天使たちの水浴びシーン

アッシュ出版

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エピローグ2)メイドカフェにて

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 確かに編集作業は残っている。それに立ち会わせて貰えるはずで、ある意味、あの作品はまだちゃんと完成なんかはしていないとは言えるのだけど。
 それでも終わってしまった。もう二人に会うことはないわけであって。
 何よりあの現場に帰ることは出来ないから。

 僕の人生最大の祭りは過ぎていったのである。

 もう二度とあのような時間を迎えることが出来ないのは間違いないとしたら、いったいこれから先、僕はどうやって生きていけばいいのだろうか? 

 これはつまり、幸せの最高潮が過ぎ去ったあとの人生である。
 本当につらい。
 こんなにつらいのなら、あんな幸運を手にしなければ良かったなんて思ったりもするのだけど。
 ずっとなだらかで、何も起きない生活のまま、ただ夢だけを見て、憧れだけを感じて。
 喪失感はつらいね。
 美咲ちゃんとゆかりちゃんに会いたいなあ。

 まあ、二人はツイッターやらインスタもやっているから、二人の生活している気配とか息吹を感じることは出来るのだけど。
 実際、僕はそればかりチェックして、何とかこの喪失感を埋め合わせようとしているのだけど、それくらいのものでは到底埋められるわけもなくて。

 一応、ゆかりちゃんの連絡先というか、撮影前からラインのやり取りはしていた。
 だからまあ、今だってメッセージを送ろうと思えば出来るよ。それは不可能ではない。

 だけど出来ないよ。
 返事が返って来ないのが恐いとか、それもある。
 いや、多分、返事は来るんだろう、でもつれない態度だったら嫌だし、気を遣わせるのは申し訳ないし。

 それよりも、あの特別な思い出をそのままにしていたいんだと思う。
 撮影終盤、僕らは本当に仲良くなって、お互いを信頼し合い、リスペクトし合い。
 それどころか、もしかしたらゆかりちゃんは僕のことが好きになったのではないかって、勘違いまでしてしまって。

 ゆかりちゃんだけじゃない。あの美咲ちゃんすら、僕への恋心を漂わせ出したのである。
 勘違いかもしれないよ。
 でも、その勘違いは正されることなく、勘違いのままに美しい形で保存され。

 いや、そうは言っても僕たちのあの甘いムードが、あの現場だけのいっときの奇跡だっていうのはわかっているんだ。
 この日常に決して持ち越されたり出来ないもの。
 そんなことをしようとしてしまったら最後、幻滅に襲われる。それどころか、あの大切な思いですらも色褪せてしまうに違いない。
 汚してしまうことになるんだ。
 それよりも僕は勘違いしたまま、その幻と共に、退屈な日常を過ごそう、それが僕の意思。

 でも、本当に寂しい。
 心がどうにかなってしまいそうである。
 胸にぽっかりと穴が開くなんて表現があるけど、この穴はどう考えても僕の胸のサイズよりも大きくて、どうやらハートそれ自体を消し去ってしまったレベルであり。

 「あーあ」

 僕は再び深いため息を吐く。

 「どうしたんですか、ご主人様? さっきからため息ばかりついてますね?」

 ところで今、僕はメイドカフェに来ているのだけど。
 日曜日、家に一人でいるのが辛くて辛くて仕方なかったんだよ! 
 そんなところに遊びに行けるなんて、けっこう元気じゃいないかって思われた心外だ。どうにかして気を紛らわせないと死にそうだったんです。

 というわけで、僕はメイドカフェの隅のテーブルでコーヒーを飲んでいる。
 独りでこっそりと悲しみに浸っていようと思ったのだけど、僕の悲しみオーラに気づいてしまったのか、一人のメイドさんが近寄って来て、小首を傾げながら僕にクエスチョンを発してきた。

 「ご主人様、何かあったんですか?」

 「いや、まあ、ちょっとね・・・」
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