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48)美咲ちゃんの愛のこもった眼差し
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そういえば二台のカメラ、それがこの作品の特徴でもあった。
すっかり忘れていた。
僕はただの傍観者に成り下がってしまって、ただ美咲ちゃんが制服を脱ごうとしている姿を見惚ていた。
しかし興奮が度を越したせいで、逆に忘れていたことを思い出したというか、カメラを持って自分でも撮影したい欲が爆発して、この作品の当初のコンセプトを思い出したというか。
僕はカメラを持って、すぐに撮影を始める。
すると美咲ちゃんがそんな僕に気づいて、にじり寄ってきた。
僕に向かって?
違うだろう、カメラに向かってだ。
それはわかっている。
しかし僕は美咲ちゃんとつながったような感覚を感じた。
つまり、カメラを持った瞬間、いや、それに美咲ちゃんが気づいて、そのカメラを意識し出した瞬間、それから僕もこの作品世界の一部というか、参加者になったかのような。
撮影が始まってから、僕はずっと興奮はしていた。冷静だったり、退屈したりなんて一切なかったけど、美咲ちゃんが僕のカメラを意識して、艶めかしい視線を送ってきたからは、もう本当にザワザワ感が段違いだ。
手の汗が凄い。身体中が熱くて、燃えるようだ。
だってあの美咲ちゃんはこっちを見つめてくるんだ。ただ見るだけじゃなくて、何か大きな感情を蠢かせながら。
石コロとか、雑草とか、虫けらを見るような眼差しでは全然ない。
普段の僕が目にする異性からの視線なんていつもそんな感じだけど・・・、しかし美咲ちゃんの瞳はそんなではなかった。
何やら、「愛しのダーリン」とかってつぶやいてきそうな表情。
きっと美咲ちゃんに恋人が出来たら、彼女はソファとかベッドの上で、そんな眼差しを愛しのダーリンに向けて、キスとかしたりするんだろうなあ。
そんなこと、僕はこれまで一度たりとも体験したことはない。
哀しいことに本当のことだ。一度もないんだ。
いや、しかし今、ある意味、それを味わっているのだ。美咲ちゃんが愛と切なさのこもった視線を向けてくる!
しかも、美咲ちゃんは制服のブラウスをのボタンを外したりして、胸元に隙間を開けて、そこから柔らか箇所を見せながら。
もう僕はいつ死んでもいいのかもしれない。むしろ死ぬべきかもしれない。
その愛と切なさに満ちた眼差しは、今は会えないゆかりちゃんへの感情。というのがこの作品の設定である。美咲ちゃんは見事にそれに沿った表情をしてくれている。
だけど僕はもうそんなことを忘れそうになっている。何せその愛の視線を僕に向けてきてくれるのだから。
実際にはカメラなのだけど。でもそんなものは意識されず、僕はもう直接見つめ合っている気分。
しかし突然だった。別に何かのきっかけがあったわけでは全然ないと思うのだけど、美咲ちゃんは僕を無視し出したのだ。
僕をカメラを一切見ずに、もう一人のカメラマンさんのカメラばかりに視線を送り出した。
マジかよ、美咲ちゃん、いったいどうしてしまったんだ?
寂しいような悲しいような気持ちで、ガックシと落ち込みそうになる。僕は本当に寂しくて、「こっちを見てくれ」アピールまでしてみせる。
それでも美咲ちゃんは僕のカメラを見ない。
そんなに僕の振る舞いが気持ち悪かったのだろうか。いや、何らかの演出的な意図を持って、僕のカメラを見るのを止めたに違いないことに、さすがの僕も察知する。
何も意地悪されているわけじゃない。当たり前じゃないか、そんなこと。所詮、セカンドカメラマンってことなのだろう。美咲ちゃんははっきりした性格だ。ここからはメインのカメラにだけ集中しようと決めたのだろう。
だったらそれでいい。僕はそれをポジティブに受け取ろう。別の角度から、美咲ちゃんを撮影する。これはそのチャンスなのだ。
そう決心した途端、僕のプロ意識がムクムクと頭をもたげてくる。今までのイメージビデオになかったような絵を撮ってやる!
いや、この撮影にプロ意識なんか無関係かもしれない。むしろ今こそ、自分の欲望を満たすチャンスではないのか?
美咲ちゃんを色んな方向から好き勝手に撮るチャンスなのだ!
好き勝手と言っても、カメラマンさんのカメラの中に、僕の姿が入ってしまえば終わりだ。
それでNG。もう使えない素材となってしまう。これは本当に最悪なことで、こういうことになると、どれだけこの現場に迷惑をかけてしまうか計り知れない。
その視界の中に入ってしまわないように、それでいてバッチリと美咲ちゃんの肢体を捉えるポジショニング。
つまり、出来るだけ身体を屈めて、それどころか机の下に隠れたりして。
自然とそれは、「盗み撮り」ふうになってしまうだろう。
だけど、それは僕の本来の性に合致したスタイル。
真っ向から女の子に見つめられて、コミュニケーションを取れるタイプじゃない。
哀しいことに、そう。いつだって僕は隠れながら、盗み見する男。
横顔、後ろ姿、ローアングル。それこそが我がスタイル。
カメラマンさんのカメラに写ってはいけない。僕は隠れなければいけない。
その大義名分のもと、僕はたくさんのスタッフさんに囲まれ、ゆかりちゃんにも見られながら、匍匐前進をしたり、コソコソと机の下に潜り込んだりして、美咲ちゃんの身体にカメラを向ける。
「こいつ、何なんだ?」て、彼らに思われているかもしれないけど。
しかしこっちからすれば、「向うのカメラに映らないように頑張っているだけです」という言い分がある。だからもう本当に好き勝手に撮らせてもらったよ。
すっかり忘れていた。
僕はただの傍観者に成り下がってしまって、ただ美咲ちゃんが制服を脱ごうとしている姿を見惚ていた。
しかし興奮が度を越したせいで、逆に忘れていたことを思い出したというか、カメラを持って自分でも撮影したい欲が爆発して、この作品の当初のコンセプトを思い出したというか。
僕はカメラを持って、すぐに撮影を始める。
すると美咲ちゃんがそんな僕に気づいて、にじり寄ってきた。
僕に向かって?
