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第四章
第二十四話
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「そっか。聖もいなくなっちゃったんだね」
悲しそうな声で、彼女は言う。
「伝えてくれてありがと。それにしても咲姫ちゃん、よくここ見つけたよね」
南帆ちゃんは笑っていた。
「んー……。見つけたっていうか見つかったというか……。偶々だよ」
神社にいた彼女は、突然姿を消した。心当たりなんて一切なかったけれど、私──小和田咲姫が居場所を突き止めたのは昨日の話だ。
視線を感じる。南帆ちゃんの目がキラキラしていた。そんなに私の話が気になるのかな……。面白い話じゃなんだけど……。
「私は、単純に『眼』がいいだけだよ。視る力だけなら、今枝君よりも強いんじゃないかな」
彼の名前を出した瞬間、南帆ちゃんは肩をすくめる。
喧嘩別れして早一ヶ月。彼女はいまだに意気地になっている。
「君も頑固だね~。まだ仲直りしてないの?」
「仲直りっていうか……」
不服そうに口を歪めた。
「わかってるよ? 基本的に非は私にあるって。だけどさ、聞いてくれてもよかったじゃん。私の話も」
その口振りは、我が儘な彼女を思わせる。実際、今枝君の彼女さんか。
「それにあいつ、私になんの説明もしてくれなかったんだよ!? 危険があるって言うだけで、それ以外のことは全然聞いてない!」
この場にいない今枝君がだんだん不憫に思えてきた。自分の知らない所でこんなに悪口言われてるとは思ってないだろうな。
けどね。君が言うその「危険」は、成仏する意識もない、緊急性のない今の状態では、ただの毒にしかならないんだよ。
彼女は話題を変えた。
「……それはそうと、あいつ大丈夫なの?」
完全に彼氏を心配する彼女の顔だった。
「大丈夫……なのかな……。彼、意外とガード硬いからわかりづらくて」
私が鈍感なだけとも言えるけど。自覚はしている。
「そうだよね~。あいつ、ほんっとわかりづらい!」
突然南帆ちゃんは立ち上がって、饒舌に語り出した。
「暗いし不器用だし、自分だけであれこれ考えて、なーんにも相談してくれないんだよ!?」
そう捲し立てて、鼻息を荒くしている。思わず笑ってしまった。
「な、なに!? 咲姫ちゃん!?」
顔を真っ赤にしてあたふたしているのも可愛い。
「んーん。なんでもない。彼女さんだなあって」
その答えでは、彼女は納得しなかったようで、微妙な顔をされてしまった。
一気に熱が冷めたのか、座り直して膝に顔を埋める。
「私が、どうにかしてあげられたらいいのにな……」
とても掠れた声だった。
「どうにかしてあげたらいいんじゃない?」
深く考えずに言ったその言葉は、彼女の深く場所を刺激してしまったようだ。
彼女は立ち上がって言う。
「咲姫ちゃん……。それじゃ、駄目なんだよ。あいつのためにならない」
そして、目を伏せた。
「それは、わかってるはずなんだけどなあ……」
「皆いなくなっちゃったから、私がここにいる意味はない。でも、知りたくなっちゃったんだよね……」
* * *
「おはよう一希君。……て、一希君!?」
珍しく十羽さんが目玉を落とさんばかりに驚いている。
「おはようございます……。今日も元気ですね……」
その反応に驚いてしまって、変なことを言ってしまった。
「いや……。まさかこんなにも早く起きてくるとは思ってなくて……」
「すみません。心配かけて。でも怪我は大分治りましたから」
十羽さんはなにか言おうとしたが、すぐに口を閉じた。
これは桐のおかげだ。まさか俺のために術を使うとは思わなかった。お礼を言おうと思うと逃げられるから困りものだけど。
あの後、呆然と座り込む俺を見つけたのは、騒ぎを聞きつけた高木さんだった。その後は、知っている顔を見たせいか気が抜けてしまって、ところどころ記憶がない。気がついたら後処理も全部終わっていた。
傷は思っていた以上に深かったが、桐の能力のおかげで痕も残らないらしい。本当に、感謝してもしきれない。
