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27)坂と青空と、自転車とスカート
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自転車を発明したのはドイツ人らしい。「自転車、発明」で検索してトップに出てきたネット情報なので、こんな薄い情報、誰でも簡単に辿り着くわけであるが。
まあ、知らない人だってたくさんいるだろうから、僕が偉そうに教えるけれど、その人の名前はドライス男爵。
彼はちなみにタイプライターも発明したそうだ。
この作品はドライスさんにも捧げたい。
しかしドライス男爵はペダルまでは思いつかなかったようだ。彼の発明した自転車は、足で地面を蹴りながら移動するというスタイル。
ペダル付き自転車を発明したのはパリのミショー親子。
ミショー親子にも捧げよう。
ああ、それにしても自転車は何という装置なのだろうか。
それは制服女子の敵なのだろうか、味方なのだろうか。
いや、まあ、別にどちらでもなく、ただの交通手段だけど。
ゆかりちゃんのスカートは大きな風にあおられて、本当なら隠さなければいけないはずの下着を、この太陽の下に晒してしまった。
(まあ、下着ではなくて水着なのだけど。しかしスカートの下の履いているものは全て下着に分類すればいいのだ!)
それは特別な時間だった。この坂が永遠に続けばいいのになんて僕は思ってしまった。だったら、何度も何度も、僕は幸せを体験出来る。
ずっと見えているわけではない。特別な風に吹かれたときだけにめくれ上がる。
十数秒に一度、それも一瞬の出来事だ。
ああ、もうこれで終わりかなと思ったとき、「いいえ、まだあるわ」とばかりに、さっと神風が吹いたりする。しかし吹き続けているかと思うと、ぱたりと止む。
焦らされ、勿体つけられ、そうかと思うと、惜しみなく与えられ。僕はゆかりちゃんのスカートの翻弄されまくっている。
坂を登り切って、ゆかりちゃんがサドルに座ってしまうまでの時間、それはどれくらいだったろうか。一分も満たない?
しかしこの数十秒は本当にエキサイティングな時間だった。
「もう一回坂のシーンを撮ろう」なんて言えるわけがない。ゆかりちゃんが坂を上るシーンを何度も何度も追いかけたいけれど、しかしスケジュールは押し迫っているのだ。次のシーンに取り掛からなければいけない。
それに僕が望む絵は撮れた。
「オッケー!」
僕は言う。ゆかりちゃんが頬を赤らめながら、自転車を押して戻ってくる。
彼女も風の犯した悪戯を自覚しているのだろう。僕のカメラがどのような映像を撮ったかということも。それを理解して、彼女は恥ずかしそうにしている。
「ありがとう、ゆかりちゃん! さあ、撮影は順調だ。次のシーンに移行しよう!」
僕はこの青空のように爽やかに声を上げる。
ゆかりちゃんを辱めてはいけない。健全、健康、明朗。その感じで彼女を包んであげたい。
風に頼って、彼女のスカートの中を撮影した男なんて思われたくない。思わしてはいけない。
しかし、僕の近くに、とんでもなく不健全で、不健康で、陰湿な男がいたのだった。そいつはゆかりちゃんをじっとりとした目で見て、「はあはあ」と言ってる。
あのADだ。
僕は彼の下半身に目をやってしまった。それはとんでもない形に怒張していた。彼もさりげなく隠そうとしてはいるが、少しも隠し切れていない。
(何てことだ、この野郎!)
僕は怒りで舌打ちしてしまいそうになった。
こんな男を、ゆかりちゃんに見せてはいけない。近づけてはいけない。
いや、確かに僕だってこの男と同じなのだけど。
この世の男を興奮させるために、この作品を作っているのだけど。
しかし隠せよって、っていうか、場を弁えろよ!
