魂の封術士

悠奈

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第五章

第二十八話

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「咲姫が、消えたそうだ」

  真っ先に反応したのは桐だった。
「姉ちゃんが!?  どういうことだよ!」
  飛びかかろうとする桐を十羽さんは片手で制する。
「落ち着け」
  冷静にそう言われて、桐は食い下がった。落ち着いた頃を見計らって十羽さんは静かに口を開く。
「さっき倉橋さんの家から電話があった」
  倉橋さんは咲姫の友達で、彼女と咲姫を含む数人で勉強会をしていたはずだ。
「あまりにも部屋が静かなものだから、倉橋さんのお母さんが様子を見に行ったそうだ。そしたら、そこにいたはずの人が消えていた。──咲姫を含め、全員」
  隣に立つ桐は真っ青な顔をしている。
「気付かないうちに家を出たとかではない……ですよね?」
  帰ってきた答えはやはり、微かな希望を奪うものだった。
「それはない。市営住宅の四階だからな。さすがに窓から出ていったなんてことはないだろう」
「…………」
  誰か一人がいなくなった、という問題ではない。そこにいた全員が音もなく消えたのだ。
「あと一つ」
  その声に、怒りを感じたのは気のせいだろうか。

「部屋に、血の痕があったそうだ」

「え……」
  思わず絶句した。
  隣の桐が、いよいよ泣き始めた。よろよろと十羽さんにすがりつく。
「嘘だろ?  姉ちゃんがいなくなったって……。探しに行けば、すぐに──」
「駄目だ」
  しゃくりあげて泣く桐を十羽さんは低い声で制した。
「なにがあるかわからない」
「だけど!」
  尚桐は食い下がる。
「だけどオレは呪術士だから!  姉ちゃんは放っておけないよ!」
  そう泣き叫びながら、めちゃくちゃに涙を拭っている。なにが、彼をそうさせているのだろう。
  十羽さんはその視線に合わせた。
「お前の能力じゃ、それは無理だよ。なにもできないとは言わないけど……。危険だ」
  反駁は返ってこない。
  呪術士や封術士の能力は、日常生活には役立たないことが多い。その代わり、ある条件下においては絶大な効果を発揮する。それは俺も咲姫も、桐も変わらない。
  今回、桐の場合は当てはまらないのだ。
「あの」
  口を挟んだ。
「その近くに行くだけならいいですか?」
  視線が自分に集まる。桐が泣きはらした目で不思議そうに見てくる。
「近くまで行ってみて、自分の能力に及ばないと判断したらすぐに諦めます。俺達だけでどうしようもできないなら、誰かに助けてもらえばいいから」
  それができなくて、失敗したんだ。次は、絶対にそうなってはいけない。
  桐に視線を向けると、ぷいとかわされた。構わずに続ける。
「俺は咲姫ほど万能じゃないけど、魂関連なら、まだどうにかできると思うから」
  桐は顔を背けたまま言った。
「じゃあ、オレはどうすれば……」
「待ってればいいんだよ、その『友達』を」
  落ち着いた声が響いた。
「母さん……。父さん……?」
  桐は放心して呟く。
「桐は、咲姫のことも一希君のことも信じていなさすぎるんだよ。勿論、他の人のことも」
  恭輔さんは言う。
「そんなこと……ない……」
  反論に自信がないのは、心当たりのある現れだろう。
「そうそう。桐はもしものときに備えておけばいいの。咲姫やお友達が怪我してたときのために」
  菜月さんも声を揃える。
「一希君、十羽。うちらの姪を頼むよ」
「その後になにがあってもいいように、僕等は備えておきますから」
  二人は桐の小さな背中を押した。
「ほら~。準備するよ~」
「あとその仔犬の世話もだな」
「……うん」
  思わず、彼等の姿を目で追っていた。
「一希君?」
  十羽さんに呼ばれて我に返る。
「すみません。……なんでもないです」
  うらやましいとは言えなかった。
  ようやく彼等から目を離すと、十羽さんはなぜか準備運動をしていた。
「あ、あの、なにしてるんですか?」
  なにをしているのかは明白だったが、口に出さずにはいられなかった。
「うん?  準備運動だけど」
「いやそうじゃなくて……」
  それで伝わったみたいだ。
「いやー。僕も行こうかなと思って。妹が心配だし」
  さっきまでの真面目な雰囲気はどこへ行ったのだろう。十羽さんは気の抜ける表情で屈伸している。
「桐もだけどさ、君も気負いすぎるところあるよね」
「…………」
  否定はできない。
「君の覚悟は尊重したいけど、ちょーっと弱いかな。意思じゃなくて術士としての能力が」
  十羽さんはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「だから、オニイサンが手助けしてあげようと思って」

 * * *

  そこは、見たことのない場所へと変わっていた。
「ん……?」
  目が覚めてすぐに飛び込んできたそれに、私は目を疑った。
  どこかで、見たことがある。
  暗い宙に漂う、不定形の粒子。その数は三。
「ああ、そうか」
  私は、彼がいた場所で、そしてあの神社で、同じものを見たのだ──。
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