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Case.2 酒呑童子
第八話
しおりを挟む『現場の様子と生き残った生徒からは、有力な情報を得られず、女子生徒の行方は未だにわつかめていない。〈酒呑童子〉もこの後どうなったかは不明である。どちらも、目撃情報すら寄せられていない。』
「一応、真冬さんは『行方不明』という扱いなんですね」
本に書いてあるニュアンスを取ると、そんな感じだった。
「亡くなったことにしているのは、鬼の存在を知っている人が、政府にもほとんどいないからなんでしょうね。学校内で突然人が消えたとなると、それこそ大問題になるし……」
私がそう言うと、鬼頭先輩は首を横に振った。
「それもあるだろうけど、一番の理由は、他の鬼を呼び寄せないためだと思います」
鬼の世界の、少し難しい話。私には、すぐには理解できない。
「あくまでも〈酒呑童子〉はこの国の鬼のトップですからね。もし、襲った人間が二人とも生き残っていた──〈酒呑童子〉が人間に殺されたかもしれないとなると、敵討に来るやつもいると思います」
「……鬼頭先輩は大丈夫なんですか?」
そもそも〈茨木童子〉は、〈酒呑童子〉の家来だったはずだ。鬼頭先輩だって、主の安否くらい、気になるはず。もしかしたら、主を討ったかもしれない、有馬先輩や真冬さんを、恨んでいるかもしれない。
「僕は大丈夫です。あいつとは三百年くらい前に縁を切っているので」
意外とあっさりとしている。むしろ、恨みさえ感じます。一体なにがあったんだろう?
「でも、これではっきりしたのは、『解せないことがいくつもある』ことですかね……」
「え?」
鬼頭先輩の言葉の意味がわからなかった。
* * *
「結香ちゃん、こんにちは」
猪狩の前に現れたのは、清水かなだった。
「かな先輩?久しぶりじゃないですか」
猪狩は方眉を上げる。
「ちょっと校長先生に用事があってね」
「校長先生? ……あの人、今は海外に行っているみたいですよ」
「あー、やっぱり。あの人、雑なんだよなぁ……。自分が調べてくれって言ったくせに、まーたそうやって逃げるんだもん」
苦笑いする清水に、猪狩は怪訝そうな顔を見せる。
「これ、先生に渡してくれる? 頼まれてた〈酒呑童子〉のやつって言ったら通じるから」
清水は高校を卒業した今でも、大学に通う傍ら、〈退鬼師〉としても活動していた。この学校の校長は、その〈退鬼師〉をまとめる役目もしている。
「わかりました……」
戸惑いながらも、猪狩は茶封筒を受け取った。
「あれ、清水先輩じゃないですか」
「あ、有馬君!?」
清水は大声で叫んだ。
二年前の事故の後、清水はすぐに高校を卒業し、外部の大学に進学をしたので、去年の二月からようやく学校に行けるようになった有馬とは、顔を合わせていなかった。
「学校来れるようになったの!? 復帰できた!?」
そう言って清水は、有馬の肩を掴んだ。
「お、おかげさまで……」
清水の勢いに圧されて、有馬は言ってしまう。本当は、事故がトラウマになってしまい、かなり苦労したのだ。
「よかったぁ……。ずっと心配だったの。一年生もいっぱいいるみたいだし、安心だね」
有馬は複雑な顔で頷いた。
「そう、ですね……」
不意に猪狩が、口を開いた。
「それで先輩、これは、〈酒呑童子〉の何を調べた資料なんですか?」
〈酒呑童子〉と聞いた有馬の顔が強張ったが、猪狩も清水も、それには構わなかった。
「……どうしてあの日、封印されていたはずの〈酒呑童子〉が、ここにいたのか、かな」
「え……?」
あまりにも衝撃な清水の発言に、有馬も猪狩も、それ以上の言葉を言えなかった。
* * *
「ねぇ、名津。これ『教えて』」
凛津は名津の前にノートを置いた。
「数学?」
凛津は頷いた。
「ほんとにオレ等って正反対だよな。得意科目とか、それ以外にも色々」
凛津は何も言わない。
「だからここの文字をそっちに代入して……って、本当に聞いてる?」
凛津は無表情で名津のノートを見ているので、ちゃんと理解しているかどうかは、推し測ることができない。
だが、凛津は微かに頷いた。
「喋ってくれないとわかんないよ」
それでも凛津は口を開かない。
「わかってるつもりだよ。杉戸の言葉は凶器だって。さっきのだって、多分そうだろうし」
杉戸凛津は、言葉を凶器として操る、〈言霊使い〉だ。それも、自分では制御しきれないほどに強い、〈言霊〉を扱っている。
「そりゃあ、あれは痛かったけどさ。でも、やっと戻してもらえたんだから、もっと話せばいいのになって思っただけだよ」
凛津は、本当に必要なことしか、口に出さない。なるべく、口を開かないようにしている。それは、彼女の経験に基づいての行動だった。
宿題を理解した凛津は、自分の部屋に戻ろうとする。
「ねえ、名津は『本当に後悔してない』の?」
彼女の言葉は、ある意味呪いのようだった。
ドアが静かな音を立てて閉まる。
「……後悔してないって言ったら、嘘になるかな」
誰もいなくなった扉に向かって、名津は独り呟いた。
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