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5『変わり始めた日常』
3 黒岩を探して
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****side■板井
板井は隣の唯野にチラリと視線を向けると心の中でため息をついた。
自分がしっかりと彼のサポートをすればいい……ということで済みそうにはない。唯野は黒岩と一度話をした方がいいといっていたが、そんなことで解決できるのだろうか?
何故今さらと彼は言っていたが、元々燻っていた気持ちが『唯野の離婚』によって表沙汰になっただけのような気もする。
──黒岩総括は妻帯者。
それなりに会社の中での地位もある。
それなのに危険を顧みず、不倫に走ろうとしているのには何か引き金になったことがあるはずなんだ。
唯野は不倫を良しとする人ではない。
それは自分が一番よく分かっていると思う。
だが黒岩とて、わかっているはずだ。
悶々としながら半日を過ごし、気づけば昼のチャイムが鳴っていた。
いつものように社長から呼び出しを食らう唯野を見送る。
同僚の塩田と電車は外に食べに行くようだ。
「板井はどうする?」
これまたいつもように彼らに問われ、
「残るよ」
と答えると、
「じゃあ、何か買ってくる」
と電車に言われた。
塩田は心配そうにこちらを見ていたが、なにかあればメッセージをくれるだろう。二人が出ていくのを確認し、唯野に置手紙を残す。
「さて、黒岩総括を探すか」
半日考えて出した結論。
それは自分がまず黒岩と話すべきだと思った。このまま唯野に任せていてはいけないと。
自分はもう、部外者ではない。
ちゃんと関わって、諦めてもらべきだ。
──に、しても。
総括は何処にいるんだ?
社の玄関に設置された役職表を思い出す。
株原は事業内容が多岐に渡るため、とにかく部署が多い。
株原では総括は統括の上にあり、各部署を統括でまとめ、彼らから意見などを聴き総括で新たな企画のための会議や社内環境を整えたりしている状況だ。
総括も統括も仕事内容が多岐に渡るため、一か所に留まっていることはない。簡単に言えば、黒岩は総括部の部長ということだ。
だが苦情係の直属の上司は副社長。
どうにも変な会社だ。
板井はエレベーターの前まで来ると、案内板に目をやる。
総括部は社長室の下の階にあるが、恐らくそこにはいないだろう。
──そういえば、あの人が昼に何処にいるのか知らないな。
こういう時は、株原一の情報通である『秘書室長』に聞くのが一番だと思った。唯野の同期であり、彼女に聞けば大抵のことは分かるらしい。
板井はエレベーターの箱に乗り込むと最上階のボタンを押す。
するとブルっと胸ポケットのスマホが震え、メッセージを受け取ったことが知らされた。取り出して画面に目をやれば案の定、塩田からだ。
塩田とはかなり仲のいい方だと思う。
自分にとっては親友のようなものだ。
彼も自分もそんなに話す方ではなかったが、休憩を一緒に取っているうちに個人的な話もするようになった。彼は他言するような性格ではないので、とても信頼している。
メッセージには『この間はありがとう』と一言。
塩田がわざわざメッセージを送ってくるのは、『話やすくするため』なのだ。礼を言うのが目的ではないことくらい分かっていた。
チンという音がし、目的の階についたことに気づく、今は詳しく話している時間はない。板井は箱から出ると、塩田に”後で連絡する”と送り屋上へ向かう。
「さてと」
屋上にはちらほら人がいた。
大抵のものは外か社員食堂へ向かうものだ。
部署で食すものいるが。
秘書室長はその中で大抵昼を屋上で過ごす人だった。
目的の人を見つけたはいいが、その人は何故か黒岩総括と一緒にいる。
どうしたものかと思っていると、秘書室長がこちらに気づき、
「板井くん」
と声をかけてくれた。
「板井か、どうしたんだ?」
と黒岩。
その”どうした”はきっと”何故一人なんだ?”と言う意味なのだろう。
「総括を探していました」
板井はストレートにそう告げると、
「俺を?」
と不思議そうな顔をする。
「外行って来たら?」
何かを察した秘書室長。彼女は以前から板井の話しを聞いてくれていた。なんとなく目的が分かるのだろう。
「そっか。じゃあ、外行こうか」
と黒岩。
板井は肯定の意を伝えると大人しく彼に続いたのだった。
板井は隣の唯野にチラリと視線を向けると心の中でため息をついた。
自分がしっかりと彼のサポートをすればいい……ということで済みそうにはない。唯野は黒岩と一度話をした方がいいといっていたが、そんなことで解決できるのだろうか?
