61 / 63
第十一章
第五十七話
しおりを挟む──それはもう、何度も聞いたよ。
「ああ! そうね! そうなのね! お前がその力を継いだのね!」
「お前にはそれを成す能力があるんだな」
「だから頑張ってちょうだい。果たすのよ。『彼』の悲願を」
──そんなこと、お前等以外の誰が望んでるっていうんだ。
──そのうち、そんなことすらどうでもよくなった。
* * *
「なんだよお前。一希の彼女? あいつも罪な奴だなぁ。南帆がいるだろ。可哀想になぁ……」
久世さんは呆れたように言う。咲姫の返答を待つこともなく、一人で喋り始める。
「あ、それかあれか? こないだ一希と一緒にいたにーちゃん。あいつの兄妹とか? よく見たら似てるな。それなら申し訳ないことしたな~。けど、先に襲ってきたのはあいつだぜ? ここはお互い様ってことで許してくれや」
久世さんはケラケラと笑っている。こちらからは、咲姫の表情は見えない。微動だにしない。
「そんなのはどうでもいいよ。お兄ちゃんは無事だった。だからいい、そんなこと」
「ふぅん。あっそ」
自分から話を振ったくせに、久世さんはそこまで興味がないようだ。
「あなたでしょう? お母さんとお父さんの身体から魂を抜いたのは」
久世さんの表情が変わった。額に手を当てて、なにかを思い出そうとしている。
「お前、名前は」
「小和田咲姫」
久世さんの顔がハッとなる。
「ああ! そういうこと?」
「…………」
どうしてこの人はこんなにも嬉しそうなんだろう。彼がこんな顔をすのは、「誰かをいじめている」ときくらいしか思い当たらない。
「なるほどな。思い出したよ」
それでも彼は笑っていた。
──ああ、咲姫があのときあれだけ怒っていたのは、そういうことだったのか。
血の気が引いていくのがわかる。なんで、こんなに大切なことを思い出せなくなっていたのだろう。
咲姫も、この人の被害者なのだ。
「オレはそんなつもりなかったんだよ。漸く使えるようになった術を親親戚が試せ試せとうるさくてさ。遠い親戚の家に集まるっつうときにやらされたんだよ」
人が犠牲になっているというのに、どうしてこの人はこんなにも笑顔でいられるのだろう。
「やってみたはいいが、戻し方がわからなくてな。そのときは知らなかったんだよ。オレができるのは魂を身体から抜くところまで。戻すのは『魂の封術士』にしかできないってのは」
無知は罪だとどこかで聞いたことがある。けど、こんなのはあまりにも……。
「それからほとんど能力は使わなくなったよ。けど、親父とお袋が病気になってから思うようになったんだ。家に伝わる『誰か』の望みを叶えなきゃいけないって。札が使えるようになった日から、毎日毎日同じことばかり言ってたからなぁ」
「それで起こしたのが、水原の事件ですか?」
「そ。察しがいいねぇ」
悪びれる様子は一切なかった。
この人がなにを教えられたのかは知らない。彼がしたことが全てだ。
「お前は親の敵うちのつもり?」
咲姫は言った。
「そう……かもね。けど、ちょっと違うよ」
久世さんの顔から笑みが消える。
「私一人だけじゃないもの」
すると咲姫がくるっと振り替える。
「今枝君」
突然のことで咄嗟に反応ができなかった。俺の反応を待たずに続ける。
「手はださなくていいからね」
「…………」
なにも言えなかった。言うことができなかった。
戦局は言わずもがな。
圧倒的に咲姫が劣勢だった。
「オラオラ! さっきまでの威勢はどうしたんだよ!」
「っ……」
久世さんはどこからか引き連れてきた魂を使っているけど、咲姫にはそれをどうにかする能力はない。
いや、そんなことはない。彼女にも方法はある。「魂を消す」という方法が。
咲姫は絶対にその方法をとらない。それは多分、久世さんも察しているのだろう。わかっていて遊んでいるのだ。
「お前じゃオレは倒せない。やめておくんだな」
咲姫は悔しそうな顔で睨む。事実を突き付けられたから、余計に悔しいのだろう。
「一希に手ぇ出すなつった以上、助けを求めるわけにもいかねぇしなぁ」
久世さんは堪えきれない笑いを溢す。昔もよくこんな笑い方をしていたな。相手が折れた瞬間が好きな人だ。
「こいつはつまんなかったな~。ようやくお前に乗り換えられるよ」
久世さんは俺に視線を向ける。
「なあ、一希」
「…………」
普通に戦って勝つのは、俺には無理だ。甘い考えじゃ確実にやられる。咲姫の言った通りだ。
ならどうする? どうしたらいい?
咲姫がこっちを見ている。目があった。目だった怪我はないようだ。一先ず胸を撫で下ろす。
──どうして「封」術士なんだろう。
前にそんなことを思ったのを思い出す。
それと同時に、一ヶ月ほど前の記憶も甦る。
──そうか、俺がしなきゃいけないのは、これだったんだな。
0
あなたにおすすめの小説
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語
紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。
しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。
郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。
そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。
そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。
アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。
そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる