【完結】心打つ雨音、恋してもなお

crazy’s7@体調不良不定期更新中

文字の大きさ
53 / 72
9話 過去と対峙して

5 突然の再会

しおりを挟む
 医院に問い合わせをし、その結果が分かったらまた連絡すると言われ、戀《れん》は久々に一人の日曜を過ごすことになった。
 とは言え陽菜《はるな》に出逢う前も出逢った後も、一人で過ごす休日にあまり変わりはないように思う。いつものように叔母がマスターを務める珈琲店でのんびりと紅茶を嗜んでいると、暇なのか隣に叔母が腰かけた。

「あなたねえ、いい加減デートくらい誘いなさいよ」
「叔母さんを?」
 雑誌から顔を上げ叔母の方に視線を向けると呆れ顔でやれやれというポーズをする彼女が視界に入る。
「何アホなこと言ってるの。陽菜ちゃんを、よ」
「そんな状況じゃないでしょ」
 戀はため息を零すと再び雑誌に視線を戻した。

「確かにお兄さんを捜すの第一かもしれない。でもそればかりでは疲れてしまうんじゃないかしら。気分転換に何処かに連れて行ってあげたらいいじゃないの」
「俺が?」
 別にそれは自分が適役ではないと言う意味合いではない。
 むしろ捜索に深く関わっている自分とでは気分転換にならないのではないかという気持ちからだ。
「あなた以外に誰がいるのよ。呆れた子ね」
 それは恐らく戀が適役だという意味合いではない。”二人で話しているんだから、あなたのことでしょうよ”という意味だろう。
 そうは言われてもね、と思いながら雑誌のページを捲る。どこも秋真っ盛り……と言いたいところだがすでに冬はすぐそこまで来ていた。
 この寒い中、何処へ連れ出せと言うのだろうか。

 たまに天然な部分もあるが、優しくて聡明で思いやりのある陽菜。彼女と一緒にいると何故か心穏やかでいられた。
 だが今自分たちは行方不明になっている彼女の兄を捜している状況。
 いくら気分転換とは言え、楽しいことをしてはいけないのではないかと思ってしまう。なかなか進展しなくても、彼女は気落ちしているところを見せたりはしない。いや、気丈に振舞っていないと悪いことばかり考えてしまうのかもしれない。
 戀とて最悪の結末からは目を背けてきたのだ。家族ならなおさらだろう。
 もちろんそんな結末にならないことに越したことはないが、今自分に出来ること言えばその穏やかな状態に波風を立てないことくらいしかない。

 デートに誘うのは全てが解決してから。
 誘えるかどうかも分からないが。
 正直なところ、彼女が自分をどう思っているのかまったく分からない。叔母にそんなことを言えば、本人に聞いてみろと言われるのがオチだ。
 聞く勇気があるなら、とっくにそうしているだろう。
 いや、聞ける状況ではないと自分に言い訳する。

「ぐずぐずしていると機を逃して後悔することになるわよ」
 心底呆れたとでも言いたそうな声音で彼女は言うと立ち上がる。それと同時にドアベルがカランコロンと鳴った。お客が来たのだろう。
 時刻は8時前。随分と早い来店だなと思ったと同時に、この珈琲店が朝早くから開いていることを知っているのだとすれば常連客なのだろうとも思った。
「あら、久しぶりね」
 叔母の声が聞こえる。
 やはり常連客なのだろう。しかも久しぶりに来店したと思われる。

 叔母の話し相手はその人に任せればよいだろうと戀はポケットからスマホを取り出し、メッセージの確認をしようとした。
「戀」
 だが、背後から声をかけられて戀は固まる。
 まさかそんなはずはない。
 何故なら自分はあれから一度も連絡をしていないのだから。
 戀はぎぎぎと音がしそうなくらいぎこちなく振り返る。すると相手は満面の笑みを浮かべこちらを見降ろしていた。

「や、やあ」
 まるでアメリカ人のように片手をあげ挨拶してみる。
「なによ、それ。相変わらず西洋かぶれなの?」
 さも可笑しそうに笑う彼女。
「そういうわけじゃないよ。反応に困っただけ」
「そう。隣、いいわよね」
 ”用があるの”と言う彼女に戀は曖昧に頷く。突然の再会に動揺を隠せない戀とは裏腹に、始終笑顔を絶やさない彼女。なんだかやけに怖かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

処理中です...