何故今さらと彼は言っていたが、元々燻っていた気持ちが『唯野の離婚』によって表沙汰になっただけのような気もする。
──黒岩総括は妻帯者。
それなりに会社の中での地位もある。
それなのに危険を顧みず、不倫に走ろうとしているのには何か引き金になったことがあるはずなんだ。
唯野は不倫を良しとする人ではない。
それは自分が一番よく分かっていると思う。
だが黒岩とて、わかっているはずだ。
悶々としながら半日を過ごし、気づけば昼のチャイムが鳴っていた。
いつものように社長から呼び出しを食らう唯野を見送る。
同僚の塩田と電車は外に食べに行くようだ。
「板井はどうする?」
これまたいつもように彼らに問われ、
「残るよ」
と答えると、
「じゃあ、何か買ってくる」
と電車に言われた。
塩田は心配そうにこちらを見ていたが、なにかあればメッセージをくれるだろう。二人が出ていくのを確認し、唯野に置手紙を残す。
「さて、黒岩総括を探すか」
半日考えて出した結論。
それは自分がまず黒岩と話すべきだと思った。このまま唯野に任せていてはいけないと。
自分はもう、部外者ではない。
ちゃんと関わって、諦めてもらべきだ。
──に、しても。
総括は何処にいるんだ?
社の玄関に設置された役職表を思い出す。
株原は事業内容が多岐に渡るため、とにかく部署が多い。
株原では総括は統括の上にあり、各部署を統括でまとめ、彼らから意見などを聴き総括で新たな企画のための会議や社内環境を整えたりしている状況だ。
総括も統括も仕事内容が多岐に渡るため、一か所に留まっていることはない。簡単に言えば、黒岩は総括部の部長ということだ。
だが苦情係の直属の上司は副社長。
どうにも変な会社だ。
板井はエレベーターの前まで来ると、案内板に目をやる。
総括部は社長室の下の階にあるが、恐らくそこにはいないだろう。
──そういえば、あの人が昼に何処にいるのか知らないな。
こういう時は、株原一の情報通である『秘書室長』に聞くのが一番だと思った。唯野の同期であり、彼女に聞けば大抵のことは分かるらしい。
板井はエレベーターの箱に乗り込むと最上階のボタンを押す。
するとブルっと胸ポケットのスマホが震え、メッセージを受け取ったことが知らされた。取り出して画面に目をやれば案の定、塩田からだ。
塩田とはかなり仲のいい方だと思う。
自分にとっては親友のようなものだ。
彼も自分もそんなに話す方ではなかったが、休憩を一緒に取っているうちに個人的な話もするようになった。彼は他言するような性格ではないので、とても信頼している。
メッセージには『この間はありがとう』と一言。
塩田がわざわざメッセージを送ってくるのは、『話やすくするため』なのだ。礼を言うのが目的ではないことくらい分かっていた。
チンという音がし、目的の階についたことに気づく、今は詳しく話している時間はない。板井は箱から出ると、塩田に”後で連絡する”と送り屋上へ向かう。
「さてと」
屋上にはちらほら人がいた。
大抵のものは外か社員食堂へ向かうものだ。
部署で食すものいるが。
秘書室長はその中で大抵昼を屋上で過ごす人だった。
目的の人を見つけたはいいが、その人は何故か黒岩総括と一緒にいる。
どうしたものかと思っていると、秘書室長がこちらに気づき、
「板井くん」
と声をかけてくれた。
「板井か、どうしたんだ?」
と黒岩。
その”どうした”はきっと”何故一人なんだ?”と言う意味なのだろう。
「総括を探していました」
板井はストレートにそう告げると、
「俺を?」
と不思議そうな顔をする。
「外行って来たら?」
何かを察した秘書室長。彼女は以前から板井の話しを聞いてくれていた。なんとなく目的が分かるのだろう。
「そっか。じゃあ、外行こうか」
と黒岩。
板井は肯定の意を伝えると大人しく彼に続いたのだった。
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