天使たちの水浴びシーン

アッシュ出版

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63)新監督の横暴振り

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 という次第で、僕たちはそのままプールサイドで待機していた。
 突然にぽっかりと空いた時間。
 しかしその時間で更に水着の撮影タイムなんてことにはならない。
 それはまあ、美咲ちゃんやゆかりちゃんにとっては良いことだと思う。僕だったらこの隙間にも撮影を詰め込み、自分の望んでいる映像をひたすら求め続けるだろうけどね。
 そんなのはない。しかしこれは作品にとっては、本当に無駄な休憩時間だ。

 近くのスポーツショップでテニスのユニフォームを買いにいっているのか、それとも衣装さんの事務所に取りに行っているのか知らない。
 いずれにしろ、十分とか一五分で終わる休憩ではなさそうだ。

 休憩の時間は重い空気が支配していた。美咲ちゃんやゆかりちゃんのマネージャーさんたちも時間を持て余している。
 それは当の新監督も同じだった。
 彼もこの待ち時間で何もすることがないのか、煙草を吸ったり、スマホをいじったりしている。

 「モデルさんたちは?」

 それにも飽きたようだ。新監督は言い出した。

 「控え室で待機しています」

 スタッフさんの一人が返す。

 「呼んで来いよ。ちょっと演技指導するからさ。あいつら、駄目過ぎるよ。最近の若い奴らはネットの影響で全部駄目になってるよ。なあ、みんなもそう思うだろ?」

 この新監督はこの業界でそれなりに存在感があるのか、周りのスタッフさんたちも愛想笑いを返す。

 「あれ、まだ来ないのか、あいつら」

 呼びつけた五秒後に、その相手が到着するわけがない。それなのに新監督は声を荒げる。

 「これだからさ、ネット世代の連中は」

 更に五秒後、新監督はこんなことを言い出した。

 「ちょっと、おい、メイクさん! あいつらの化粧、もっとどうにかならねえ? ちょっと化粧が薄かったぞ! あのブス二人にちゃんと化粧しとけよ」

 メイクさんは返事に困っている。
 わかりましたと言うべきなのか、その意見はどうかと思いますと言い返すべきなのか。
 いや、そもそも突然、自分が怒られていることにメイクさんは驚いているようだ。

 僕だって驚いている。
 何を言っているんだ、この人は? と、耳を疑っている。
 おい、今、僕の美咲ちゃんとゆかりちゃんに対して何て言った? 
 あのブス二人、とか言ってなかったか、こいつめ! 

 「まあ、確かに俺もあれくらいの年齢の女はノーメイクほうが好きだぜ。しかしこの商品を買う客は馬鹿ばっかだからね。モデルは化粧して、ちょっとでも派手に見せないといけないんだ」

 「は、はあ・・・」

 「わかりやすくするんだよ、全部な。馬鹿には、わかりやすくしないと、伝わらない。なぜなら、相手が?」

 新監督はどうやらミニクイズを出したようだ。メイクさんにその先を言わせようとしている。

 「え? え?」

 「なぜなら客が?」

 「は?」

 「なぜなら客は馬鹿ばっかりだからだよ! よく覚えておけよ! わかりやすくするんだよ。化粧を濃くして、こっちも精一杯頑張ってますアピールだよ。それだけで馬鹿な客は満足するんだ。逆に薄化粧だと、『こういう努力も放棄されているんですね』なんてクソリプが来るんだよ、俺のツイッターにさ!」

 美咲の奥二重の目にノリを貼って二重にしろ! 挙句の果てにそんなことまで言い出した。
 止めてくれ、それだけは! 
 僕は叫びそうになる。美咲ちゃんのあの美しい目を、クソ平準化するのは勘弁してくれ! 

 「もう本当にいい加減にしてくれ!」

 そう叫びそうになったとき、美咲ちゃんとゆかりちゃんがプールサイドに到着した。

 「おお、やっと来た、お前らトイレでも行ってたのか、呼ばれたらすぐ来いよ!」

 新監督は舌打ちしながら言う。
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