天使たちの水浴びシーン

アッシュ出版

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18)天使という役柄

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 しかしマネージャーさんは出ていったけれど、ゆかりちゃんはまだ憂鬱の中にいる。彼女がこの仕事に意欲を見せ始めたわけじゃない。
 これから僕が彼女を説得しなければいけないのだ。
 さもなければ彼女の水着姿を見ることは出来ないし、あれだけにマネージャーさんに向かって大口を叩いたのに、彼女を説得することが出来なければ、こっちは大恥をかくことになる。この作品だって失敗してしまうだろう。

 「ゆかりちゃん、君の志望は女優だったよね?」

 僕は重々しい口調でそう切り出した。教師のような口調だ。まあ、テレビドラマの教師のような感じってことだけど。
 しかしゆかりちゃんは首を振った。

 「え? 違うの?」

 僕は驚く。「あれ? 女優になるためだったら、頑張れるって言ってたじゃないか」

 「ち、違います。お母さんを楽させたいだけなんです。女優じゃなくても別に・・・」

 「ああ、そうだね。この年齢でお金を稼ぐためには、芸能の仕事が最も効率的ってことだね。君には天性の美貌がある。この仕事に向いているのは間違いないよ」

 僕の賛辞に、ゆかりは顔を赤らめた。その表情は本当にキュートだった。
 ゆかりちゃんのこの美しさを作品に収めなければいけない。それが僕の義務だ。僕は改めて決心した。
 しかも水着姿。ゆかりちゃんの瑞々しい肉体も撮影しなければいけない。
 こんなにかわいい女の子の半裸を撮影出来る機会は滅多にないに違いないのだ。
 それは僕の人生に滅多に訪れないのことではなくて、人類にとってそうはない。
 いや、どこか貧しい国では頻繁にあるかもしれないな。しかし僕たち日本人は、同じ日本語を流ちょうに話す、日本人の女の子の半裸が見たいんだ。
 少しくらいの嘘をついてでも、僕はゆかりちゃんを脱がさなければいけない。

 「ゆかりちゃんなら、女優になれると思うよ。君には素質がある。いつかきっとお母さんを楽させてあげられるんじゃないかな。でも、いくら才能があってもさ、それを磨かなければ意味ないわけじゃんか。この仕事をその訓練の場所だと考えるのはどうかしら?」

 「訓練?」とゆかりちゃんは首を傾げながら、僕の次の言葉を待つ素振りを見せる。

 「うん、君はゆかりちゃんとして、この撮影のお仕事をするんじゃなくて、女優の天羽ゆかりとしてモデルを演じるんだよ」

 「は、はあ」

 「この仕事をしながら、演技の練習が出来るということさ」

 「な、なるほど???」

 なるほどと頷きながら、彼女の表情にはハテナマークが散らばっている。

 「これからゆかりちゃんは、カメラの前で笑顔になったり、ポーズを取ったりするけどさ、その笑顔もポーズも、ゆかりちゃんのものであると同時に、ゆかりちゃんのものじゃないっていうか。つまり、女優天羽ゆかりのものってことさ。や、ややこしかな。でも何もかも演じていると思えば、カメラの前に居てもそんなに恥ずかしくないと思うんだ。恥ずかしくないだけじゃなく、ゆかりちゃんはこの撮影を通して、女優天羽ゆかりを成長させることも出来る」

 ゆかりちゃんの表情に、更にハテナマークが増えた。しかし僕の話しに興味を持ってくれたように、少し前のめりの姿勢にもなる。
 手応えありだと思う。

 「で、とっておきのアイデアがあるんだ。普通にモデル役を演じるのは面白くない。いや、むしろ難しいよ。だからそのモデル役は実は天使だっていう設定はどうかな?」

 「て!」

 「君は天界で生まれて、地上に降り立った天使で。でも地上は争いで染まっている。その汚れた世界を癒すために、現れた天使って役柄さ」

 僕は恥ずかしい男なのだろうか。大の大人が女の子に向かって「君は天使なんだ」だって。
 しかしゆかりちゃんがこういうファンタジーっぽい感じを好むこともリサーチ済みだ。実際、ピュアなゆかりちゃんの表情がキラキラ輝き出している。「私は天使、ふーん」なんて独り言もつぶやいている。

 「で、渋谷を歩いてたら人間のカメラマンにスカウトされて、モデルを勤めることになった。実は天使だけど、モデルもやる」

 「地球での活動資金を稼ぐためですか?」

 ゆかりちゃんが言ってきた。

 「活動資金? そ、そう、平和のための資金」

 「面白いかもしれません」

 「そうだろ?」

 「はい」

 (ヤバい、凄くヤバい)

 僕は妙に興奮していた。多分、ゆかりちゃんの心を動かしたからだ。
 ゆかりちゃんを支配しているような感覚と言ってもいいのだろうか。彼女の心をグッと掴んで、それを優しくさすったり、撫でたりしているような。
 こんな感覚、この仕事をしなければ一生味わうことは出来なかったものだろうな。
 でも、そんなことに喜びを覚えている自分が怖くなる。凄く悪いことをしているような気分なんだ。こんな感情に病みつきになったりしてはいけない。

 「わかりました。やってみます!」

 ゆかりちゃんは僕の内面のその渦巻く興奮を知りもしないだろう、とても素直な声と表情で言ってきた。

 「う、うん、頑張ろう」

 とにかくゆかりちゃんは僕の言葉に説得された。
 撮影が再開されたことは確かだった。
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