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第十一章
第五十五話
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彼は笑っていた。昔と、俺みたいな下級生をいじめていたときと、同じような顔で。
──懐かしいな。
いい思い出じゃないはずなのに、そんなことを思ってしまった。
「あーあ、お前もバカだなぁ……。全部本気でやっちゃったの?」
嘲笑を含んだ声が鳴り響く。
目線が俺から外れる。
「このおにいさんに任せれば、お前が全部手を下す必要もなかっただろ? なあ、一希」
「…………」
この人は、なにも間違ったことを言っていない。十羽さんと俺の実力は天と地以上にある。十羽さんに全部任せられるのなら、それが一番最善だ。
それでも、その方法を取らなかった。そのこと自体には後悔はない。自分ができることをしただけなのだから。
十羽さんでも、魂を消すこと自体はできるのかもしれない。いや、できるのだろう。けど、それだけはしたくないんだ。
笑えてくる。全部、今となっては愚策だった。
「オレにとっちゃ、お前は邪魔なわけ。わかる?」
そりゃそうだろうな。俺は久世さんから見た「敵」なんだから。しかも、最終目標は俺を殺すことときた。
「だからさ」
どこからか札が出される。種類まではわからない。
「大人しくしとけよ」
笑みが一層深くなった。
目の前でバチッと火花が散る。俺じゃない。
「……十羽さん?」
この人がいの一番に手を出すとは思わなかった。
「一希君ひどいなぁ……。その反応はないだろ。まさか僕がぼけーっと見てるだけだとでも思っていたのかい?」
「う……」
ピンポイントでそこを突かれるとは思っていなかった。痛い。
「君がどれだけきつーい修行をしていたかは知らないけどね、僕だって負けるつもりはないよ」
笑顔だった。物凄く怖い笑顔だった。
「いやぁ~。まけたまけたー」
「なに呑気なこと言ってんだよ兄ちゃん! 自分から喧嘩ふっかけて負けるとか、めっちゃカッコ悪いじゃん!」
十羽さんは桐に背中を叩かれて呻く。結構いい音が鳴った。
「……後でお小遣い貰うからね」
「はーい、どうもありがとうね~」
ゲームを中断させられたのが相当不服だったらしい。声が怒っていた、
この家のドンは桐だな。直感的にそう思った。
あの後、久世さんは他の魂を使わなかった。多分使えなかったんだと思う。あの場所には人がいなかった。だから引き出す魂もいないのだ。
「はぁ~。つまんないねぇ。途中で逃げちゃうなんてさぁ」
「どっちもどっちだと思いますけど……」
戦いは手に汗握る展開になった。……って、完全に外から見ていたら思ったんだろうな。部外者じゃないから、そんなことを思う余裕なんかなかったけど。
戦局はどちらにも傾かなかった。強いて言うなら、十羽さんの方が厳しそうだったかな。楽しそうに笑っていたけど。
十羽さんは左腕、久世さんは右足に怪我を負ったところで久世さんが逃げた。戦略的逃走とかって、十羽さんは言ってたな。本人は自分が負けたとは言っているけど、俺は久世さんがずるいと思う。
今は神社に戻ってきて、桐の能力で十羽さんの怪我を治してもらったところだ。
「彼強いねぇ。一希君大丈夫?」
そう聞かれて「はい。大丈夫です」と答える自信はない。十羽さんでもあんなだったのに、俺が敵うとも思えない。
術士本人の技量を無視したら、封術士の方が有利なはず。だから大丈夫、なんて口が裂けても言えない。
思考がネガティブな方向へ向かいそうになったところに、騒がしい足音が聞こえてきた。
「今枝君大丈夫!?」
見なくてもわかる。咲姫だ。
「俺は大丈夫……。っていうか、十羽さんの方が重症」
「おいおい一希君。重症ってほどの怪我はしてないよ?」
咲姫は長いため息を吐き出した。
「もー、聞いたよ? 久世さんに遭遇したんだって? それでお兄ちゃんが相手したんでしょ?」
さすが桐。情報が早い。
「無茶しないでよぉ……。お兄ちゃん、なにしでかすかわからないんだから……」
心配するのはそっちだったか。
「大丈夫大丈夫。そんなことする余裕なかったから」
十羽さんは笑顔で言う。
「え、余裕あったらなにかするつもりだったんですか?」
「そうだけど?」
久世さんを応援するわけにはいかないけど、こればかりは逃げてくれと思ってしまった。なにをするつもりだったんだろう。
話がおかしな方向に進みそうになったのを引き戻したのは咲姫だった。
「ねえ、今枝君はこの後どうするつもりなの?」
すぐに答えはだせなかった。
「ここまできたら久世さんは止まらないでしょ? こんなこと考えたくないけど、君に万が一のことがあっても……」
一度言葉が途切れる。
「……私は、嫌だし」
その言葉を聞いた途端、十羽さんの顔が神妙になる。え、なにそれ。どういうこと?
