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3話 図書館と彼
6 秋風の中で
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陽菜を駅まで送り届けると、戀は車を取りに珈琲店に向かって歩き出す。
長い一日だったような気もするし、短い一日だったような気もする。
陽菜に触れた手のひらを見つめ、小さくため息をつくとポケットにしまう。彼女に出逢ってから自分は確実に変わった。以前だったら思い出すのは、元恋人の事だったはず。
「いろんなことを言われたけれど……」
歩きながらぼんやりと景色を眺めると、夕日が紅葉した木々に残る葉をキラキラと照らしていた。今、心を包む音楽はあの頃のものではない。
彼女に言われた言葉を心の中で一つ一つ反芻していく。彼女はそのままの自分ではなく、変わって欲しかったのだと思う。けれどもそれは自分ではない自分。
ありのままの自分を受け入れてくれる人が少数派なのは知っている。誰だって、飾らない自分を受け入れてくれる人を求めているくせに、相手にはそれを許しはしない。
少なくとも自分はどんな彼女でも愛していたと思う。
いや、そう思いたいだけなのだろうか。
自問自答してみても答えは見つからない。
全てを許すのが愛だというのなら、愛ではなかった気もする。
戀は立ち止まると駅の方を振り返った。
陽菜の寂し気な笑顔は兄を見つけることが出来なかったからなのか、それとも。
恋に落ちるという感覚を知った。柔らかそうな髪。暖かな手。ふんわりと笑う彼女を可愛いと思った。耳に心地よい声。傍に居るだけで凍り付いた心を溶かしていく。
その笑顔が自分だけに向けられたらいいのに。
戀はそんなことを思っていたが、不意に首を数度横に振ると再び珈琲店に向かって歩き出す。
今は彼女の兄を探すことに時間を費やすべきだ。
「見つかったなら、この関係も終わってしまうのかな」
ぽつりと呟き、苦笑いをする。
早く見つけてあげるべきなのに、終わることを今から考えて憂鬱になっていた。恋愛経験が多いかと言われたらそれほどでもないが、少ないかと問われたらそれもわからない。
だが得意でないことは確かだ。
頑張っているつもりではあるが、いつもすれ違いから別れてしまう。自分の言葉が足りないせいだということも分かってはいたのだが。
「あら、顔も出さないで帰るつもり? それはちょっと薄情じゃないの」
「うん?」
珈琲店に辿り着いた戀はそのまま駐車場へ向かおうとして、叔母に声をかけられた。両手をポケットに入れたまま立ち止まって身を捩る。
「そんな顔して、どうしたの」
「そんな顔って?」
眉を寄せた彼女に聞き返す戀。
「さては、陽菜ちゃんに告白して振られたか。ダメよ焦っちゃ」
「してないよ、告白なんて」
”何を言っているの”と肩を竦めると彼女が笑った。そして手にもっていた正方形の薄いケースをこちらに差し出す。
「なにこれ」
ケースを受け取った戀はケースの中の緑に光る円盤を見つめた。
「どう見てもCDでしょ」
「それは分かるけれど」
「戀が欲しがっていた曲。ダウンロードしたから」
その言葉で戀は、先日店にかかっていた曲が欲しいと彼女に言ったことを思い出す。
「じゃあ、店に戻るから」
「ありがとう。また明日」
叔母が店に戻るのを見届けて車にエンジンをかけると戀はドアを開けた。家まではすぐそこだ。いつの間にか空は藍に染まっている。
カーナビにCDをセットし再生を押せば、優しいピアノの旋律に包まれた。
このまましばらくドライブをしてもよいなと思う。美しく優しく繊細さを感じる旋律は陽菜を思わせた。
恋とは不思議なものだ。日常をドラマチックに変えていくのだから。
戀はシートベルトを締めアクセルを踏み込む。これから小一時間ほどドライブをして考えをまとめようと思っていた。
