魂の封術士

悠奈

文字の大きさ
60 / 63
第十一章

第五十六話

しおりを挟む

「今枝君、本気で言ってる?」

  ぴしゃりと切り捨てられた。それは無理だと、明確に。
「久世さんって、もう何度も君を襲ってるんだよ?  次はなにがあるかわからないじゃない!」
  彼女が突然態度を変えた理由に、思い当たることができなかった。
  咲姫はため息をつく。興奮する自分を律するように。
「あの人は、危険だよ」
  改めてそう言われると、自分に自信がなくなる。
  わかってるはずなんだ。久世さんは知らない仲というわけでもない。
  だからこそ、俺は甘いのではないか。自分が知っている「彼」を信じすぎているのではないか。
「……咲姫がそれ言うのは、説得力ないんだけど」
「は?」
  今までで一番きつい反応をされた。そうなるだろうな。相当怒ってるみたいだし。
「父さんのときのことだよ」
  あのとき咲姫は父さんに、「実験台になってくれますか?」と言った。けど、裏を返せばそれは、自分のことも実験台にすることになる。自分から危険に突っ込んでいきながら、俺を説教するのはどうかと思う。
「それに久世さんは目的のほとんどは終えてるんだろ?  なら、なるべく穏便に済ませたい」
「『ほとんど』、でしょ。まだ一番大きなのが残ってる」
  言い返せない。結局、一番危険なのは自分なのだ。
「……あの人、どこまで本気なんだろうな」
「さあねぇ~。ちょっと相手しただけじゃわからなかったよ」
  十羽さんが口を挟む。相変わらず緊張感はない。
「とにかく、私は絶対に反対だからね!  そもそも君になにかあったら南帆ちゃんになんて言うの?」
  咲姫が怒鳴る。
「い、いや、なんでその名前が出てくるんだよ」
「なんとなく」
  そんな様子を十羽さんが「ひゅーひゅー」と冷やかしてくる。あなたはちょっと黙っててください。
  無言の睨み合いが続く。先に口を出した方が負けなような気がしてくる。
「俺は、咲姫が思うようなことはしたくない」
  彼女がこれだけ言うのだ。口に出さないだけで、殺すつもりなのはわかる。
  これが最適解なのも理解している。そうしてしまえば、もう二度と手を出すことはできない。
  けど、納得できないのだ。結局やることは久世さんと同じ。彼を法で裁くことができないからといって、そんなことはできない。逆に自分が法に裁かれる可能性もある。
  水原の奴等に冷たいと言われても仕方ないことを考えている。それは自分でも自覚している。けれど、自分が罪を犯して本末転倒になるのは違うと思う。
  咲姫は態度を変えなかった。
「私は、それでうまくいくとは思えない」
  それだけ言って、部屋に籠ってしまった。

 * * *

「はぁ~……」
  思わず盛大なため息をつく。今更後悔しても遅い。そう理解しているからこそしてしまうのだ。
  たった一つの意見の相違が、こんなことになるとは思わなかった。
  あれから咲姫とは口をきいていない。一方的に無視されている状態だ。
  咲姫がそんなになる理由は、桐にはわからないみたいだし、十羽さんも教えてくれなかった。「多分君は知っているはずだ」そう言って。
  久世さん個人に恨みがある、その線は薄いだろう。久世さんは水原の人で、咲姫は雲谷の人だ。接点がない。
  なら、「魂の呪術士」に対して?
「あれ、確かそんな話あった気が……」
  何ヵ月も前の話。脳裏にちらちらと甦る会話。点はぽつぽつと浮かんでいるのに繋がらない。
  自分が嫌になる。そんな重要なことを忘れていて、それを意識した今も思い出せないでいる。
  無意味な思考と一緒に足が動く。気づいたら、南帆が雲谷に来てからずっといた川だった。
  水辺の突き刺すような寒さは人を寄せ付けない。俺以外に人はいなかった。
  川に沿って歩いてみる。目的はない。なんとなく、そうしてみたかったのだ。
  下を向いて、なんの変哲もない砂利道を見ながら歩く。歩くのは嫌いじゃない。なにも考えなくてすむから。
  段々日が傾いてきた。さすがに帰らないとまずいかなと思い始めたとき、なにかの音が聞こえてきた。
  なんの音かまでは、判別できない。
  嫌な予感がして足を速める。自分に関することだとは限らないのに胸騒ぎがする。
  なにもなかったねで終わってほしい。頭の中はそればかりだった。
  彼等がいたのは、そう遠い場所ではなかった。

  何度目だろう?  自分の目を疑うのは。

「なんで……お前が……」
  そこに久世さんがいた。そんなのは問題じゃない。
  問題なのは、そこにいる、彼女。
「咲姫……なにやって……」

「私は、あなただけは許せない」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

Emerald

藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。 叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。 自分にとっては完全に新しい場所。 しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。 仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。 〜main cast〜 結城美咲(Yuki Misaki) 黒瀬 悠(Kurose Haruka) ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。 ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

処理中です...