魂の封術士

悠奈

文字の大きさ
27 / 63
第四章

第二十四話

しおりを挟む
「そっか。聖もいなくなっちゃったんだね」
  悲しそうな声で、彼女は言う。
「伝えてくれてありがと。それにしても咲姫ちゃん、よくここ見つけたよね」
  南帆ちゃんは笑っていた。
「んー……。見つけたっていうか見つかったというか……。偶々だよ」
  神社にいた彼女は、突然姿を消した。心当たりなんて一切なかったけれど、私──小和田咲姫が居場所を突き止めたのは昨日の話だ。
  視線を感じる。南帆ちゃんの目がキラキラしていた。そんなに私の話が気になるのかな……。面白い話じゃなんだけど……。
「私は、単純に『眼』がいいだけだよ。視る力だけなら、今枝君よりも強いんじゃないかな」
  彼の名前を出した瞬間、南帆ちゃんは肩をすくめる。
  喧嘩別れして早一ヶ月。彼女はいまだに意気地になっている。
「君も頑固だね~。まだ仲直りしてないの?」
「仲直りっていうか……」
  不服そうに口を歪めた。
「わかってるよ?  基本的に非は私にあるって。だけどさ、聞いてくれてもよかったじゃん。私の話も」
  その口振りは、我が儘な彼女を思わせる。実際、今枝君の彼女さんか。
「それにあいつ、私になんの説明もしてくれなかったんだよ!?  危険があるって言うだけで、それ以外のことは全然聞いてない!」
  この場にいない今枝君がだんだん不憫に思えてきた。自分の知らない所でこんなに悪口言われてるとは思ってないだろうな。
  けどね。君が言うその「危険」は、成仏する意識もない、緊急性のない今の状態では、ただの毒にしかならないんだよ。
  彼女は話題を変えた。
「……それはそうと、あいつ大丈夫なの?」
  完全に彼氏を心配する彼女の顔だった。
「大丈夫……なのかな……。彼、意外とガード硬いからわかりづらくて」
  私が鈍感なだけとも言えるけど。自覚はしている。
「そうだよね~。あいつ、ほんっとわかりづらい!」
  突然南帆ちゃんは立ち上がって、饒舌に語り出した。
「暗いし不器用だし、自分だけであれこれ考えて、なーんにも相談してくれないんだよ!?」
  そう捲し立てて、鼻息を荒くしている。思わず笑ってしまった。
「な、なに!?  咲姫ちゃん!?」
  顔を真っ赤にしてあたふたしているのも可愛い。
「んーん。なんでもない。彼女さんだなあって」
  その答えでは、彼女は納得しなかったようで、微妙な顔をされてしまった。
  一気に熱が冷めたのか、座り直して膝に顔を埋める。
「私が、どうにかしてあげられたらいいのにな……」
  とても掠れた声だった。
「どうにかしてあげたらいいんじゃない?」
  深く考えずに言ったその言葉は、彼女の深く場所を刺激してしまったようだ。
  彼女は立ち上がって言う。
「咲姫ちゃん……。それじゃ、駄目なんだよ。あいつのためにならない」
  そして、目を伏せた。
「それは、わかってるはずなんだけどなあ……」

「皆いなくなっちゃったから、私がここにいる意味はない。でも、知りたくなっちゃったんだよね……」

 * * *

「おはよう一希君。……て、一希君!?」
  珍しく十羽さんが目玉を落とさんばかりに驚いている。
「おはようございます……。今日も元気ですね……」
  その反応に驚いてしまって、変なことを言ってしまった。
「いや……。まさかこんなにも早く起きてくるとは思ってなくて……」
「すみません。心配かけて。でも怪我は大分治りましたから」
  十羽さんはなにか言おうとしたが、すぐに口を閉じた。
  これは桐のおかげだ。まさか俺のために術を使うとは思わなかった。お礼を言おうと思うと逃げられるから困りものだけど。

  あの後、呆然と座り込む俺を見つけたのは、騒ぎを聞きつけた高木さんだった。その後は、知っている顔を見たせいか気が抜けてしまって、ところどころ記憶がない。気がついたら後処理も全部終わっていた。
  傷は思っていた以上に深かったが、桐の能力のおかげで痕も残らないらしい。本当に、感謝してもしきれない。

  それから、二日が経った。

「おー、一希じゃん。久し振り」
  珍しく神木に出迎えられる。
「久し振り……って、学校休んだの二日だけじゃん」
「それもそうかー」
  神木は気の抜けたような笑い方をしている。
  あと数日で一学期も終わり。それに伴う短縮授業のおかげで、荷物は軽い。だけど、まだかなり痛む肩でそれを運ぶのに疲れてしまって、思わずため息をついた。
「ほんとに学校来てよかったのか?  顔色悪いじゃん」
  神木にそんなことを言われるのは二回目だ。
「あー……。大丈夫だよ」
  なにか言い訳を考えようかと思ったけど、なにも思い付かずに濁してしまった。
  風邪で休んだことになっているので、肩が痛いとは言えなかった。
  実際のところ、自分でも無茶なことをしていると認識している。それでも「普段通り」を決行しようと思ったのは、思い出したくなかったからだ。
  一人でいると、全部甦ってきそうで、じっとしていられなかった。

「そしてこの式を平方完成すると……」
  狭い教室に、教師の声がこだましている。二学期の中間テストを見越して授業は進む。その先には受験も控えているので、止まることはない。
  休んだ二日のうちに、かなりのスピードで授業は進んでいたらしく、教科書と咲姫に見せてもらったノートを往復しながら、必死になって聞いていた。
「いっ……」
  たまに、肩の傷が痛む。利き手の方だから、仕方ない。
  その痛みに、記憶は深く結び付いている。
──なんであいつに会ったんだろう。
  止めなければと思うほどに、思考は巡る。
──そもそも、あんな事件さえ起こらなければ……。
  目に映る景色が、だんだん白くなっていく。
「……あれ……」

──そもそも、あいつって……?

  平衡感覚がなくなった。
  考えがそこに達した刹那、事件やあいつに関する記憶が頭の中を駆け抜けた。今まで思い出さなかった、思い出せなかったものも、全部。
  それでも、あいつの顔だけは、黒く塗りつぶされていた。
  椅子から転げ落ち、机の足にすがりついて丸まっている俺のことを呼ぶ声がする。
  それに答えることはできない。
  叫び出さないようにするだけで精一杯だった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

Emerald

藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。 叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。 自分にとっては完全に新しい場所。 しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。 仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。 〜main cast〜 結城美咲(Yuki Misaki) 黒瀬 悠(Kurose Haruka) ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。 ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

処理中です...