それから、二日が経った。
「おー、一希じゃん。久し振り」
珍しく神木に出迎えられる。
「久し振り……って、学校休んだの二日だけじゃん」
「それもそうかー」
神木は気の抜けたような笑い方をしている。
あと数日で一学期も終わり。それに伴う短縮授業のおかげで、荷物は軽い。だけど、まだかなり痛む肩でそれを運ぶのに疲れてしまって、思わずため息をついた。
「ほんとに学校来てよかったのか? 顔色悪いじゃん」
神木にそんなことを言われるのは二回目だ。
「あー……。大丈夫だよ」
なにか言い訳を考えようかと思ったけど、なにも思い付かずに濁してしまった。
風邪で休んだことになっているので、肩が痛いとは言えなかった。
実際のところ、自分でも無茶なことをしていると認識している。それでも「普段通り」を決行しようと思ったのは、思い出したくなかったからだ。
一人でいると、全部甦ってきそうで、じっとしていられなかった。
「そしてこの式を平方完成すると……」
狭い教室に、教師の声がこだましている。二学期の中間テストを見越して授業は進む。その先には受験も控えているので、止まることはない。
休んだ二日のうちに、かなりのスピードで授業は進んでいたらしく、教科書と咲姫に見せてもらったノートを往復しながら、必死になって聞いていた。
「いっ……」
たまに、肩の傷が痛む。利き手の方だから、仕方ない。
その痛みに、記憶は深く結び付いている。
──なんであいつに会ったんだろう。
止めなければと思うほどに、思考は巡る。
──そもそも、あんな事件さえ起こらなければ……。
目に映る景色が、だんだん白くなっていく。
「……あれ……」
──そもそも、あいつって……?
平衡感覚がなくなった。
考えがそこに達した刹那、事件やあいつに関する記憶が頭の中を駆け抜けた。今まで思い出さなかった、思い出せなかったものも、全部。
それでも、あいつの顔だけは、黒く塗りつぶされていた。
椅子から転げ落ち、机の足にすがりついて丸まっている俺のことを呼ぶ声がする。
それに答えることはできない。
叫び出さないようにするだけで精一杯だった。
悲しそうな声で、彼女は言う。
「伝えてくれてありがと。それにしても咲姫ちゃん、よくここ見つけたよね」
南帆ちゃんは笑っていた。
「んー……。見つけたっていうか見つかったというか……。偶々だよ」
神社にいた彼女は、突然姿を消した。心当たりなんて一切なかったけれど、私──小和田咲姫が居場所を突き止めたのは昨日の話だ。
視線を感じる。南帆ちゃんの目がキラキラしていた。そんなに私の話が気になるのかな……。面白い話じゃなんだけど……。
「私は、単純に『眼』がいいだけだよ。視る力だけなら、今枝君よりも強いんじゃないかな」
彼の名前を出した瞬間、南帆ちゃんは肩をすくめる。
喧嘩別れして早一ヶ月。彼女はいまだに意気地になっている。
「君も頑固だね~。まだ仲直りしてないの?」
「仲直りっていうか……」
不服そうに口を歪めた。
「わかってるよ? 基本的に非は私にあるって。だけどさ、聞いてくれてもよかったじゃん。私の話も」
その口振りは、我が儘な彼女を思わせる。実際、今枝君の彼女さんか。
「それにあいつ、私になんの説明もしてくれなかったんだよ!? 危険があるって言うだけで、それ以外のことは全然聞いてない!」
この場にいない今枝君がだんだん不憫に思えてきた。自分の知らない所でこんなに悪口言われてるとは思ってないだろうな。
けどね。君が言うその「危険」は、成仏する意識もない、緊急性のない今の状態では、ただの毒にしかならないんだよ。
彼女は話題を変えた。
「……それはそうと、あいつ大丈夫なの?」
完全に彼氏を心配する彼女の顔だった。
「大丈夫……なのかな……。彼、意外とガード硬いからわかりづらくて」
私が鈍感なだけとも言えるけど。自覚はしている。
「そうだよね~。あいつ、ほんっとわかりづらい!」
突然南帆ちゃんは立ち上がって、饒舌に語り出した。
「暗いし不器用だし、自分だけであれこれ考えて、なーんにも相談してくれないんだよ!?」
そう捲し立てて、鼻息を荒くしている。思わず笑ってしまった。
「な、なに!? 咲姫ちゃん!?」
顔を真っ赤にしてあたふたしているのも可愛い。
「んーん。なんでもない。彼女さんだなあって」
その答えでは、彼女は納得しなかったようで、微妙な顔をされてしまった。
一気に熱が冷めたのか、座り直して膝に顔を埋める。
「私が、どうにかしてあげられたらいいのにな……」
とても掠れた声だった。
「どうにかしてあげたらいいんじゃない?」
深く考えずに言ったその言葉は、彼女の深く場所を刺激してしまったようだ。
彼女は立ち上がって言う。
「咲姫ちゃん……。それじゃ、駄目なんだよ。あいつのためにならない」
そして、目を伏せた。
「それは、わかってるはずなんだけどなあ……」
「皆いなくなっちゃったから、私がここにいる意味はない。でも、知りたくなっちゃったんだよね……」
* * *
「おはよう一希君。……て、一希君!?」
珍しく十羽さんが目玉を落とさんばかりに驚いている。
「おはようございます……。今日も元気ですね……」
その反応に驚いてしまって、変なことを言ってしまった。
「いや……。まさかこんなにも早く起きてくるとは思ってなくて……」
「すみません。心配かけて。でも怪我は大分治りましたから」
十羽さんはなにか言おうとしたが、すぐに口を閉じた。
これは桐のおかげだ。まさか俺のために術を使うとは思わなかった。お礼を言おうと思うと逃げられるから困りものだけど。
あの後、呆然と座り込む俺を見つけたのは、騒ぎを聞きつけた高木さんだった。その後は、知っている顔を見たせいか気が抜けてしまって、ところどころ記憶がない。気がついたら後処理も全部終わっていた。
傷は思っていた以上に深かったが、桐の能力のおかげで痕も残らないらしい。本当に、感謝してもしきれない。
それから、二日が経った。
「おー、一希じゃん。久し振り」
珍しく神木に出迎えられる。
「久し振り……って、学校休んだの二日だけじゃん」
「それもそうかー」
神木は気の抜けたような笑い方をしている。
あと数日で一学期も終わり。それに伴う短縮授業のおかげで、荷物は軽い。だけど、まだかなり痛む肩でそれを運ぶのに疲れてしまって、思わずため息をついた。
「ほんとに学校来てよかったのか? 顔色悪いじゃん」
神木にそんなことを言われるのは二回目だ。
「あー……。大丈夫だよ」
なにか言い訳を考えようかと思ったけど、なにも思い付かずに濁してしまった。
風邪で休んだことになっているので、肩が痛いとは言えなかった。
実際のところ、自分でも無茶なことをしていると認識している。それでも「普段通り」を決行しようと思ったのは、思い出したくなかったからだ。
一人でいると、全部甦ってきそうで、じっとしていられなかった。
「そしてこの式を平方完成すると……」
狭い教室に、教師の声がこだましている。二学期の中間テストを見越して授業は進む。その先には受験も控えているので、止まることはない。
休んだ二日のうちに、かなりのスピードで授業は進んでいたらしく、教科書と咲姫に見せてもらったノートを往復しながら、必死になって聞いていた。
「いっ……」
たまに、肩の傷が痛む。利き手の方だから、仕方ない。
その痛みに、記憶は深く結び付いている。
──なんであいつに会ったんだろう。
止めなければと思うほどに、思考は巡る。
──そもそも、あんな事件さえ起こらなければ……。
目に映る景色が、だんだん白くなっていく。
「……あれ……」
──そもそも、あいつって……?
平衡感覚がなくなった。
考えがそこに達した刹那、事件やあいつに関する記憶が頭の中を駆け抜けた。今まで思い出さなかった、思い出せなかったものも、全部。
それでも、あいつの顔だけは、黒く塗りつぶされていた。
椅子から転げ落ち、机の足にすがりついて丸まっている俺のことを呼ぶ声がする。
それに答えることはできない。
叫び出さないようにするだけで精一杯だった。
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