どうにかしてクビに出来ないだろうか。追い出せないだろうか。
しかし現場は人手不足だ。それに、僕は彼の上司ってわけでもない。
とにかく、僕は彼女の意識を逸らすように、そのADと彼女の間に立つ。そして次のシーンの撮影プランを彼女に語る。
「さあ、次の現場は公園だよ。美咲ちゃんと待ち合わせして、ちょっとだけ公演の遊戯で遊ぶのさ」
「は、はい」
彼女は気づいてはいないだろうか。こんなものを見てしまえば、この撮影自体、嫌になってしまう。マジで勘弁してくれよ。
「ちょっと、トイレ行ってくるっす」
僕に報告するためというほど明瞭な口調ではなかった。しかしそのADがそんなことを言ったようだ。そして彼はバイクで走り出した。
ああ、さっさといなくなれ。僕はそう思うが、トイレで何をやろうとしているのかに思い至って、愕然とする。
奴はマジでヤバい。
まあ、知らない人だってたくさんいるだろうから、僕が偉そうに教えるけれど、その人の名前はドライス男爵。
彼はちなみにタイプライターも発明したそうだ。
この作品はドライスさんにも捧げたい。
しかしドライス男爵はペダルまでは思いつかなかったようだ。彼の発明した自転車は、足で地面を蹴りながら移動するというスタイル。
ペダル付き自転車を発明したのはパリのミショー親子。
ミショー親子にも捧げよう。
ああ、それにしても自転車は何という装置なのだろうか。
それは制服女子の敵なのだろうか、味方なのだろうか。
いや、まあ、別にどちらでもなく、ただの交通手段だけど。
ゆかりちゃんのスカートは大きな風にあおられて、本当なら隠さなければいけないはずの下着を、この太陽の下に晒してしまった。
(まあ、下着ではなくて水着なのだけど。しかしスカートの下の履いているものは全て下着に分類すればいいのだ!)
それは特別な時間だった。この坂が永遠に続けばいいのになんて僕は思ってしまった。だったら、何度も何度も、僕は幸せを体験出来る。
ずっと見えているわけではない。特別な風に吹かれたときだけにめくれ上がる。
十数秒に一度、それも一瞬の出来事だ。
ああ、もうこれで終わりかなと思ったとき、「いいえ、まだあるわ」とばかりに、さっと神風が吹いたりする。しかし吹き続けているかと思うと、ぱたりと止む。
焦らされ、勿体つけられ、そうかと思うと、惜しみなく与えられ。僕はゆかりちゃんのスカートの翻弄されまくっている。
坂を登り切って、ゆかりちゃんがサドルに座ってしまうまでの時間、それはどれくらいだったろうか。一分も満たない?
しかしこの数十秒は本当にエキサイティングな時間だった。
「もう一回坂のシーンを撮ろう」なんて言えるわけがない。ゆかりちゃんが坂を上るシーンを何度も何度も追いかけたいけれど、しかしスケジュールは押し迫っているのだ。次のシーンに取り掛からなければいけない。
それに僕が望む絵は撮れた。
「オッケー!」
僕は言う。ゆかりちゃんが頬を赤らめながら、自転車を押して戻ってくる。
彼女も風の犯した悪戯を自覚しているのだろう。僕のカメラがどのような映像を撮ったかということも。それを理解して、彼女は恥ずかしそうにしている。
「ありがとう、ゆかりちゃん! さあ、撮影は順調だ。次のシーンに移行しよう!」
僕はこの青空のように爽やかに声を上げる。
ゆかりちゃんを辱めてはいけない。健全、健康、明朗。その感じで彼女を包んであげたい。
風に頼って、彼女のスカートの中を撮影した男なんて思われたくない。思わしてはいけない。
しかし、僕の近くに、とんでもなく不健全で、不健康で、陰湿な男がいたのだった。そいつはゆかりちゃんをじっとりとした目で見て、「はあはあ」と言ってる。
あのADだ。
僕は彼の下半身に目をやってしまった。それはとんでもない形に怒張していた。彼もさりげなく隠そうとしてはいるが、少しも隠し切れていない。
(何てことだ、この野郎!)
僕は怒りで舌打ちしてしまいそうになった。
こんな男を、ゆかりちゃんに見せてはいけない。近づけてはいけない。
いや、確かに僕だってこの男と同じなのだけど。
この世の男を興奮させるために、この作品を作っているのだけど。
しかし隠せよって、っていうか、場を弁えろよ!
どうにかしてクビに出来ないだろうか。追い出せないだろうか。
しかし現場は人手不足だ。それに、僕は彼の上司ってわけでもない。
とにかく、僕は彼女の意識を逸らすように、そのADと彼女の間に立つ。そして次のシーンの撮影プランを彼女に語る。
「さあ、次の現場は公園だよ。美咲ちゃんと待ち合わせして、ちょっとだけ公演の遊戯で遊ぶのさ」
「は、はい」
彼女は気づいてはいないだろうか。こんなものを見てしまえば、この撮影自体、嫌になってしまう。マジで勘弁してくれよ。
「ちょっと、トイレ行ってくるっす」
僕に報告するためというほど明瞭な口調ではなかった。しかしそのADがそんなことを言ったようだ。そして彼はバイクで走り出した。
ああ、さっさといなくなれ。僕はそう思うが、トイレで何をやろうとしているのかに思い至って、愕然とする。
奴はマジでヤバい。
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