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62)テニスのユニフォームかバドミントンのユニフォームか
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「オッケー。よし、次は何だっけ、バトミントンのシーンか。それさあ、テニスに変えようや。俺はそっちが好きなんだよな。何でバトミントンなんてマイナースポーツ選んじゃったの? テニスのほうが良いよな、絶対」
プールサイドでの撮影が終わり、次の現場へ移動というときに、新監督がそんなことを言い出した。
スタッフ一同は呆気に取られている。
こいつ、何を言い出すんだって感じだ。
この企画者の僕も当然、困惑している。その困惑は、きっとスタッフさんたち以上。
ゆかりちゃんがバトミントン部なのである。
どうせなら美咲ちゃんかゆかりちゃんに馴染みのあるスポーツを選ぼうということで、バトミントンをやっているシーンを撮るということに相成ったわけである。
何となくバドミントンにしたわけじゃない。
それにバトミントンは絶妙にキュートなスポーツではないか。卓球ほど閉じた感じではなくて、テニスほどオープンでアクティブでもない。
そのちょうど真ん中。体育会系部活でありながら文化部的に緩そうであり。
自分の恋人がバトミントン部だったら何だか丁度良い感じ。
いや、こんな観点でオリンピックの種目にもなっているスポーツを見ているなんて、失礼極まりないことかもしれないけど。
それよりも重要なことはイメージビデオとして、バドミントンのほうが絵的にタイトであること。
テニスとなると、ゆかりちゃんと美咲ちゃんはコートを挟んで、かなり離れ離れになる。撮影するとなると大変だ。
そに比べてバトミントンは距離的にかなり近くて、一つのカメラが二人を同時に捉えられるはずなのだ。
僕はちゃんとプロフェッショナルに思考しているんだ。
それなのに新監督は、僕のその意図を汲もうとせずに、気まぐれに企画を変更し出す。
担当者さんもひどく慌てた様子で、新監督に近寄っていった。
「僕もテニスのほうが好きです。バトミントンなんてピンと来てませんでした。でも衣装や小道具がありませんので、ええ、はい」
「衣装とか小道具なんて用意すればいいじゃんか。どっかで買ってこいよ。ここは東京だぜ。別に南の島とかじゃないでしょ。南の島でロケしてたら、俺だってそんなこと言わないさ。でも経済大国日本の首都だぜ」
「そ、その通りですけど、体育館で撮影の準備も整っていて、いますぐにでも撮れる状態で」
「この学校、テニスコートあったじゃん。そこで撮ろうよ」
「はい、良いコートがありました、しかし監督、時間の問題が」
「時間なんて二の次よ。作家というのはこだわりがあるんだよ。バトミントンは俺の世界観に合わないよ。テニスでいこうよ」
「そうですね」
「最悪の場合、バトミントンのユニフォームとラケットで、テニスをやるっていう解決法もあるしね。いや、それは本当に最後の手段な。とりあえず頑張ってテニスのユニフォームとか搔き集めて来て」
スピード優先の撮影だろ?
それがあんたの使命だろ?
僕は思っている。スタッフさんたちも内心苛ついているだろう。こいつ、マジで何を言い出していやがるんだ、って。
しかしこの新監督、別に頭がおかしくなったわけじゃない。
僕は思った。
これは周りを試しているな。
ちょっとした無茶を言って、自分についてくるかどうかを見ているんだ。
多分、彼はこの現場を気に入っていない。
美咲ちゃんもゆかりちゃんも、まだどこかよそよそしいのだと思う。
スタッフさんたち同じだ。彼らもこの突然の交代劇に困惑している様子なのだ。仕事だから頑張っているけど、心の底からは新監督を歓迎していない。
少なくとも、新監督自身はそう捉えている。「こいつら、まだ前任者への情を残しているな」って。
当事者である僕からすれば、そうは思えないよ。
美咲ちゃんもゆかりちゃんも僕を見捨てた。スタッフさんたちなんてもっと無慈悲。
そんなふうにしか思えなかったのだけど。
しかし新監督の要求は果てしない。あいつのことは完全に忘れろ。改めて俺を選び直せ!
