天使たちの水浴びシーン

アッシュ出版

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エピローグ3)恋愛よりも尊い関係

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 名札を見るに、このメイドさんのはお名前はコウサギちゃんというらしい。ショートカットの小柄な、年の頃はそうだな、二十代半ばというところだろうか。
 確かにコウサギと名乗っているのがわかる。大きな二本の前歯と片八重歯が可愛らしい。

 「どうなされたんですか、ご主人様?」とコウサギさんは僕の相手をしようとしてくれる。

 「うん、まあね」

 何と言えばいいのかわからない。僕はイメージビデオのディレクターだったんだけど、しかしそれは一作限りで終わりで。
 そんなことを打ち明けても仕方ないだろう。

 「初めてお客さんですよね?」

 「ええ、はい」

 「・・・」

 どうしてため息をついているのか語れ、と待っている。それは間違いない。しかし何て返せばいいのかわからない。
 僕が曖昧な返事しか返さないせいで、こいつと会話しても退屈するわとばかり、ついにメイドさんは他のテーブルに移りそうになる。
 僕は慌てて言う。

 「凄い体験をしたんですよ! あれは恋以上の体験でした!」

 「何ですか、それ?」

 「何て言うか、夢が叶ったんです」

 「良かったじゃないですか? ご主人様、わーいわーい。それなのにどうしてため息ばかりついているんですか?」

 「もうそれを失ってしまって」

 「あれれ、その女の人に振られたんですか?」

 可哀想なご主人様ですね、とメイドさんは言ってくれる。「じゃあ、萌え萌えビームを注入しますね」

 痛いの痛いの飛んでイケー、大丈夫ですよ、ご主人様、これで明日は良いことありますよ! 

 「あ、ありがとうございます」

 おい、そんなことでこの喪失感が埋められるかよ! と叫びそうになるのだけど、まあ、ここはそういうルールが支配する世界。。

 「いえ、違うんです。好きな女子に振られたとかではないんですよ、正確に言うと。ただ、時間が来てしまったんです。タイムオーバーです。最初からリミットが決まっていて、その時間までしか一緒にいられない決まりだったわけですね、はい」

 「え?」

 「え?」

 あっ、ヤバい、この言い方だと誤解されてしまいそうである。何だか有り触れたシステムの性風俗サービス店を楽しんでき奴だって思われてしまいそうだ。

 「僕のような人生を送った人間なんてそんなにはいませんよ。本当に凄いことが起きたんです」

 僕は慌てて付け加える。

 「二人の女の子と仲良くなって、一緒に作品作りをしていたんですよ」

 「はあ、そうですか?」

 メイドさんの表情は曇りに曇っている。さっきまでの愛想が良くて、僕を心配そうに見つめてくれていた視線は消えた。
 変質者を見るというのは言い過ぎだけど、冷淡な視線であることは事実。

 「違います、誤解です。ありますか? メイドさん、大好きな人と一緒に遊んで、その人の友達とも仲良くなって」

 「それってつまり、あれですか? 3」

 「え? 3?」

 も、もしかして3pのことを言っているんじゃないだろうな。何ていう破廉恥なメイドさんなんだ! 
 いや、誤解されるようなことを言ってしまった僕が悪いのかもしれないけれど、すぐさまそんな連想に至るなんて、かなりの世慣れたタイプの女子じゃないか。

 「違います。大変な誤解ですよメイドさん、この世界には恋愛よりも尊い関係があるんです! もちろん、その関係にメイドさんが想像されているような性的な欲望なんてなかくてですね、本当に何と言うか、自分で言うのも何ですけど、ピュアな関係で」

 「私は別に、そんな」

 メイドさんは自分の職業を思い出したのか、クネクネしながら、手を振ったり、首を振ったりして、自分が口走りかけたことを否定する。「ご主人様、酷いですよ。もうオコですよ」

 しかし僕の苦し紛れの言い訳が通じたのか、メイドさんはさっき見せた冷淡な感じはなくなって、また同情的な慈しみに満ちた視線を僕に送ってくれるようになる。

 何だか好い人だと思う。「この萌え萌え特製オムライスというのを、追加注文します」と僕は言う。
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