「咲姫……。まさかお前……?」
言葉とともににやついていく。
咲姫が呆れたように呟いた。
「お兄ちゃんが変なこと言わないように言葉選んだのに……」
なんのことだか全然わからないが、どうやら十羽さんの思惑は外れたらしい。
彼はすぐに真顔になった。相変わらず切り替えが早い。
「僕も聞きたいな。君が、どうしたいのか」
俺が、と口の中で転がしてみる。答えは出かかっているのに、言葉にならない。
危険性は十分に承知しているつもりだ。自分がなにをするべきで、彼等がなにを望んでいるのかも。
けど、それじゃ納得できない。俺だけじゃなくて、多分あいつ等も。
「賭けてみたい」
道が見えた途端、詰まっていた言葉がすらすら出てきた。
「賭けてみたいです。争うことなく、終われる方法に」
このとき彼女が浮かべた表情の異常さに、俺は気付いていなかった。
──懐かしいな。
いい思い出じゃないはずなのに、そんなことを思ってしまった。
「あーあ、お前もバカだなぁ……。全部本気でやっちゃったの?」
嘲笑を含んだ声が鳴り響く。
目線が俺から外れる。
「このおにいさんに任せれば、お前が全部手を下す必要もなかっただろ? なあ、一希」
「…………」
この人は、なにも間違ったことを言っていない。十羽さんと俺の実力は天と地以上にある。十羽さんに全部任せられるのなら、それが一番最善だ。
それでも、その方法を取らなかった。そのこと自体には後悔はない。自分ができることをしただけなのだから。
十羽さんでも、魂を消すこと自体はできるのかもしれない。いや、できるのだろう。けど、それだけはしたくないんだ。
笑えてくる。全部、今となっては愚策だった。
「オレにとっちゃ、お前は邪魔なわけ。わかる?」
そりゃそうだろうな。俺は久世さんから見た「敵」なんだから。しかも、最終目標は俺を殺すことときた。
「だからさ」
どこからか札が出される。種類まではわからない。
「大人しくしとけよ」
笑みが一層深くなった。
目の前でバチッと火花が散る。俺じゃない。
「……十羽さん?」
この人がいの一番に手を出すとは思わなかった。
「一希君ひどいなぁ……。その反応はないだろ。まさか僕がぼけーっと見てるだけだとでも思っていたのかい?」
「う……」
ピンポイントでそこを突かれるとは思っていなかった。痛い。
「君がどれだけきつーい修行をしていたかは知らないけどね、僕だって負けるつもりはないよ」
笑顔だった。物凄く怖い笑顔だった。
「いやぁ~。まけたまけたー」
「なに呑気なこと言ってんだよ兄ちゃん! 自分から喧嘩ふっかけて負けるとか、めっちゃカッコ悪いじゃん!」
十羽さんは桐に背中を叩かれて呻く。結構いい音が鳴った。
「……後でお小遣い貰うからね」
「はーい、どうもありがとうね~」
ゲームを中断させられたのが相当不服だったらしい。声が怒っていた、
この家のドンは桐だな。直感的にそう思った。
あの後、久世さんは他の魂を使わなかった。多分使えなかったんだと思う。あの場所には人がいなかった。だから引き出す魂もいないのだ。
「はぁ~。つまんないねぇ。途中で逃げちゃうなんてさぁ」
「どっちもどっちだと思いますけど……」