きっと、この突然の企画変更にはそういう意味が含まれているんだ。
「わかりました、テニスの準備をしましょう」
担当者さんは新監督に屈したようだ。
「じゃあ、用意が終わるまで、ちょっと休憩だな」
「は、はい」
プールサイドでの撮影が終わり、次の現場へ移動というときに、新監督がそんなことを言い出した。
スタッフ一同は呆気に取られている。
こいつ、何を言い出すんだって感じだ。
この企画者の僕も当然、困惑している。その困惑は、きっとスタッフさんたち以上。
ゆかりちゃんがバトミントン部なのである。
どうせなら美咲ちゃんかゆかりちゃんに馴染みのあるスポーツを選ぼうということで、バトミントンをやっているシーンを撮るということに相成ったわけである。
何となくバドミントンにしたわけじゃない。
それにバトミントンは絶妙にキュートなスポーツではないか。卓球ほど閉じた感じではなくて、テニスほどオープンでアクティブでもない。
そのちょうど真ん中。体育会系部活でありながら文化部的に緩そうであり。
自分の恋人がバトミントン部だったら何だか丁度良い感じ。
いや、こんな観点でオリンピックの種目にもなっているスポーツを見ているなんて、失礼極まりないことかもしれないけど。
それよりも重要なことはイメージビデオとして、バドミントンのほうが絵的にタイトであること。
テニスとなると、ゆかりちゃんと美咲ちゃんはコートを挟んで、かなり離れ離れになる。撮影するとなると大変だ。
そに比べてバトミントンは距離的にかなり近くて、一つのカメラが二人を同時に捉えられるはずなのだ。
僕はちゃんとプロフェッショナルに思考しているんだ。
それなのに新監督は、僕のその意図を汲もうとせずに、気まぐれに企画を変更し出す。
担当者さんもひどく慌てた様子で、新監督に近寄っていった。
「僕もテニスのほうが好きです。バトミントンなんてピンと来てませんでした。でも衣装や小道具がありませんので、ええ、はい」
「衣装とか小道具なんて用意すればいいじゃんか。どっかで買ってこいよ。ここは東京だぜ。別に南の島とかじゃないでしょ。南の島でロケしてたら、俺だってそんなこと言わないさ。でも経済大国日本の首都だぜ」
「そ、その通りですけど、体育館で撮影の準備も整っていて、いますぐにでも撮れる状態で」
「この学校、テニスコートあったじゃん。そこで撮ろうよ」
「はい、良いコートがありました、しかし監督、時間の問題が」
「時間なんて二の次よ。作家というのはこだわりがあるんだよ。バトミントンは俺の世界観に合わないよ。テニスでいこうよ」
「そうですね」
「最悪の場合、バトミントンのユニフォームとラケットで、テニスをやるっていう解決法もあるしね。いや、それは本当に最後の手段な。とりあえず頑張ってテニスのユニフォームとか搔き集めて来て」
スピード優先の撮影だろ?
それがあんたの使命だろ?
僕は思っている。スタッフさんたちも内心苛ついているだろう。こいつ、マジで何を言い出していやがるんだ、って。
しかしこの新監督、別に頭がおかしくなったわけじゃない。
僕は思った。
これは周りを試しているな。
ちょっとした無茶を言って、自分についてくるかどうかを見ているんだ。
多分、彼はこの現場を気に入っていない。
美咲ちゃんもゆかりちゃんも、まだどこかよそよそしいのだと思う。
スタッフさんたち同じだ。彼らもこの突然の交代劇に困惑している様子なのだ。仕事だから頑張っているけど、心の底からは新監督を歓迎していない。
少なくとも、新監督自身はそう捉えている。「こいつら、まだ前任者への情を残しているな」って。
当事者である僕からすれば、そうは思えないよ。
美咲ちゃんもゆかりちゃんも僕を見捨てた。スタッフさんたちなんてもっと無慈悲。
そんなふうにしか思えなかったのだけど。
しかし新監督の要求は果てしない。あいつのことは完全に忘れろ。改めて俺を選び直せ!
きっと、この突然の企画変更にはそういう意味が含まれているんだ。
「わかりました、テニスの準備をしましょう」
担当者さんは新監督に屈したようだ。
「じゃあ、用意が終わるまで、ちょっと休憩だな」
「は、はい」
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