土曜日の夕暮れ時はそこそこ車通りがある。どちらに向かうか考え、左にハンドルを切った。出逢って間もない陽菜を恋しく思いながら。
長い一日だったような気もするし、短い一日だったような気もする。
陽菜に触れた手のひらを見つめ、小さくため息をつくとポケットにしまう。彼女に出逢ってから自分は確実に変わった。以前だったら思い出すのは、元恋人の事だったはず。
「いろんなことを言われたけれど……」
歩きながらぼんやりと景色を眺めると、夕日が紅葉した木々に残る葉をキラキラと照らしていた。今、心を包む音楽はあの頃のものではない。
彼女に言われた言葉を心の中で一つ一つ反芻していく。彼女はそのままの自分ではなく、変わって欲しかったのだと思う。けれどもそれは自分ではない自分。
ありのままの自分を受け入れてくれる人が少数派なのは知っている。誰だって、飾らない自分を受け入れてくれる人を求めているくせに、相手にはそれを許しはしない。
少なくとも自分はどんな彼女でも愛していたと思う。
いや、そう思いたいだけなのだろうか。
自問自答してみても答えは見つからない。
全てを許すのが愛だというのなら、愛ではなかった気もする。
戀は立ち止まると駅の方を振り返った。
陽菜の寂し気な笑顔は兄を見つけることが出来なかったからなのか、それとも。
恋に落ちるという感覚を知った。柔らかそうな髪。暖かな手。ふんわりと笑う彼女を可愛いと思った。耳に心地よい声。傍に居るだけで凍り付いた心を溶かしていく。
その笑顔が自分だけに向けられたらいいのに。
戀はそんなことを思っていたが、不意に首を数度横に振ると再び珈琲店に向かって歩き出す。
今は彼女の兄を探すことに時間を費やすべきだ。
「見つかったなら、この関係も終わってしまうのかな」
ぽつりと呟き、苦笑いをする。
早く見つけてあげるべきなのに、終わることを今から考えて憂鬱になっていた。恋愛経験が多いかと言われたらそれほどでもないが、少ないかと問われたらそれもわからない。
だが得意でないことは確かだ。
頑張っているつもりではあるが、いつもすれ違いから別れてしまう。自分の言葉が足りないせいだということも分かってはいたのだが。
「あら、顔も出さないで帰るつもり? それはちょっと薄情じゃないの」
「うん?」
珈琲店に辿り着いた戀はそのまま駐車場へ向かおうとして、叔母に声をかけられた。両手をポケットに入れたまま立ち止まって身を捩る。
「そんな顔して、どうしたの」
「そんな顔って?」
眉を寄せた彼女に聞き返す戀。
「さては、陽菜ちゃんに告白して振られたか。ダメよ焦っちゃ」
「してないよ、告白なんて」
”何を言っているの”と肩を竦めると彼女が笑った。そして手にもっていた正方形の薄いケースをこちらに差し出す。
「なにこれ」
ケースを受け取った戀はケースの中の緑に光る円盤を見つめた。
「どう見てもCDでしょ」
「それは分かるけれど」
「戀が欲しがっていた曲。ダウンロードしたから」
その言葉で戀は、先日店にかかっていた曲が欲しいと彼女に言ったことを思い出す。
「じゃあ、店に戻るから」
「ありがとう。また明日」
叔母が店に戻るのを見届けて車にエンジンをかけると戀はドアを開けた。家まではすぐそこだ。いつの間にか空は藍に染まっている。
カーナビにCDをセットし再生を押せば、優しいピアノの旋律に包まれた。
このまましばらくドライブをしてもよいなと思う。美しく優しく繊細さを感じる旋律は陽菜を思わせた。
恋とは不思議なものだ。日常をドラマチックに変えていくのだから。
戀はシートベルトを締めアクセルを踏み込む。これから小一時間ほどドライブをして考えをまとめようと思っていた。
土曜日の夕暮れ時はそこそこ車通りがある。どちらに向かうか考え、左にハンドルを切った。出逢って間もない陽菜を恋しく思いながら。
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