90 / 92
エピローグ3)恋愛よりも尊い関係
しおりを挟む
名札を見るに、このメイドさんのはお名前はコウサギちゃんというらしい。ショートカットの小柄な、年の頃はそうだな、二十代半ばというところだろうか。
確かにコウサギと名乗っているのがわかる。大きな二本の前歯と片八重歯が可愛らしい。
「どうなされたんですか、ご主人様?」とコウサギさんは僕の相手をしようとしてくれる。
「うん、まあね」
何と言えばいいのかわからない。僕はイメージビデオのディレクターだったんだけど、しかしそれは一作限りで終わりで。
そんなことを打ち明けても仕方ないだろう。
「初めてお客さんですよね?」
「ええ、はい」
「・・・」
どうしてため息をついているのか語れ、と待っている。それは間違いない。しかし何て返せばいいのかわからない。
僕が曖昧な返事しか返さないせいで、こいつと会話しても退屈するわとばかり、ついにメイドさんは他のテーブルに移りそうになる。
僕は慌てて言う。
「凄い体験をしたんですよ! あれは恋以上の体験でした!」
「何ですか、それ?」
「何て言うか、夢が叶ったんです」
「良かったじゃないですか? ご主人様、わーいわーい。それなのにどうしてため息ばかりついているんですか?」
「もうそれを失ってしまって」
「あれれ、その女の人に振られたんですか?」
可哀想なご主人様ですね、とメイドさんは言ってくれる。「じゃあ、萌え萌えビームを注入しますね」
痛いの痛いの飛んでイケー、大丈夫ですよ、ご主人様、これで明日は良いことありますよ!
「あ、ありがとうございます」
おい、そんなことでこの喪失感が埋められるかよ! と叫びそうになるのだけど、まあ、ここはそういうルールが支配する世界。。
「いえ、違うんです。好きな女子に振られたとかではないんですよ、正確に言うと。ただ、時間が来てしまったんです。タイムオーバーです。最初からリミットが決まっていて、その時間までしか一緒にいられない決まりだったわけですね、はい」
「え?」
「え?」
あっ、ヤバい、この言い方だと誤解されてしまいそうである。何だか有り触れたシステムの性風俗サービス店を楽しんでき奴だって思われてしまいそうだ。
「僕のような人生を送った人間なんてそんなにはいませんよ。本当に凄いことが起きたんです」
僕は慌てて付け加える。
「二人の女の子と仲良くなって、一緒に作品作りをしていたんですよ」
「はあ、そうですか?」
メイドさんの表情は曇りに曇っている。さっきまでの愛想が良くて、僕を心配そうに見つめてくれていた視線は消えた。
変質者を見るというのは言い過ぎだけど、冷淡な視線であることは事実。
「違います、誤解です。ありますか? メイドさん、大好きな人と一緒に遊んで、その人の友達とも仲良くなって」
「それってつまり、あれですか? 3」
「え? 3?」
も、もしかして3pのことを言っているんじゃないだろうな。何ていう破廉恥なメイドさんなんだ!
