R18【同性恋愛】リーマン物語if6『private』

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6『返り討ちに』

5 認めてはいても苦手なアイツ

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****side■唯野(課長)

  唯野が何か言おうとしたところ、黒岩は前を向いたまま”しゃべるな”とでもいうように後方にいた唯野に手をかざした。
「凝りませんね、黒岩さん。俺がいないのをいいことに、また課長を口説いているんですか?」
と入り口の方から呆れを含んだ板井の声。
「お前はガミガミうるさいねえ。今日は名前で呼ばないのか?」
 黒岩はいつもの様子で軽くあしらっているようだ。
 伊達にたくさんの部下を抱えているわけではないなと思った。
「公私は分けます。業務中ですので」
 対する板井は一歩も引く気がないようだ。将来大物になりそうだなと思いながら、唯野は黒岩の陰で肩を竦める。

 そこへ我が課のムードメーカー電車の優しくてハリのある声が響く。
「課長、板井。今日はお弁当買ってきたよ」
「俺の分はないのか?」
 黒岩はカウンターに寄りかかりニヤニヤしながら電車に問う。
「おわっ……何してんの。うちの課で」 
 初めの頃こそちゃんと敬語を使っていた電車もすっかり塩田に染まったのか、上役にあたる黒岩に対してもため口だ。
 黒岩は細かいことを気にしないタイプなのか、特に何も言わないので今日《こんにち》まで放りっぱなしという状況。
 
 もっとも、うちの会社は細かいことを気にする神経質なタイプでは務まらないだろう。何せ、常識では考えられないオカシ気な商品ばかり取り扱っているのだから。
 最近バカ売れしたのは、男性の主張Tシャツだ。中でも注目を集めたのが『非童貞Tシャツ』と『脱童貞Tシャツ』である。
 一見ただのバカバカしい下ネタプリントTシャツなのだが、デザインについてはどっちにするかで意見が二分し揉めに揉めたのだ。
 揉めた挙句どちらも作成することで決着はついたが、『誰が着るんだあのでかでかと文字の書かれたバックプリントTシャツを……』と唯野は思ってた。

「居ない人のは買わない、これ常識。頼まれてもないしな」
 そこへ電車の後ろに立っていた塩田の冷ややかな声。
「なんでもいいけど、早く食べないとせっかくのお弁当が冷めちゃうよ。ランチいってきたら?」
 電車の言葉に反応し席から立つと”なんだ、いたの”という反応をする塩田。
「じゃあ、お昼行ってくるよ。行くぞ、板井」
 これ以上放って置いたら昼飯に行く機会を逃しそうだと思った唯野は、電車から袋を受け取ると板井の腕を掴む。目指す場所は屋上だ。

 エレベーターの前まで来ると、唯野は板井の腕を開放した。
「まだ怒っているのか」
と問えば、
「いえ、怒ってなどいません。あなたのことを心配していただけで」
と穏やかな声。
 板井は基本、穏やかだと思う。
 と、言うよりも彼が攻撃的になるのは黒岩が相手の時だけ。
 塩田のように塩と言うわけではないが、感情は分かり辛いと思う。
 それでも唯野の前でだけは、素なのだと思うこともある。

「大丈夫ですよ、あの人の辞書に諦めるという言葉がないことくらい……わかっているつもりですから」
 板井はため息を一つつくと唯野をエレベーターの箱に促す。
「ごめん」
「なぜあなたが謝るんです?」
「いや、変な奴が同期で」
 チラリと視線だけを板井に向ければ、彼はクスリと笑う。
「営業部ではやり手だったのでしょう? まあ、粘りと言うよりは”しつこさ”だと思いますけどね」
 少し棘のある言葉を吐いて、肩を竦める。
 確かに仕事では実力を発揮するやつなのだ、黒岩は。

「別に押しだけで成績を上げていたわけじゃない。アイデアが優れていたから契約を取りやすかったんだよ。機転が利くし、双方に利益の上がるような提案ができるし」
「随分と褒めるんですね」
「事実だよ。俺にはなかったモノだ」
 真面目にやっているだけではダメなことを知った。ただひたすらマニュアルに添っていたいただけの自分とアイデアで道を切り開いて行った黒岩。
 今の役職だって、社長は適役だと感じたから人事を動かしたのだ。
 そんなことは自分が一番わかっている。ずっと営業部で見ていたのだから。
「好き、だったんですか?」
 目的の階に着いたことを知らせるベルが鳴って、唯野は先に箱から降りた。
「今も昔も、あいつのことは苦手だよ」
 あまりにも嫌そうな顔をしていたのか、唯野は板井に笑われたのだった。
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