息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

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16・求める夢に忠実であれ女子高生3

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16・求める夢に忠実であれ女子高生3


「結衣、結衣、結衣!」

 翌日という世界の朝、学校へ向かって歩いていた結衣の意識が戻る。

「結衣、朝から何をボーっとしているのかな?」

 仲のいい友人は午前7時50分からテンションが高い。それと比べれば結衣の顔色は明らかにすぐれない。

「あぁ、あの日?」

「ち、ちがうよ、そういう事を大きな声で言わないで」

 プンプンと怒る結衣の頭の中は、ネットに自分のイラストを出すという事ができなかった後悔に包まれていた。しかしまだ時間はあるはず、今からでもやろうと思えばやれる! という考えも沸くから、激烈な麻薬を2つ同時にやったみたいに心がグラグラする。

「ねぇ、結衣、なんか夢とかある?」

「な、なに急に」

「いやぁ、最近しくじったような気がするんだわ」

 巨乳女子のとなりを歩く友人は、いい天気の空を見上げながら物悲しそうにつぶやくのだった。

 彼女いわく、小学生のとき青春も夢もなし。中学になったら……と思っていたが、年齢が上がっただけで大きな変化はなかった。それならまさに高校生のときに! と思っていたものの、つまらない現実に伏した幼な気がする。彼女は自分の日常を、どんどん固くなっていくだけだとぼやく。

「結衣だったらなんか夢を隠し持っていそうな気がするんだけど」

「ゆ、夢……」

 巨乳というふくらみの中に叫びたいという衝動が沸く。まさにいまここでそれをやると、勢いが得られるのでは? と興奮しそうにもなる。

「ゆ、夢っていうのは……ない。これといったのはない」

 言ってしまった、一番ダメだと思うつぶやきをやってしまった。その事を後悔しつつ訂正しなかったから、友人のつぶやきによって夢のない人って事実が完成させられてしまうのだった。

「結衣も夢なしか」

「う、うん」

「でもさぁ、結衣ってかわいい上に乳がデカいじゃん」

「そういう言い方は……」

「巨乳アイドルとかやれば?」

「いやだよ、そんなの」

「わたし結衣だったら、それを夢にするけどなぁ」

 こんな会話をするとき心の中は雨雲という結衣だった。もはや夢なし人という事実が出来上がってしまい、それでもいいやと受け入れた自分を許したり許せなかったりと不安定で胸が苦しくなる。そしてあっという間に昼休みになると、結衣は友人たちの目を振り切るようにして、体育倉庫の裏側に身を潜めた。

「まだ間に合う……今からでもできる」

 結衣はスマホを見つめながら、とあるページを見ながら息をのむ。そこはイラストでも小説でもなんでもアップしてかまわないという場所。昨晩、結衣は登録だけはした。ほんとうは作品をアップしたかったが怖くてできなかった。だからいま、スマホに入っているイラストを数枚アップロードしようとする。

「ハァハァ……」

 急速に狭まる呼吸路。酸素欠乏で倒れそうになってしまう。何も悪い事をしようって話ではない。それなのにひどい罪悪感みたいなモノが胸を締め付ける。それがあまりにもきついため立っていられなくなり、結衣はスマホを持ったままかがんでしまう。

「やらないと……いつまで経っても弱虫。それに伊吹さんにだってあきれられてしまう。そんな風になりたくない」

 結衣は画像データを数枚選んだ。うまいか下手かと言われたらまちがいなく下手であろうと思うし、他人が笑うという展開も透けて見える。それでも何か行動しなければと画像を選択。

「ハァハァハァハァハァ……」

 窒息度フルマックス。目の前がグラっと揺らぐ。

「そ、送信ボタンを押せば……」

 押せば……と思っていたが、結衣は右手はすさまじい凍り付くで動かない。送信ボタンを押すための人差し指とかいう以前に、右腕一本がまともに動かせない。

「ぼ、ボタン……ボ……」

 結局……数分悩んだ結衣がやったのは、左手でスマホを地べたに置き、画面をなぞって送信画面を消すという事だった。これにより今送信しようとしたアクションはすべて白紙とされる。

「ハァハァハァハァ……」

 スマホを手に取った結衣だったが、足がふらつき倉庫に背中が当たる。まるで命がけの戦場を潜り抜けたかのごとく汗をびっしょりかき、はげしい呼吸の乱れを整えるのに10分以上要した。

 やってしまった……また逃げてしまった……こう思い校舎に戻る結衣がおちつく時間などない。すぐ授業が始まり学校が終わり帰宅し夕方になり夕飯になり、気がつくと午後8時になっていた。数時間の記憶がほとんどなかった。

―コンコンー

 ドキッとする結衣が目を向けると、窓を外からノックする音、それつまり息吹の到来である。ガラっと窓を開けた結衣だった。そして息吹を中にいれた。しかし机を背中で隠すように位置取りして立つと、観念したような顔ながら言いたい事を言えずに苦悩する。

