても、都合が良すぎる。
「一度ちゃんと話すべきなのかなとは思うよ」
唯野の言葉に板井が眉を顰めた。
「二人きりでですか? そんなの危険すぎます」
唯野はどうしたものかと、ため息をつく。
黒岩が何故自分に好意を向けるのかさえ分からないのだ。
思わせぶりな態度をした覚えもない。
「話をするのは賛成ですが、二人きりで会うことには反対します」
「それは……もちろん」
唯野自身も身の危険を感じている。
黒岩の強引さは、類を見ない。相手の迷惑もお構いなし。
「心配ですよ、ホント」
カフェオレのボトルをテーブルに置いた板井の手が、唯野の手に重なる。
こんなことでドキドキしてしまう自分がいるのは否めない。
「帰り、どこかで食べていこうか?」
それはデートのお誘い。
彼はにこっと微笑んで、
「いいですね」
と返事をしてくれた。
「さて、戻って仕事しよう」
なにも解決はしていないが、板井とお喋りをしたことで唯野の気持ちは浮上している。
「そうですね」
飲み終えたペットボトルをゴミ箱へ捨てると、二人は休憩室を後にしたのだった。
「黒岩総括、以前にも増して積極的ですね」
しぶしぶと言った風に苦情係から出ていく黒岩の背を見送っていると、板井にそう声をかけられ、
「そうだな」
と返答した唯野。
板井がそう感じるのなら、そうなのだろうと思った。
「あれだけはっきりと、諦めてくださいと言ったのに」
はっきりと意思表示が出来る板井を正直、尊敬する。
だが、
「黒岩は自分で納得がいくまで、誰に何を言われようが自分を曲げないやつだ。営業時代もそれで好成績を納めていたから」
と唯野が言うと、板井はため息をついた。
「それって結果だけで言えば良いことなのかもしれませんが、経緯は”しつこい”ですよ?」
その言葉には唯野も苦笑い。
「俺は……そういうことでもはっきり言う板井が好きだな」
「え?」
予想外の話しだったのか、板井が驚いた顔をする。
そこで、モニターの向こう側を見て、塩田と目が合う。
まるでイチャイチャするなと言われているような気持ちなり、板井の肩をつつくと唯野は立ち上がった。
「ちょっと外でないか?」
と唯野。
板井は何も言わずにその後へ続く。
苦情係を出て商品部を通り、廊下へ出ると、
「どうかしたのですか?」
と板井。
「あまりああいうところで言うのは良くないかなと思って」
と唯野が返答すると、何かを察した彼が”すみません”と謝罪をする。
別段、彼が悪いわけではない。
複雑な気持ちになりながらも、唯野は小さく笑みを浮かべた。
近くの休憩室に入ると、冷蔵庫からドリンクを取り出す。
この会社の休憩室では自由に飲めるドリンクが冷蔵庫に常備されている。もちろん自動販売機も設置されてはいるが。
「カフェオレでいいか?」
唯野は取り出した一つを板井に渡すと、ソファに身を沈めた。
「ごめんな、俺がハッキリしないせいで」
座れよというように、隣の席に手を置きながら、唯野は板井に謝罪する。
「なんで謝るんです? あの人がシツコイと、あなたが断ったことにならないんですか?」
”そんなのおかしいでしょ”と板井は言う。
「NOと言ってても、相手が折れるまで粘る人が正義なんですか? 俺はそんなのただの迷惑な人だとしか思いません」
板井が怒るのはもっともだと思う。
「そうだな」
──黒岩はしつこくすれば、自分が折れると思っている。
折れる気なんてないけれど。
「どうしたら引いてくれるんですか?」
「俺にも分からないよ」
そもそも何故今頃になって再燃したのだろうか?
離婚がきっかけだとしても、都合が良すぎる。
「一度ちゃんと話すべきなのかなとは思うよ」
唯野の言葉に板井が眉を顰めた。
「二人きりでですか? そんなの危険すぎます」
唯野はどうしたものかと、ため息をつく。
黒岩が何故自分に好意を向けるのかさえ分からないのだ。
思わせぶりな態度をした覚えもない。
「話をするのは賛成ですが、二人きりで会うことには反対します」
「それは……もちろん」
唯野自身も身の危険を感じている。
黒岩の強引さは、類を見ない。相手の迷惑もお構いなし。
「心配ですよ、ホント」
カフェオレのボトルをテーブルに置いた板井の手が、唯野の手に重なる。
こんなことでドキドキしてしまう自分がいるのは否めない。
「帰り、どこかで食べていこうか?」
それはデートのお誘い。
彼はにこっと微笑んで、
「いいですね」
と返事をしてくれた。
「さて、戻って仕事しよう」
なにも解決はしていないが、板井とお喋りをしたことで唯野の気持ちは浮上している。
「そうですね」
飲み終えたペットボトルをゴミ箱へ捨てると、二人は休憩室を後にしたのだった。
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