【完結】心打つ雨音、恋してもなお

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5話 変化していく日常

1 珈琲店にて

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 珈琲店に着いた時、お昼はとうに回っていた。陽菜はるなの兄の家で雑誌を調べるのに思った以上に時間がかかっていたのだろう。
 朝食をここで取り、珈琲店を出たのは9時前。
 知らず知らずのうちに陽菜との時間を重ねていることにれんは驚いていた。
 あの日、この店の軒先で寒そうに自身を抱きしめて立っていた陽菜。彼女の出会いは日常を非日常に変え、いつも元恋人のことばかり考えていた戀の思考を180度変えた。

 ”とは言え、たまに思い出すけどね”と心の中で呟き、カウンター席で叔母と談笑する陽菜を眺める。
 戀は窓際の二人席に陣取って昼食とノートを広げていた。大きな木の格子窓から降り注ぐ日差し。それはまるで彼女が自分にくれた柔らかな光にも似て。
 陽菜から聞いた彼の兄が恋人を作らない理由を思い出し、小さくため息をつく。もし彼女が同じ思想なら、この恋は実らないだろうと思えた。

 人は歴史を辿る。人は今不自由だから自由を勝ち取ろうとするのだ。
 しかし勝ち取った自由が後世まで有難いとは限らない。
 かつての日本には自由恋愛など存在していなかった。女性は貞操を守り、他にどんなに好いた相手がいても親同士が決めた相手のところへ嫁がされる。それは働き手としてでもあり、働き手を増やす道具としてでもあった。
 そこに自分の意思なんて考慮されはしない。相手を好きになれれば良いだろうが、生理的に受け付けない場合もあるだろう。そうやってまるで家畜のように扱われ、人権を無視されていたのが女性というものだ。

 未だにネットなどを見ていると男というだけで威張っている奴は多く存在するが、会社を眺めても仕事のできる者は女性の方が多い。
 そこには簡単な理由が存在する。
 男女の脳に差はないとは言うが、女性は男性とは違い力で敵うことはない。その為、普段から周りとの摩擦を起こさないように行動するだ。女性が笑顔なのは、別に相手を好いているからではない。穏便に済ますことで身を守っているに過ぎない。
 しかしそれ自体が変わりつつあった。

 核家族、一人っ子が増えたこと。兄弟、姉妹という立ち位置には自然と役割があり、それによって社会の中での身の置き方などを自然に手に入れる。
 一人っ子というのは良くも悪くも長子気質と末っ子気質を併せ持つ。○○世代というものに傾向があるのは、同じ環境を経験しているからとも言えるのだ。

 陽菜の兄は現代社会でよく耳にするようになった、パートナーは不要という考え方の持ち主であった。どちらかというと男性にこの考え方のものが多いのは男女に賃金格差が存在するからだろう。
 自分でなんでもできて他人に頼る必要がなければ、伴侶は不要。
 そしてZ世代は結婚はしたいが恋愛はしたくない。無駄と考える人が増えていること。
 確かにお金や時間を相手に費やしたのに、結果別れてしまうくらいなら、初めからマッチングアプリなどで合う人を探した方が効率は良いと思われる。しかしその相手を好きになれるのだろうか。

 世の中には二つの人間がいる。
 それは他人から言われたとおりにしか動けないロボットのような人間。気が利かず、楽ばかり考えているタイプ。
 もう一つは主体性を持ち、全体を見ながら自ら考えて動くタイプ。
 残念ながら前者が多いのが現実。そんな者に魅力を感じるのだろうか?

 陽菜もまた恋愛する時間は無駄だと考えるタイプだったなら。どんなに好きになってもこの想いは叶うことがないだろう。いつまでも元恋人のことを引きづっているような自分が、彼女に相応しいとは思えない。
 戀は額に手をやると項垂れた。
「今は事件のことに集中しないと」
 陽菜の兄を見つけ安心させてあげることが先決だろう。事件が解決すれば疎遠になってしまうかもしれないという不安はある。だがそれはその時また考えればいい。

「戀くん」
「うわっ」
 急に声をかけられて戀は驚く。
「そんなに驚かなくても。ねね、見てこれ」
 嬉しそうに笑う彼女の手の中には手乗りの黒猫のぬいぐるみ。
「ブラック無糖」
「覚えたんだね。マスターから貰っちゃった」
 嬉しそうに笑う陽菜。戀はその笑顔を守りたいと思っていたのだった。
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