「作品のアップとかしてないんだ?」

 息吹が言うと結衣の表情がクッとゆがむ。

「で、でも……ユーザー登録はしました」

 ムダな抵抗と思いながら、少しは自分を守りたいと思いながら言い返す。負ける、この言い合いに自分は勝てない……と思いながら。

「じゃぁ、今からでもアップしてくれよ。それから見せてくれたらいい」

「……」

「どうした結衣?」

「来年になったらアップします」

「なんだそれ、どういう意味?」

「高校3年生って区切りを迎えた所でやります」

「あぁ……だったら結衣は一生やらないな」

 残念そうな顔を見せる息吹に結衣は近づく。ゆっくり溶けるように顔を赤くすると、息吹のTシャツをつかんで顔を下に向け心細さに耐えられないとアピールする声色で訴えるのだった。

「伊吹さん……」

「うん?」

「だ、抱いてくださいって言ったら……ダメですか?」

「なにゆえそんな流れになるんだ?」

「い、伊吹さんに抱かれたら……わたし、それを励みにしてがんばれそうな気がするんです。いえ、抱いてくれたらわたし、生まれ変わるって約束します」

「そんな約束したって意味ないよ」

「どうしてですか! 巨乳はきらいって事ですか?」

「なぁ結衣、セックスしなきゃ得られない勇気ってなんだよ。セックスとイラストがどう関係あるんだよ。おまえがAVギャルになるっていうなら理解できるけど、そんな話じゃないだろう?」

「い、伊吹さんなら女心に寄り添ってくれると思って」

「どうしてそんなに臆病なんだ、いったい何が怖いんだ」

 息吹、結衣の手を払いのけるとクルっと回って背中を向ける。そして腕組みをして言うべきを言っておく。

「結衣」

「は、はい……」

「もしかして、イラストっておまえの夢ではないのかもな」

「え、え?」

「ふつうはジッとしていられないはずなんだ。他のやつが100枚アップするっていうなら、わたしには300枚アップさせて欲しいというようなノリがあってしかるべきだとおれは思う。おまえにはそれが感じられない」

「だ、だから……伊吹さんが抱いてくれたら、そうしたらわたし……」

「おまえ夢とか捨てたらどうだ?」

「そ、そんな、ひどいこと言わないでください」

「いや、ほんとうマジでそう思う。イラストなんかやめて勉強だけにすれば楽になれる。いっさいの悩みから解放される」

「ど、どうしてそんな意地悪なことを言うんですか!」

「だったら結衣、おまえはどうしてそんなに勇気がないんだ!」

「ゆ、勇気、勇気って……わたしにだって、わたしにだって! その気になればこのくらいのことは」

 結衣、机上のペン入れからデカいハサミを掴む。それ空港の検査だったら絶対に通らないであろう代物。

「わ、わたしだってやる時はやります」

「何をやると?」

「い、伊吹さんが抱いてくれなかったら……自傷します」

「結衣……どうしてそのエネルギーをプラスに向けられないんだ。おまえ、自分を不幸へ落とし込むために生きているのか?」

「わたしだって、わたしだって」

 結衣の脳が少しおかしくなった。まっとうな話にはなかなか燃えないくせして、誤った方向には火力が十分というオーラが立ち上がっている。

「せっかくかわいいのに傷物になるなんて勿体ない」

「ぅ……」

「たのしく生きるっていうのさぁ、それにも勇気がいるんだぞ?」

「だったら抱いてください、わたしの背中を押してください」

「まったく……」

 息吹、おびえるくせに凶悪な状態という少女と目を合わせる。すると結衣の胸がドキッとさせられ足がガクっとなる。

「はんぅ……」

 たまらず恥ずかしさで足を震わせる結衣。

「い、息吹……さん」

 ワープでもしたかのように息吹がすぐ目の間にいる、その事に結衣は戸惑い動けなくなってしまった。

「結衣」

 息吹、ゆっくりと顔を近づけ結衣の色白やわらかい頬にひとつキスをした。

「ん……んぅ……」

 ガチガチに固まりながらドキドキを隠せない結衣、身動きができず息吹に何をされても反対できないような感覚に陥る。

「結衣、夢っていうのはやさしい人間の味方じゃない」

「じゃ、じゃぁ誰の味方なんですか?」

「行動力がある人間の味方」

「ぅ……」

「このままだと不幸になるぞ?」

「で、でも……」

「おれの目を見て見ろ」

「め、目?」

 言われた事に従い目を合わせると、その瞬間ふっと結衣の意識が消えた。それまで味わったことのないステキな流れという感じで意識を失った。

「やれやれ……」

 気を失った少女を抱えベッドに寝かせる。そうして息吹は腕組みをし少し結衣の行く末を考えてみた。

「なにゆえにここまで勇気が出せないのか。ここままだとまちがいなく未来は暗いだろうなぁ。なぁ結衣、おまえはどうしてそんなに臆病なんだ?」

 生前にホストをやっていた頃を思い返す。結衣の年齢って客はいなかったが、動きたくても動けないという女はたくさんいた。行動力のない自分を隠すため、熱弁だけは上手で感心させられるが、いざという感じになるとひっくり返ったようにオドオドびくびくになる。そういう悲しさをホストクラブに来て紛らわせている女たちを、客だからとややつめたい目線で見てきた。しかしいま、この結衣という少女を見ると事は深刻だと思わずにいられない息吹。

「結衣、おまえの内面に入らせてもらうぞ」

 眠っている結衣の額にソッと左手を当てた息吹、スーッと少女の内側世界へ入っていった。
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