魂の封術士

悠奈

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第五章

第二十六話

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  八月。なにもない田舎町にも、文明の恩恵がないとやっていけないよいな暑さが来た。
  それと同時に、ある意味今年一番の衝撃──。

「こんにちは~!  小和田の家ってここで合ってるよね?  私達、息子に会いに来たんだ!」

  情報を処理するのにかなり時間がかかってしまった。

 * * *

「えっと、あの……。どちら様で?」
  小和田の息子って言うくらいだから、咲姫達の関係者だろう。けど、彼女の両親はもう……。
  疑心暗鬼になりながら、目の前の男女二人を観察してみる。年は三十代半ば。二人とも揃いのサングラスをかけている。仲がいいんだろうか。
  それくらいのことしかわからなかった。
「ん?  あたし等?  この神社の持ち主」
「はあ……」
  段々話がわからなくなってきた。
  どうしよう……。十羽さんは今いないし、咲姫も友達の家にいる。俺はただの居候だから、無責任なことはできない。
  昼飯の材料を買ってきたはずの俺が、なかなか帰ってこないことに腹をたてたのだろう。桐が家から不機嫌そうな顔を出した。
「あ!」
  女性が嬉しそうな表情を浮かべる。
  なにが起きてるんだろうと思う間もなく、彼女は走り始めた。
「桐!」
「母さん!?」
  桐も裸足のまま外に出てきて、女の人に抱きついた。
  待って……。どういう状況……。
  頭の整理ができないままその光景を見ていると、男性に話しかけられた。
「君が一希君か~。十羽から話は聞いているよ」
「そ、それはどうも……」
  路上でいちゃいちゃしている桐と女性を横目に答えた。
  目の前の男性はサングラスのせいか、いかつい印象だけど、実際はそうでもないらしい。物腰の柔らかい人だ。
「うちの息子と甥と姪がお世話になってます」
  と丁寧に頭を下げられた。
  そこではたと気付く。桐が息子で甥と姪ってことは……。
「えっ」
「ん?」
  俺は今まで、盛大な勘違いをしていたのかもしれない。

 * * *

「い、従兄弟いとこっすか……」
「そうそう従兄弟なの。あれ?  言ってなかったっけ?」
  友達の家から帰ってきた咲姫は腕を組んで唸っている。心当たりはないようだ。
  言ってなかったような気がする。聞かなかった俺も悪いけど。
「菜月ちゃん達は海外出張とか多いから、昔から桐は家で預かってたんだ。その名残で兄ちゃん姉ちゃんって呼ばれてるんだよ」
  菜月さんとは、桐の母親の名前だ。
「あの人達、結構凄い人でさ。ほら、私達は両親いないじゃん?  けど、お金はあの二人が稼いできてくれるの」
「へえ……」
  これはいよいよ頭が上がらない。
  彼等が稼いでくれているお金は、間違いなく俺の分も入っている。もちろん、個人的に使うお金は自分が貯めてきたものを使っているが、そううまくはいかないことの方が多い。
「ねえ桐~。学校はどうなの~?」
  桐の母親──菜月さんがそう言ったのは、単なる会話の流れからだったのだろう。
  けど、桐の顔から笑みが消えた。
「…………」
  項垂れる桐を見て、菜月さんはため息をつく。
「もー。三年生でしょ?  十羽と咲姫以外にも友達作りなさいよ」
「別に、そんなのいなくたって……」
  桐は口を尖らせる。
  気持ちはわからなくもない。人間関係ほど難しいものはないだろうし、学校の、小さなコミュニティの中では尚更。自分もそんな時期があった。
「そういえばあの子はどうなったの?  前に家に遊びに来てた──」
  菜月さんが特定の名前を出そうとすると、桐はどこかへ逃げていった。咲姫が追いかけようとして足を前に出したが、やめてしまった。
  その姿が見えなくなると、菜月さんは苦笑いしていた。
「あらま。ちょっといじめすぎたかしら?」
  桐の父親──恭輔さんは首を縦に振る。
「僕等が口を出していい問題じゃないだろ。基本家にいないんだし」
  菜月さんは言い返さなかった。
「私のお父さんとお母さんがいなくなってから、菜月ちゃん達が代わりになってくれた。けど、どうしてもお金が続かなかったの」
  咲姫が言った。
  元々彼等がどれだけの収入を得ていたのかはわからないけど、突然さらに二人分のお金がかかるようになってしまったのだ。生活が苦しくなってもおかしくない。
「だから二人が頑張ってくれて、元々小さかった個人の会社を大きくして……。その代わりに、ほとんど家に帰れなくなった」
  咲姫は悲しそうな目で、彼等の後ろ姿を見ている。
  彼等も犠牲者の一人であるのは間違いないけど、一番板挟みになっているのは桐かもしれない。
「菜月ちゃん」
  咲姫は落ち込む二人に話しかけにいった。
「多分桐、また犬とか猫とか匿ってるから、タオル準備して!」
  咲姫は菜月さんの背を押す。押されている方は、話が読めずに目を白黒させている。
「ど、どういうこと?  桐が?  なんで?」
「桐ね、呪術士なの。怪我とか治せるんだよ」
「…………」
  こちらから菜月さんの反応は見えなかった。
「桐は優しいんだよ?  人間のお友達は全然できないけど、月に一回は野良の猫や犬を拾ってきて、治療してるの」
  声が弾んでいた。従弟おとうとを、誇りに思う声。
「大丈夫だよ!  そのうち、うまくいくから」
  少し唖然とした菜月さんは、突然吹き出した。
「ちょっと咲姫。なんなの?  その根拠のない自信は!」
  笑われた咲姫は慌てている。
「い、いいでしょ!  期待したって!」
  楽しそうに笑う二人を、俺は少し離れた場所から見ていた。
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