息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

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29・モテない、過去の思いが吹っ切れない……などから女を殺したいと思う男6

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29・モテない、過去の思いが吹っ切れない……などから女を殺したいと思う男6


 ふたたび休日。この日、秀樹は女を殺そうと思った。一見何気なく持っている背中のバッグに包丁を入れたのはそのせいだ。
 ついこの間の休日が終わった後、2日ほど感情は安定していた。だが突然何かが壊れたみたいになり、数日経っても一向に回復しない深刻な事態に陥った。昨晩は詩でも書いて気を紛らわせようと思ったが、無価値な涙が止まらず何も書けなかった。

(どこで殺そうか……)

 家を出て歩き出したら考え始める。どこで女という生き物を殺すか、どうせなら一人でも多くとか、目立ち恐怖を与えたいとか、うつくしい晴天に似合わないおぞましい事ばかり考える。

(やっぱり駅……繁華街……〇〇駅か)

 そう思いながらカードを通し改札を抜ける。そして歩き出した時、ふと声をかけられ顔を前に向けた。

「あ、あれ、息吹? なんで……」

「ま、とりあえず行こうか」

 突然に伊吹が現れたあげく、隣を歩かれては調子が狂う。秀樹は非モテのうらみを女に向けたいのであり、男を殺したいとはべつに思っていないからだ。

「なぁ、青山」

「なんだろうか?」

「悪い事は考えるもんじゃないな。人間、たった一回の過ちで取り返しがつかなくなるようにできているんだからさ」

「な、なんだよ急に、人聞きの悪い事を言うな」

「そうか? たとえば憎しみとか殺意とか殺すとかさ」

「う……」

 階段を下りたら電車の姿はないと見えた。だから息吹はイスに腰かけると、となりに座った秀樹に話を続ける。

「こう考えられないかな? 男は面倒くさくてかったるい事が多いけど、べつにそれは女も同じだって。女も大変か……で終わるって事はできないのかな」

「う……んぅ……」

「エネルギーは前向きに使えって。どうせ非モテでつらいなら、非モテが生まれ変わって女とやりまくるような小説でも書けばいいだろう」

「う、うるさいな、何なんだおまえは、年下のくせに偉そうに!」

 グワっと怒りの勢いで秀樹がとなりに顔を向けると、息吹が右の人差し指一本を立て、その先を相手の額中央に向ける。

「ぅ……な……」

「ひとまず寝てろ」

 息吹が言い終えると、秀樹がこっくりと眠ってしまった。まるで寝る時だけが安楽という感じであるが、もし怒りを夢の中に持っていくとすれば、この男は死ぬことでしか安楽が得られない事になるだろう。

「ったく、モテないとは怖いもんだな」

 息吹、そう言って青山秀樹の精神世界に入った。

「うお……」

 秀樹の精神世界、そこはさしずめホットジュピターの裏側だ。真っ暗で本来なら冷たいはずなのに、温度が高く湿気は病的なレベル。

「もうちょいたのしく生きるって事ができないのかよ」

 息吹、暗い中を歩き出す。たまらないなぁと嘆くようにつぶやくのは、空気が粘り気を思わせるほどつよい湿気だからだ。どうやったらここまで精神が狂うのか研究したくなるほどだった。そして……見つけた。青山秀樹としか思えないシルエット。真っ黒ながら手にはずいぶんと切れ味よさそうな刀を持っている。そしてその近くにはいくつかの檻があり、そこには秀樹が疲れた顔で座り込んでいる。つまり正の感情という秀樹や、前向きでありたいとする秀樹など、それらがすべて黒い奴に制圧されているのだ。

「モテない奴のプライドなんか一銭の価値もない」

 息吹が日本刀を持って身構える。黒いのは秀樹にとって生命線であるプライド。ほんとうは黒ではないが、正しさや明るさを殺すために使っていたから黒くなってしまったというわけである。

「プライドがあるから人は生きられる」

 シルエットが叫ぶ、そして刀を上から振り下ろした。ガン! と双方の刀がぶつかり合うと、息吹の片足が地面に少しハマる。

「どうしてマイナスエネルギーばっかり燃やすんだよ、おまえは」

 息吹の刀が押し返し始めた。そして震えるシルエットが膝を落とすと、刀で押しながら同時に足で顔面を踏む。

「おらおら、言ってみろよ、女が好きです、女とデートしたいです、女とセックスしてみたいですって。いいだろうべつに男なんだから、女が好きで何が悪い。一番ダメなのはな、女が好きなくせに女を憎むってことだ。それはおかしいんだよ、それで愛されたいとかいうのは筋が通らないんだよ!」