戦いは手に汗握る展開になった。……って、完全に外から見ていたら思ったんだろうな。部外者じゃないから、そんなことを思う余裕なんかなかったけど。
戦局はどちらにも傾かなかった。強いて言うなら、十羽さんの方が厳しそうだったかな。楽しそうに笑っていたけど。
十羽さんは左腕、久世さんは右足に怪我を負ったところで久世さんが逃げた。戦略的逃走とかって、十羽さんは言ってたな。本人は自分が負けたとは言っているけど、俺は久世さんがずるいと思う。
今は神社に戻ってきて、桐の能力で十羽さんの怪我を治してもらったところだ。
「彼強いねぇ。一希君大丈夫?」
そう聞かれて「はい。大丈夫です」と答える自信はない。十羽さんでもあんなだったのに、俺が敵うとも思えない。
術士本人の技量を無視したら、封術士の方が有利なはず。だから大丈夫、なんて口が裂けても言えない。
思考がネガティブな方向へ向かいそうになったところに、騒がしい足音が聞こえてきた。
「今枝君大丈夫!?」
見なくてもわかる。咲姫だ。
「俺は大丈夫……。っていうか、十羽さんの方が重症」
「おいおい一希君。重症ってほどの怪我はしてないよ?」
咲姫は長いため息を吐き出した。
「もー、聞いたよ? 久世さんに遭遇したんだって? それでお兄ちゃんが相手したんでしょ?」
さすが桐。情報が早い。
「無茶しないでよぉ……。お兄ちゃん、なにしでかすかわからないんだから……」
心配するのはそっちだったか。
「大丈夫大丈夫。そんなことする余裕なかったから」
十羽さんは笑顔で言う。
「え、余裕あったらなにかするつもりだったんですか?」
「そうだけど?」
久世さんを応援するわけにはいかないけど、こればかりは逃げてくれと思ってしまった。なにをするつもりだったんだろう。
話がおかしな方向に進みそうになったのを引き戻したのは咲姫だった。
「ねえ、今枝君はこの後どうするつもりなの?」
すぐに答えはだせなかった。
「ここまできたら久世さんは止まらないでしょ? こんなこと考えたくないけど、君に万が一のことがあっても……」
一度言葉が途切れる。
「……私は、嫌だし」
その言葉を聞いた途端、十羽さんの顔が神妙になる。え、なにそれ。どういうこと?
「咲姫……。まさかお前……?」
言葉とともににやついていく。
咲姫が呆れたように呟いた。
「お兄ちゃんが変なこと言わないように言葉選んだのに……」
なんのことだか全然わからないが、どうやら十羽さんの思惑は外れたらしい。
彼はすぐに真顔になった。相変わらず切り替えが早い。
「僕も聞きたいな。君が、どうしたいのか」
俺が、と口の中で転がしてみる。答えは出かかっているのに、言葉にならない。
危険性は十分に承知しているつもりだ。自分がなにをするべきで、彼等がなにを望んでいるのかも。
けど、それじゃ納得できない。俺だけじゃなくて、多分あいつ等も。
「賭けてみたい」
道が見えた途端、詰まっていた言葉がすらすら出てきた。
「賭けてみたいです。争うことなく、終われる方法に」
このとき彼女が浮かべた表情の異常さに、俺は気付いていなかった。
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