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2 動き出した時間

2・【事情】

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 ****♡Side・利久

 ──カイ、なんであんなに圭一くんと仲悪いんだろう。

 本人は仲が悪いなどとは認めないが海斗と圭一の仲の悪さは、今に始まったことではない。
 とは言え、高等部の頃は校舎が違っていたからかここまでではなかった。海斗は無口でプライドが高く、利久以外には笑わない。
 一方【大崎圭一】はクールでカッコよくて、何でもできるがちょっと変わっている。
 似ている部分もあるが海斗は決して認めない。彼に対して劣等感を抱いていることは傍目からみても一目瞭然であるというのに。

「利久先輩。やっぱりここのとんかつ美味しいね」
 料理が運ばれてくると、いつもはツンとしている瀬戸が美味しそうにとんかつを頬張っていた。こんな時ばかりは年齢相応で可愛らしい。
 瀬戸は突然いなくなってしまった兄をたった一人で探している。彼の家族は失踪した兄をいないものとした。

 彼が甘えたりする様子は想像できないが、仲が良かったとは聞いている。その話を聞いたのは事情があって海斗と離れていた間のことなので、彼は知らないと思われる。

 ──瀬戸はきっと、早く大人にならなきゃいけなかったんだよね。

 家族に兄などいないという態度をとられ、悲しみを共有することすら出来なかったのだ。全て一人で抱え、感情を胸にしまい込んだ。
「瀬戸はこの後どうするんだ?」
 と海斗。
「んー。ちょっと調べものして帰る」
「気を付けて帰れよ」
「ん」

 食事を終えて瀬戸と別れる。遅くなりそうなら、うちに来いと声をかけて。現在利久は海斗と二人暮らしをしている。
「何かいるか?」
 駅前を手を繋いで歩くのは幸せだ。
 スーパーマーケットを差しながら海斗に問われ、
「一応寄ってみる」
 と答えた。
 何気ない日常が幸せなのだ。
「桃」
 海斗は缶詰コーナーで立ち止まる。彼は桃が好物であった。
「買って行く?」
「そうだな」
 と言って彼が缶を掴んだときだった。
「買い物?」
 と声をかけられたのは。
 よく知った声に海斗の動きが止まる。

「クソ圭一。何故ここにいる」
 そう、海斗の苦手【大崎圭一】だ。利久は圭一に向かってちょこんとお辞儀する。
「何故って、弟たちに土産を買う為だ」
 現在圭一の暮らす屋敷では住み込みの従業員二十名以上と実の弟、その恋人と弟の親友が暮らしていた。別にセレブだから沢山従業員がいるわけではない。確かに敷地面積は広すぎるが。圭一は六歳の時に母親を病気で喪っている。その時弟はまだ三歳。

 四歳の誕生日に、
『何が欲しい?』
 と聞いたところ、
『ママに会いたい』
 と答えたらしい。
 それを聞いた彼の父、大崎グループの社長は住み込みの従業員をたくさん雇って屋敷を賑やかにしようとしたらしい。
「相変わらず、ブラコンだな」
「やかましい」
 そして、相変わらず二人は仲が悪かったのだった。
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