違うだろう、カメラに向かってだ。
それはわかっている。
しかし僕は美咲ちゃんとつながったような感覚を感じた。
つまり、カメラを持った瞬間、いや、それに美咲ちゃんが気づいて、そのカメラを意識し出した瞬間、それから僕もこの作品世界の一部というか、参加者になったかのような。
撮影が始まってから、僕はずっと興奮はしていた。冷静だったり、退屈したりなんて一切なかったけど、美咲ちゃんが僕のカメラを意識して、艶めかしい視線を送ってきたからは、もう本当にザワザワ感が段違いだ。
手の汗が凄い。身体中が熱くて、燃えるようだ。
だってあの美咲ちゃんはこっちを見つめてくるんだ。ただ見るだけじゃなくて、何か大きな感情を蠢かせながら。
石コロとか、雑草とか、虫けらを見るような眼差しでは全然ない。
普段の僕が目にする異性からの視線なんていつもそんな感じだけど・・・、しかし美咲ちゃんの瞳はそんなではなかった。
何やら、「愛しのダーリン」とかってつぶやいてきそうな表情。
きっと美咲ちゃんに恋人が出来たら、彼女はソファとかベッドの上で、そんな眼差しを愛しのダーリンに向けて、キスとかしたりするんだろうなあ。
そんなこと、僕はこれまで一度たりとも体験したことはない。
哀しいことに本当のことだ。一度もないんだ。
いや、しかし今、ある意味、それを味わっているのだ。美咲ちゃんが愛と切なさのこもった視線を向けてくる!
しかも、美咲ちゃんは制服のブラウスをのボタンを外したりして、胸元に隙間を開けて、そこから柔らか箇所を見せながら。
もう僕はいつ死んでもいいのかもしれない。むしろ死ぬべきかもしれない。
その愛と切なさに満ちた眼差しは、今は会えないゆかりちゃんへの感情。というのがこの作品の設定である。美咲ちゃんは見事にそれに沿った表情をしてくれている。
だけど僕はもうそんなことを忘れそうになっている。何せその愛の視線を僕に向けてきてくれるのだから。
実際にはカメラなのだけど。でもそんなものは意識されず、僕はもう直接見つめ合っている気分。
しかし突然だった。別に何かのきっかけがあったわけでは全然ないと思うのだけど、美咲ちゃんは僕を無視し出したのだ。
僕をカメラを一切見ずに、もう一人のカメラマンさんのカメラばかりに視線を送り出した。
マジかよ、美咲ちゃん、いったいどうしてしまったんだ?
寂しいような悲しいような気持ちで、ガックシと落ち込みそうになる。僕は本当に寂しくて、「こっちを見てくれ」アピールまでしてみせる。
それでも美咲ちゃんは僕のカメラを見ない。
そんなに僕の振る舞いが気持ち悪かったのだろうか。いや、何らかの演出的な意図を持って、僕のカメラを見るのを止めたに違いないことに、さすがの僕も察知する。
何も意地悪されているわけじゃない。当たり前じゃないか、そんなこと。所詮、セカンドカメラマンってことなのだろう。美咲ちゃんははっきりした性格だ。ここからはメインのカメラにだけ集中しようと決めたのだろう。
だったらそれでいい。僕はそれをポジティブに受け取ろう。別の角度から、美咲ちゃんを撮影する。これはそのチャンスなのだ。
そう決心した途端、僕のプロ意識がムクムクと頭をもたげてくる。今までのイメージビデオになかったような絵を撮ってやる!
いや、この撮影にプロ意識なんか無関係かもしれない。むしろ今こそ、自分の欲望を満たすチャンスではないのか?
美咲ちゃんを色んな方向から好き勝手に撮るチャンスなのだ!
好き勝手と言っても、カメラマンさんのカメラの中に、僕の姿が入ってしまえば終わりだ。
それでNG。もう使えない素材となってしまう。これは本当に最悪なことで、こういうことになると、どれだけこの現場に迷惑をかけてしまうか計り知れない。
その視界の中に入ってしまわないように、それでいてバッチリと美咲ちゃんの肢体を捉えるポジショニング。
つまり、出来るだけ身体を屈めて、それどころか机の下に隠れたりして。
自然とそれは、「盗み撮り」ふうになってしまうだろう。
だけど、それは僕の本来の性に合致したスタイル。
真っ向から女の子に見つめられて、コミュニケーションを取れるタイプじゃない。
哀しいことに、そう。いつだって僕は隠れながら、盗み見する男。
横顔、後ろ姿、ローアングル。それこそが我がスタイル。
カメラマンさんのカメラに写ってはいけない。僕は隠れなければいけない。
その大義名分のもと、僕はたくさんのスタッフさんに囲まれ、ゆかりちゃんにも見られながら、匍匐前進をしたり、コソコソと机の下に潜り込んだりして、美咲ちゃんの身体にカメラを向ける。
「こいつ、何なんだ?」て、彼らに思われているかもしれないけど。
しかしこっちからすれば、「向うのカメラに映らないように頑張っているだけです」という言い分がある。だからもう本当に好き勝手に撮らせてもらったよ。
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