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2『板井と唯野』
4 唯野の違和感
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****side■塩田
「なんでなの? なんで?!」
「電車ちょっと煩い、黙って」
何故を連発する、隣のデスクの電車に苦情を投げ、視線を唯野に移す。
「だって、お通夜みたいだよ? どういうこと?」
「仕事しろよ、電車」
板井からも苦情が飛んでくる。電車は眉を寄せて口を膨らませた。可愛い顔が台無しだ。
それというのも、唯野が全く喋らないからである。彼らがどんなに騒がしくしても、唯野は我関せずといった風で黙々と仕事をこなしていた。
──板井絡みなのは予想がつくけれど、一体何があったんだ?
さすがの塩田も心配になる。板井は気にしている様子をみせずいつも通りに見えた。むしろ何かを吹っ切ったようにすら見える。
──まさかとは思うけど、板井が課長をフった? まさかな。
板井が唯野に想いを寄せていたのであって、その逆ではなかったはずだ。しかし状況はその可能性を示している。どうなってるんだ、一体と塩田は心の中で頭を抱える。
「課長、今日呑みに行こうよー」
この雰囲気に耐えられないのか、電車が唯野にそう声をかけた。空気読もうや! というように塩田が電車のほうに視線を送るが。
「悪い、今日は用事がある」
と普通に返事が来る。
これに驚いたのは、板井だ。
「用事……?」
と呟くように問う。
そこで唯野が板井に笑顔を向けた。優しい笑みを。
「なんだ、板井も行きたかったのか?」
と。
塩田は違和感を覚えた。
──なんだ? 今の。
まるで、ヤキモチでも妬かせようとしているように見えたからだ。
「ごめんな、今日は外せない用があるんだ」
極めて穏やかだが、挑戦的に見える唯野。二人の間に何があったか、ますます気になる塩田。
「あ、課長! デートでしょ」
と電車が茶々を入れる。
彼は板井の気持ちを知らないので致し方ないが。
「はは。そんなんじゃないよ」
と笑う唯野を、じっと見つめる板井の視線が怖い。
そうこうしているうちに、終業のチャイムが鳴り、
「さて帰るぞ」
とさっさと帰り支度をし、立ち上がる唯野。
お先と言ってそのまま苦情係を出ていこうとする。塩田は思わず彼を追いかけた。
「課長」
商品部を通り抜け、廊下に出たところで彼に追いつく。
「塩田か」
「何かあった? 板井と」
単刀直入に質問すれば、彼は自嘲気味に笑みを浮かべた。
「塩田、俺」
小さなため息。
「板井のことが好きなんだ」
「え?」
何がどうなってこうなっているのか解りかねたが、それは良いことに思える。
──俺が手を貸すまでもなかったな。
そう思ったのもつかの間。
「でも、フラレたみたいだ」
と彼が言葉を続けたからである。
「は?!」
そこでふと思い出す。自分と板井の関係を。確かお試しでお付き合いしていたはずだ。すっかり忘れていたが。
「待て、俺と板井はなんでもないぞ?」
板井は真面目な男だ。まさか自分とお付き合いしているからと、唯野のフッたのではないかと思ったのである。
そもそも塩田は二人をくっつけてやろうと思い、板井の冗談に乗っただけなのだ。
「なんの話だ?」
と唯野。
まずいことを言ってしまったと思っていると、
「とりあえず、またな」
と唯野のほうが慌てて歩き出す。
どうやら板井に追いつかれたくないらしい。塩田は仕方なく、唯野を解放するのだった。
「なんでなの? なんで?!」
「電車ちょっと煩い、黙って」
何故を連発する、隣のデスクの電車に苦情を投げ、視線を唯野に移す。
「だって、お通夜みたいだよ? どういうこと?」
「仕事しろよ、電車」
板井からも苦情が飛んでくる。電車は眉を寄せて口を膨らませた。可愛い顔が台無しだ。
それというのも、唯野が全く喋らないからである。彼らがどんなに騒がしくしても、唯野は我関せずといった風で黙々と仕事をこなしていた。
──板井絡みなのは予想がつくけれど、一体何があったんだ?
さすがの塩田も心配になる。板井は気にしている様子をみせずいつも通りに見えた。むしろ何かを吹っ切ったようにすら見える。
──まさかとは思うけど、板井が課長をフった? まさかな。
板井が唯野に想いを寄せていたのであって、その逆ではなかったはずだ。しかし状況はその可能性を示している。どうなってるんだ、一体と塩田は心の中で頭を抱える。
「課長、今日呑みに行こうよー」
この雰囲気に耐えられないのか、電車が唯野にそう声をかけた。空気読もうや! というように塩田が電車のほうに視線を送るが。
「悪い、今日は用事がある」
と普通に返事が来る。
これに驚いたのは、板井だ。
「用事……?」
と呟くように問う。
そこで唯野が板井に笑顔を向けた。優しい笑みを。
「なんだ、板井も行きたかったのか?」
と。
塩田は違和感を覚えた。
──なんだ? 今の。
まるで、ヤキモチでも妬かせようとしているように見えたからだ。
「ごめんな、今日は外せない用があるんだ」
極めて穏やかだが、挑戦的に見える唯野。二人の間に何があったか、ますます気になる塩田。
「あ、課長! デートでしょ」
と電車が茶々を入れる。
彼は板井の気持ちを知らないので致し方ないが。
「はは。そんなんじゃないよ」
と笑う唯野を、じっと見つめる板井の視線が怖い。
そうこうしているうちに、終業のチャイムが鳴り、
「さて帰るぞ」
とさっさと帰り支度をし、立ち上がる唯野。
お先と言ってそのまま苦情係を出ていこうとする。塩田は思わず彼を追いかけた。
「課長」
商品部を通り抜け、廊下に出たところで彼に追いつく。
「塩田か」
「何かあった? 板井と」
単刀直入に質問すれば、彼は自嘲気味に笑みを浮かべた。
「塩田、俺」
小さなため息。
「板井のことが好きなんだ」
「え?」
何がどうなってこうなっているのか解りかねたが、それは良いことに思える。
──俺が手を貸すまでもなかったな。
そう思ったのもつかの間。
「でも、フラレたみたいだ」
と彼が言葉を続けたからである。
「は?!」
そこでふと思い出す。自分と板井の関係を。確かお試しでお付き合いしていたはずだ。すっかり忘れていたが。
「待て、俺と板井はなんでもないぞ?」
板井は真面目な男だ。まさか自分とお付き合いしているからと、唯野のフッたのではないかと思ったのである。
そもそも塩田は二人をくっつけてやろうと思い、板井の冗談に乗っただけなのだ。
「なんの話だ?」
と唯野。
まずいことを言ってしまったと思っていると、
「とりあえず、またな」
と唯野のほうが慌てて歩き出す。
どうやら板井に追いつかれたくないらしい。塩田は仕方なく、唯野を解放するのだった。
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