魂の封術士

悠奈

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第十一章

第五十七話

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  ──それはもう、何度も聞いたよ。
「ああ!  そうね!  そうなのね!  お前がその力を継いだのね!」
「お前にはそれを成す能力があるんだな」
「だから頑張ってちょうだい。果たすのよ。『彼』の悲願を」
  ──そんなこと、お前等以外の誰が望んでるっていうんだ。

  ──そのうち、そんなことすらどうでもよくなった。

 * * *

「なんだよお前。一希の彼女?  あいつも罪な奴だなぁ。南帆がいるだろ。可哀想になぁ……」
  久世さんは呆れたように言う。咲姫の返答を待つこともなく、一人で喋り始める。
「あ、それかあれか?  こないだ一希と一緒にいたにーちゃん。あいつの兄妹とか?  よく見たら似てるな。それなら申し訳ないことしたな~。けど、先に襲ってきたのはあいつだぜ?  ここはお互い様ってことで許してくれや」
  久世さんはケラケラと笑っている。こちらからは、咲姫の表情は見えない。微動だにしない。
「そんなのはどうでもいいよ。お兄ちゃんは無事だった。だからいい、そんなこと」
「ふぅん。あっそ」
  自分から話を振ったくせに、久世さんはそこまで興味がないようだ。
「あなたでしょう?  お母さんとお父さんの身体から魂を抜いたのは」
  久世さんの表情が変わった。額に手を当てて、なにかを思い出そうとしている。
「お前、名前は」
「小和田咲姫」
  久世さんの顔がハッとなる。
「ああ!  そういうこと?」
「…………」
  どうしてこの人はこんなにも嬉しそうなんだろう。彼がこんな顔をすのは、「誰かをいじめている」ときくらいしか思い当たらない。
「なるほどな。思い出したよ」
  それでも彼は笑っていた。

──ああ、咲姫があのときあれだけ怒っていたのは、そういうことだったのか。

  血の気が引いていくのがわかる。なんで、こんなに大切なことを思い出せなくなっていたのだろう。
  咲姫も、この人の被害者なのだ。
「オレはそんなつもりなかったんだよ。漸く使えるようになった術を親親戚が試せ試せとうるさくてさ。遠い親戚の家に集まるっつうときにやらされたんだよ」
  人が犠牲になっているというのに、どうしてこの人はこんなにも笑顔でいられるのだろう。
「やってみたはいいが、戻し方がわからなくてな。そのときは知らなかったんだよ。オレができるのは魂を身体から抜くところまで。戻すのは『魂の封術士』にしかできないってのは」
  無知は罪だとどこかで聞いたことがある。けど、こんなのはあまりにも……。
「それからほとんど能力は使わなくなったよ。けど、親父とお袋が病気になってから思うようになったんだ。家に伝わる『誰か』の望みを叶えなきゃいけないって。札が使えるようになった日から、毎日毎日同じことばかり言ってたからなぁ」
「それで起こしたのが、水原の事件ですか?」
「そ。察しがいいねぇ」
  悪びれる様子は一切なかった。
  この人がなにを教えられたのかは知らない。彼がしたことが全てだ。
「お前は親の敵うちのつもり?」
  咲姫は言った。
「そう……かもね。けど、ちょっと違うよ」
  久世さんの顔から笑みが消える。
「私一人だけじゃないもの」
  すると咲姫がくるっと振り替える。
「今枝君」
  突然のことで咄嗟に反応ができなかった。俺の反応を待たずに続ける。
「手はださなくていいからね」
「…………」
  なにも言えなかった。言うことができなかった。

  戦局は言わずもがな。
  圧倒的に咲姫が劣勢だった。
「オラオラ!  さっきまでの威勢はどうしたんだよ!」
「っ……」
  久世さんはどこからか引き連れてきた魂を使っているけど、咲姫にはそれをどうにかする能力はない。
  いや、そんなことはない。彼女にも方法はある。「魂を消す」という方法が。
   咲姫は絶対にその方法をとらない。それは多分、久世さんも察しているのだろう。わかっていて遊んでいるのだ。
「お前じゃオレは倒せない。やめておくんだな」
  咲姫は悔しそうな顔で睨む。事実を突き付けられたから、余計に悔しいのだろう。
「一希に手ぇ出すなつった以上、助けを求めるわけにもいかねぇしなぁ」
  久世さんは堪えきれない笑いを溢す。昔もよくこんな笑い方をしていたな。相手が折れた瞬間が好きな人だ。
「こいつはつまんなかったな~。ようやくお前に乗り換えられるよ」
  久世さんは俺に視線を向ける。
「なあ、一希」
「…………」
  普通に戦って勝つのは、俺には無理だ。甘い考えじゃ確実にやられる。咲姫の言った通りだ。
  ならどうする?  どうしたらいい?
  咲姫がこっちを見ている。目があった。目だった怪我はないようだ。一先ず胸を撫で下ろす。
──どうして「封」術士なんだろう。
  前にそんなことを思ったのを思い出す。
  それと同時に、一ヶ月ほど前の記憶も甦る。

──そうか、俺がしなきゃいけないのは、これだったんだな。
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