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5話 変化していく日常

4 ある見落としに気づく時

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「なかなか会えないものだな」
 それは週も半ばを過ぎた木曜日。
 コンビニ店員の話では陽菜はるなの兄と仲良くしているように見えたのは3、4グループの中高生。
 月曜に改めて例のコンビニ店員に詳しく確認したところ、そのグループは常連だと言う。中高生というのは2年前の年齢である。

 彼らはれんたちの想像をはるかに下回り、グループというにはこじんまりとしたものだった。仲良しの3、4人組がしばらくコンビニ前で話をしていく程度。
 そして出会えたのは学校帰りの中学生ばかりだったのである。
 どうにも高校生グループと行き会わない戀たちはどういうことだと首を傾げるばかり。店員の話では今でも週に2回くらいは来ているというのだが。
 会えないものは仕方ない。

 中学生たちに話を聞こうと話しかけると、彼らは意外にも気さくに質問に答えてくれた。
 その中で分かったのは、陽菜の兄は遅くにコンビニの駐車場でお喋りをしている彼らを心配していたとのこと。中には両親と上手くいっておらず、帰りたがらない者もいたようだ。 
 彼はそんな彼らの話を聞いてくれることもあったらしい。そして彼のくれたアドバイス通りに親に掛け合ってみたところ、仲が改善したという家庭もある。
『姫宮さんのアドバイスはすんなり受けられる。先生みたいに上から目線じゃないし、的外れでもないから』

 大抵家が嫌になるのは親が勉強しろと煩いからだ。そして干渉も関係するだろう。
 それに対し彼は『会社に例えて嫌な気持ちを表現し、親に共感を得てみろ』とアドバイスをくれたらしい。
 つまり『自分が会社で上司にそういう言われ方をしたらどうなのか』と反論してみればいいと言うことだ。職場で仕事に来ている人間に対し、仕事しろなどといちいち言わないはず。思うように進まなければ分からないことは聞けと言うだろうし、能率が悪ければアドバイスをするだろう。
 職場で大切なのは人間関係と信頼関係なはず。
 何も教えてくれない相手に仕事を押し付けられたところで、嫌な気分にしかならないはずだ。

 子供に煙たがれる親は言い方を間違っている。接し方を間違っているのだ。
 子供と言えど所有物ではなく、思想や心を持った人間。思いやりを持って接しないから嫌がられる。つまり、相手を人間扱いしないから子供に嫌われているのだ。
『姫宮さんも親と上手くいってないのかなって思ったんだよね』
 中学生の言葉に陽菜が苦笑いを浮かべる。
 あながち間違ってはいないのだろう。

「しかし、ホント会わないものだな」
「2年前のことだから、今は大学生か社会人かもしれないわ」
「今でも来ているとは言っていたけれど、曜日も同じなのかな」
 戀がコンビニの中に視線を走らせる。
「それにしても、やっぱり兄はあれからここへは来ていないのね」
 例のコンビニ店員は一応このコンビニで働いている全従業員に陽菜の兄を見かけたか確認してくれたらしい。なんとも親切な人だ。
「そうだね」

 がっかりはしたものの『11月22日』がカギになっているとも言える。
「月曜から木曜までは会わないとなると、残りは金曜から日曜ということになるけれど」
 コンビニ店員の話では、彼らもまた食品を買って外で食しながらしばらく話をし、帰るような感じだったらしい。
「中学生たちは部活はしていないと言っていたね」
「ええ」
「部活をしていたとして……」
「23年4月から日本の法律では、部活は平日は2時間までと定められているみたい」
 高校はその学校によって違いはあるが、12時間目などがあるところでない限り大体16時過ぎには7時間目が終わる。
 完全下校時間にも幅があり、20時ごろが完全下校時間となるところもあるようだ。

 酔っていた陽菜の兄がコンビニに寄ったのは21時前後。それを推定して連日21時過ぎまで時間を潰していた二人だったが。
「その高校生たちって言うのは女子なんだっけ」
「うん、そう言っていたわね」
「女子高生……?」
 戀はスマホの画面を見つめながら思わず呟く。
 ”当たり前だろう”とでも言うようにこちらを見る陽菜に、戀はスマホの画面を見せる。
「あ、そうなの?! そっかあ、そうだね」
 画面を見た陽菜は何かに気づき、戀と顔を見合わせたのだった。
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