魂の封術士

悠奈

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第十一章

第五十三話

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  二月上旬。一年ほど続いた受験生生活も終わりが見え始めた。
「……なのに、なんでこんなに災難続きなんだろ」
  げんなりしながら帰途につく。
  俺、なにしに来たんだっけ?  受験に来ただけだよな?
  ちゃんと確認したはずなのに道間違えたし、知らない人に変な宗教っぽい勧誘受けたし、犬には追いかけられるし……。幸先悪いな。どうしたらいいんだ。
  道はなんとか思いだしたし、勧誘のおっさんは追い返したし、犬はちゃんと飼い主のところに戻ったけど、悪いことが起こりそうな予感がして気持ち悪い。悪いことって大体続くしな。なにも起こらないことが一番なんだけど。一人なのが余計に不安だ。
「まさか、このまま久世さんが現れるとか、そんなことないよな……?」
  この流れだと、そんなことになってもおかしくない。今までの流れは全部フラグだったのか?
「…………」
  そんなことを考えていても時間の無駄なので、思考を切り替え田んぼ道を歩く。水原ほどではないが、雲谷から電車の駅まではかなりあるので、一時間近く歩くことになってしまった。バスを待つより歩いた方が早い。そんなばかな。
「…………」
  周りに人はいないから、次から次へと雑念が頭に降りてくる。
  久世さん、か。あれから半月近く見てないけど、どうしてるんだろうな。
  あの日襲われた奴等の魂は、全部空へ還った。そのうち一つは消えたのだけど……。久世さんからしたら同義だろう。
  つまり、彼はいつ現れてもおかしくないのだ。
  受験の日とかに来たら嫌だなとか、能天気なことを一週間前まで言っていたけど、それはなんとか回避できた。もし、落ちたらまた同じ状況に逆戻りだけど。
  ……この話題はやめよう。試験問題自体はちゃんと解けたはずだし、なんとかなってる。……多分。
  できることなら、久世には来てほしくない。
  久世さんがなにを思っているのか知らないけど、俺には彼と戦わなきゃいけない絶対的な理由がない。というよりは、戦いたくない。
  もちろん、あの事件を引き起こしたあの人は憎いけど、なんらかの罰は受けてほしいと思うけど……。ここで俺があの人に復讐しても、なにも変わらない。俺の最終目標は、あいつ等の魂を救うことであって、あの人をどうにかすることじゃない。
  私刑はしたくない。そんなこと、誰も望まなかった。自分を手にかけた人の正体を知った、南帆ですら。
  かといって、法で裁くこともできないんだよな。久世さんが事件を起こした証拠が見つからない限り、どうしようもない。既に捜査も打ち切られている。
  彼がどんな行動を起こしたって、俺には関係ない。
  そんな状況に少し安心している自分もいるし、煩わしく思う自分もいる。
  私刑はしたくない。戦いたくない。それは本心だけど、なにか違う。
「はぁ……」
  思わずため息をついた。
  そうだ。それが全てだ。全部綺麗事なのだ。

  久世さんに、なんらかの形で罰を与えたい。

  それが自分の本心だ。
「……結局、一番嫌な奴なのは俺だったってわけか」
  雪でも降りそうな山の奥で、鳥が一声鳴いた。

 * * *

「うぅ~……。寒いねぇ。さすが二月」
  おやじくさいことを言いながら、咲姫がこたつの中でうずくまっていた。
「そりゃまあ、これだけ雪が降ってたら……」
  ここは山のすぐ近くだけど、比較的降雪量が少ない地域だ。とはいえ、その事実を嘲笑うような雪が降り積もっている。受験当日に降らなかったことが奇跡みたいだ。
「これでも少ない方だけどね~。この冬は暖冬だから」
  と、十羽さん。彼もこたつの中でみかんを剥いている。桐はみかんが好きだから、家には大量のみかんが置いてある。消費スピードがめちゃめちゃ早い。
「一希君いる?」
「あ、ありがとうございます……」
  ナチュラルにみかんを渡される。いいのかこれで。
「あ、そうだ!  試験どうだった!?  面接は!?」
  唐突に思い出したかのように咲姫が叫ぶ。
「それ聞くの遅くない?  二日前の話だけど」
「わ、私だって自分のことあるもん……」
  咲姫は顔を赤くしてこたつに潜り込む。がちで忘れてたやつだ。見てる分には面白いけど、完全に機嫌を損ねられる可能性があるのでやめておく。
「俺が受けたところは面接ないからわからないけど……。問題自体は過去問とそこまで変わらない感じ」
  これがなんの参考になるんだろう、と疑問に思いつつ答えてみる。
「へー……そっか。やっぱりそんなものなんだね」
  心底安心した顔をされる。そんな顔をするようなことを言っただろうか。
「もー……。お兄ちゃんとか菜月ちゃんが私のこと脅すから……」
「ふっふっふ。騙されるお前が悪いんだぞ~」
  咲姫と十羽さんの会話で、大体の流れが見えた。あまりにも勉強しない咲姫を、大人達がよってたかっていじめたわけだ。
「まあ、突然難しくなることもあるみたいだし、気は抜かない方がいいと思う」
「今枝君までそれ言うのね……。わかったよ、勉強します……」
  咲姫がとぼとぼと部屋を出る。なにかまずいことを言っただろうか。
「ははは……。受験生は仕方ないねぇ……」
  十羽さんが他人事のように呟く。
  俺はまだ、そうは言えなかった。

  * * *

「……眠たい」
  やばい。第一志望の受験終わったからって気が抜けすぎてる。眠い。
  まさか寝坊するとは思わなかった。咲姫にも置いていかれたし……。やっぱり受験の日のあれはフラグだったのか。
  眠い目をこすりながらとぼとぼ歩く。走らなくてもギリギリ遅刻は免れるはず。
  踏み固められた雪がざくざくと鳴る。人の足で灰色になった雪が視界に入る。下ばかり見ていると頭が重くなってくるので、無理矢理顔をあげてみる。
「え……」
  ついさっきまで頭を覆っていた靄は晴れた。
「うそだ……ろ」
  いつもと変わらない空、道、人。その中にある、無数の魂。

  それが本当にあの人の仕業なら、あの人はどれだけの罪を重ねるつもりなのだろうか──?
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