 息吹がグッと足に力を入れると、シルエットの首がもげる。そしてゴロゴロっと音を立て転がる。だから胴体の方は刀を落としばったり倒れる。

「プライドが無価値に高いから愛に生きれない。プライド捨てて恥をかけよ、好きとか詩を書くんじゃなく毎日女に面と向かって言ってみやがれ」

 息吹、今度は両手に持つ2丁拳銃を落ちている首に向かって乱射。撃つ、撃つ、撃つ、ガンガン、ガンガンと弾丸が放たれる。するとシルエットの首が砕けるようにして飛び散る。そして銃声が鳴り終わったら、粉々になった黒い破片が細かく散らばる。それはまちがいなく無残であるが、息吹に言わせるならリセット。

「後は、自分でそこから出てこいよな」

 複数ある檻に向かって言い放つと、息吹はそのまま姿を消した。すると粉々のバラバラになっている破片が元に戻らんと動き始める。それはプライドの再構築であるが、以前と同じなのか、それとも何か進化しているか、それは青山秀樹次第。

「あぅう!」

 突然に目が覚めた。ガクっと体が落ちそうになったのは、寝ながらうつむいていたせいだ。

「ぁ……」

 両目が覚めると同時に秀樹の目からボロボロっと涙がこぼれ落ちる。それは本人もちょっとびっくりするくらい熱く量が多い。なぜだろうかと思ったら、あまりにも久しぶりだからという気がした。臆病なのは生まれた時から、モテなくてつらいというのは小学5年生くらいか思っていた。そしてプライドという盾を立派にすればいいと考えついたのは16歳くらいから。そこから人間的な感じが薄らいでいったように思うがゆえ、秀樹はいま自分の心が元の形に戻れたようにすら感じた。

「ふぅ……」

 息吹はもういないのか……と思いながら立ち上がる。そしてどうせなら電車の一番前に乗ろうかなと歩き出す。だがそのとき、ずーっと向こう側に見慣れた女の姿があった。あの白いTシャツのものすごいボリュームが証明しているグラマーさん、そしてあの髪型や横顔、それまさしく天野みちる。

(う……)

 一瞬……金縛りにあって動けなくなった。まずい、あいつがこっちを見たらどうしようと緊張したが、それが実際に起ってしまう。いま、天野みちるがこちらに向いた。それはたまたまの動きだったが、相手もこっちを見て固まっている。一体どうしたらいいんだろうと大変困っている感じが流れ伝わってくる。

 ここで秀樹、右手で頭をかいてから開いた左手を見せて軽く振る。大声で叫ぶわけにはいかないので、心の真ん中に声を乗せた。

―悪かった、ごめんな、許してー

 するとどうだろう、見ていたみちるの顔におどろきが浮かぶ。そして左手で軽く頭をかいたら、実にやわらかい微笑みを浮かべた。でもそれは以前に見た事のあるモノと少し違っていた。勝手な思い込みでないとすれば、許してくれたような理解してくれたような、気恥ずかしい言い方をすれば内面に寄り添ってくれるようなとても優しい感じに満ちている。

(ん……)

 ここに電車が来る。秀樹はそのまま動かず立っていた。どうせ天野は電車に乗るだろうと思ったし、また気まずくなるのもイヤだから同じのに乗らない方がいいだろうと思ったわけである。だが降りて来た人間が立ち去り電車が走り去っていくと、そこにはみちるの姿があって、え? っと秀樹が驚くと同時にゆっくり向かって歩き出した。待ってくれ、まだ何をどう言えばいいか頭が整理できていないと焦っても、みちるがやさしい顔で近づいてくるのは止まらない。

「さてと、いったいどうなりますやら」

 離れたところからこっそり見ていた息吹だが、ここで目を背け退散とする。それとなく右手を上げ小声でつぶやく。

「ま、がんばって、実なりつぶれるなり泣くなり笑うなり好きにしてくれ。しかし……モテないのは怖いとか言ったけど、純なキモチとかいうのはうらやましい気がする。そうだな、あれがモテないやつの宝物って事なんだな」

 こうして息吹は三次元から四次元に入り駅から立ち去る。次はどんな誰に出会うのかなぁなどと言いながら。
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