いや、誤解されるようなことを言ってしまった僕が悪いのかもしれないけれど、すぐさまそんな連想に至るなんて、かなりの世慣れたタイプの女子じゃないか。
「違います。大変な誤解ですよメイドさん、この世界には恋愛よりも尊い関係があるんです! もちろん、その関係にメイドさんが想像されているような性的な欲望なんてなかくてですね、本当に何と言うか、自分で言うのも何ですけど、ピュアな関係で」
「私は別に、そんな」
メイドさんは自分の職業を思い出したのか、クネクネしながら、手を振ったり、首を振ったりして、自分が口走りかけたことを否定する。「ご主人様、酷いですよ。もうオコですよ」
しかし僕の苦し紛れの言い訳が通じたのか、メイドさんはさっき見せた冷淡な感じはなくなって、また同情的な慈しみに満ちた視線を僕に送ってくれるようになる。
何だか好い人だと思う。「この萌え萌え特製オムライスというのを、追加注文します」と僕は言う。
確かにコウサギと名乗っているのがわかる。大きな二本の前歯と片八重歯が可愛らしい。
「どうなされたんですか、ご主人様?」とコウサギさんは僕の相手をしようとしてくれる。
「うん、まあね」
何と言えばいいのかわからない。僕はイメージビデオのディレクターだったんだけど、しかしそれは一作限りで終わりで。
そんなことを打ち明けても仕方ないだろう。
「初めてお客さんですよね?」
「ええ、はい」
「・・・」
どうしてため息をついているのか語れ、と待っている。それは間違いない。しかし何て返せばいいのかわからない。
僕が曖昧な返事しか返さないせいで、こいつと会話しても退屈するわとばかり、ついにメイドさんは他のテーブルに移りそうになる。
僕は慌てて言う。
「凄い体験をしたんですよ! あれは恋以上の体験でした!」
「何ですか、それ?」
「何て言うか、夢が叶ったんです」
「良かったじゃないですか? ご主人様、わーいわーい。それなのにどうしてため息ばかりついているんですか?」
「もうそれを失ってしまって」
「あれれ、その女の人に振られたんですか?」
可哀想なご主人様ですね、とメイドさんは言ってくれる。「じゃあ、萌え萌えビームを注入しますね」
痛いの痛いの飛んでイケー、大丈夫ですよ、ご主人様、これで明日は良いことありますよ!
「あ、ありがとうございます」
おい、そんなことでこの喪失感が埋められるかよ! と叫びそうになるのだけど、まあ、ここはそういうルールが支配する世界。。
「いえ、違うんです。好きな女子に振られたとかではないんですよ、正確に言うと。ただ、時間が来てしまったんです。タイムオーバーです。最初からリミットが決まっていて、その時間までしか一緒にいられない決まりだったわけですね、はい」
「え?」
「え?」
あっ、ヤバい、この言い方だと誤解されてしまいそうである。何だか有り触れたシステムの性風俗サービス店を楽しんでき奴だって思われてしまいそうだ。
「僕のような人生を送った人間なんてそんなにはいませんよ。本当に凄いことが起きたんです」
僕は慌てて付け加える。
「二人の女の子と仲良くなって、一緒に作品作りをしていたんですよ」
「はあ、そうですか?」
メイドさんの表情は曇りに曇っている。さっきまでの愛想が良くて、僕を心配そうに見つめてくれていた視線は消えた。
変質者を見るというのは言い過ぎだけど、冷淡な視線であることは事実。
「違います、誤解です。ありますか? メイドさん、大好きな人と一緒に遊んで、その人の友達とも仲良くなって」
「それってつまり、あれですか? 3」
「え? 3?」
も、もしかして3pのことを言っているんじゃないだろうな。何ていう破廉恥なメイドさんなんだ!
いや、誤解されるようなことを言ってしまった僕が悪いのかもしれないけれど、すぐさまそんな連想に至るなんて、かなりの世慣れたタイプの女子じゃないか。
「違います。大変な誤解ですよメイドさん、この世界には恋愛よりも尊い関係があるんです! もちろん、その関係にメイドさんが想像されているような性的な欲望なんてなかくてですね、本当に何と言うか、自分で言うのも何ですけど、ピュアな関係で」
「私は別に、そんな」
メイドさんは自分の職業を思い出したのか、クネクネしながら、手を振ったり、首を振ったりして、自分が口走りかけたことを否定する。「ご主人様、酷いですよ。もうオコですよ」
しかし僕の苦し紛れの言い訳が通じたのか、メイドさんはさっき見せた冷淡な感じはなくなって、また同情的な慈しみに満ちた視線を僕に送ってくれるようになる。
何だか好い人だと思う。「この萌え萌え特製オムライスというのを、追加注文します」と僕は言う。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる