天使たちの水浴びシーン

アッシュ出版

文字の大きさ
6 / 92

6)駄目なイメージビデオ、三か条

しおりを挟む
 それからもう一つ、僕は担当さんにお願いしたいことがあった。
 これまで散々我儘を聞いてもらい、更にまた要望を聞いていただくのは申し訳ない気持であったが、提案しないわけにはいかない。
 これは素晴らしい作品を作るためには、何がなんでも必要なアイデアだから。

 僕が思う駄目なイメージビデオ作品、三か条というものがある。
 こういうパターンに陥っている作品は、残念な作品になり果ててしまうという三つの条件。

 その第一がこれ。女の子の顔にすぐ、パンしてしまうカメラマン、である。
 そもそもアイドルの女の子たちは、カメラ目線をしたがる。自分の顔をアピールしたがる生き物なのである。
 それは多分、自分の顔こそ最大の魅力だと思っているからであろう。

 でも大いなる勘違いだ。僕たちが見たいのは君の顔じゃない。おっぱいなんだ。お尻なのだ。脇腹なんだ。足の裏なんだ! 
 いや、もちろん顔も重要だよ。もっと正確に言うと、かわいい女の子のおっぱいであり、お尻である。それは事実なんですけどね。
 でもイメージビデオは、身体こそ最重要アイテム。

 とにかく女の子たちはカメラ目線をしたがる。たとえば、カメラマンがおっぱいにフォーカスしているとき、必死にカメラを覗き込むような動作をする。
 するとカメラマンも優しいからなのか、それともジュニアアイドルのおっぱいをアップで撮影している自分が恥ずかしくなってしまうのか、すぐにおっぱいからカメラを引き上げて、顔にパンしてしまう。
 その結果、胸の谷間のカットはわずか、女の子の笑顔ばかりの駄目イメージビデオが出来上がってしまうわけである。

 彼女たちが見て欲しいのは、「自分の顔」だ。
 それは仕方がない。自分の容姿に自信があればある程、その気持ちは強いだろう。それは理解出来る。
 でもアイドルの女の子からの、その圧力に屈してしまったら、優れたイメージビデオは絶対に作れない。

 もっと私の顔を撮って。
 もっとかわいい私を撮影しなさい。
 女の子からのそのアピール、それを撥ね退けるような強い意志を持ったカメラマンが必要だ。

 必死でカメラにアピールして、笑顔を作っているアイドルちゃんを無視して、じっとおっぱいを取り続けることが出来るカメラマン。そういう男が必要です! 

 僕は担当者さんに向かってそれを説明した。
 そもそも僕は口下手だし、何となくややこしい話しなので、説明するのに苦労したけれど、優しい担当者さんはまたもや一つ返事で回答をくれた。

 「わかりました。撮影の前にカメラマンさんに言い聞かせましょう」

 「はい。わかってくれて嬉しいです!」

 「私だって出来るだけ良い作品を作りたいんです。出来るだけの協力がしたい」

 「実はカメラマン問題で、もう一つお願いがあるのです・・・」

 それに関してまだ更に、僕は優しい担当者んに向かって要望しなくてはいけないことがあった。ああ、何という厚かましさ。でも言わなくちゃいけない。

 「女の子の自分の顔を撮ってアピール、それに屈しない強いカメラマン。もちろんカメラマンさんに個人的努力を促すのも重要です。でも限界があると思うんです。思わず女の子の笑顔にカメラがいってしまうなんてことがきっと起きてしまう。でも、その問題を根本的に解決することが出来る作戦があるんです」

 僕は言った。

 「はあ、なんでしょうか?」

 「カメラマンを二人用意するんです。メインのカメラとサブのカメラってことです。二つのカメラがあれば、女の子もカメラ目線に必死になるということがなくなるはずです。万が一、一つのカメラで顔を撮ってしまっても、もう一個でばっちりと身体撮影可能のはず」

 「ああ、なるほど。しかしもう一人カメラマンを雇うのはね、さすがに予算が・・・」

 さすがにあの担当さんも口を濁らせた。

 「はい、わかっています。でも大丈夫、それも僕がやりますから」

 しかし僕は言う。僕自らでカメラを回すのだ。

 「でも監督の仕事が疎かになりませんか?」

 「ずっと回しません。ここぞというときだけなので。でも画質を落としたくないので、メインもカメラも同じカメラで撮りたい。それだけです! 僕のお願いは!」

 これが叶えば、本当の女の子の真実が撮れるんです! 多角的に撮影出来るというか、何というか。
 きっと誰も見たことがないような素晴らしい作品が出来るはずです! 

 はいはい、いいですよ。それでいきましょう。
 担当者さんはこの提案も呑んでくれた。

 「あっ、そういえば言い忘れてましたけど」

 その打ち合わせの帰り際、担当者さんが僕を呼び止めた。

 「同時に三つのビデオを作りましょうって言ったましたよね、でもあれ、なしの方向で」

 「はあ?」

 椎名美咲ちゃんのソロ、新人さんのソロ、そして二人が競演している作品、その三通りを作るってことになっていた。
 一本につき7シーン。作品は三本だから21シーン必要。まだ21のアイデア全て用意していたわけではなかったのだけど、それに向かって僕は我武者羅に努力していた。

 「あれはなしで」

 しかし担当者さんは言う。

 「えーと、つまり」

 「共演作一本だけってことになりましたんで。普通、無理でしょ、新人ディレクターに三本なんて」

 「それはそうですよね」

 「そういうことになりましたから」

 「わ、わかりました」

 帰り際にギリギリ思い出すことかよ、おい! 最初に言ってくれよ、そんな重要なことは。
 僕はそう思うのだけど、まあ、いいか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...