息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

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30・閻美のラブコール1

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30・閻美のラブコール1


「本日は雨なり……か」

 午前10時、ザーザーはげしい雨が降っていた。空は立派なネガティブ色という感じのグレー。誰もいないから不気味に思える公園のベンチに仰向けとなっている息吹、天空より槍のように降り注ぐ雨を見つめる。これは四次元モードにいるからこそ出来る事であり、三次元だと顔面に雨粒の弾丸を食らって寝そべったりなどはできない。

「なんかさみしいキブンだなぁ」

 自分らしいのからしくないのか……などと思いながらつぶやく。そして息吹は誰かの心からSOSが飛んでこないかなぁなんて願うようにぼやく。

 その時だった、寝ころんだまま何となく軽い腹筋をするように顔を上げてみる。そうすると誰かが公園の中に入ってきたと目に映る。

(白い着物?)

 それはなかなかに印象的な絵姿だった。だから息吹は見知らぬ女が何をどうしようと知った事ではないと思って目を逸らすって事ができない。

 ひんやりするようにきれいな白衣。はげしいザーザー降りでハッキリと確認はしづらいが若い女だと思われる。しかし若いという割にはフェロモンが出来上がっているような印象も受ける。

(こんなザンザン降りに公園に入って何しようっていうんだ)

 余計なお世話だと思いつつ見つめていたら、公園の真ん中くらいまで、足元に巨大な水たまりなどがある位置で女が停止。そうして傘をさしたままクルっと体の向きを変える。

(ん?)

 一瞬……女は自分を見ているのだろうか? と息吹は思った。しかし自分は四次元にいる。あの女には自分の姿が見えないはずと考え直す。

 するとビシャビシャって女の歩く音がゆっくり近づいてくる。それは20代の前半くらい、息吹と同じくらいの年齢に見える女だ。色白でふっくらとかムッチリって表現を備えた美人。それが傘をさしたままベンチに近づいてくる。

(見えている? そんなわけない……はずだが)

 妙な緊張を持たされる息吹を見ながら、いや見ているようにしか思えない目で女が近づく。そうして適度な距離ってところでストップすると、女は手に持つ傘の開きを閉じ始めた。

(え……)

 閉じられた傘がスーッと閉じられたが、だからといって女のショートレイヤーって髪型がずぶ濡れになったりはしない。生命力の魔性という感じの白い着物にしたって同じこと。暴力的に降り注ぐ雨粒を受けて濡れていくって絵にならない。

「息吹」

 息吹が声を出すより先に女がつぶやいた。その声とにんまりとして見せる顔は、初見という言葉に疑問を抱かせた。どこかで会ったことがあるか? と思いながら体を起こさずにいられなくなる息吹だった。

「おれが見えている?」

「見えているよ、家満登息吹」

「フルネームで知っているとは……おまえ、誰だ!」

「閻美って言えば思い出せるかな?」

「閻美? 閻美……閻美」

 息吹は脳の中枢へ自分を押し込めるようにして考えてみた。すると考えが思い出しに切り替わり、まだ比較的近くにある記憶にぶつかる。

「閻美って地獄の……」

「そうそう、それ、思い出したかな?」

「え……」

 ガバっと体を起こした息吹、にっこり顔のまま立って自分を見下ろす女と目を合わせる。

「閻美って……」

「うん?」

「中年のババアだと思っていたのだが……」

「息吹、女にそんな言い方はないだろう。モテなくなるぞ」

「今さらモテても仕方ない」

「まったく」

 両手を腰に当てる閻美が言うには若返ったらしい。己のたましいを燃やし、さらには父からもわずかばかりエネルギーをもらい若かりし頃に戻ったのだとか。

「なんのために若返るんだ?」

「知れたこと、わたしは息吹が気に入ってしまってな、息吹と愛し合い結ばれるために若返った。美人だろう? しかも着物の下は魅力的な爆乳っていうのがあるんだ。息吹がわたしに夢中となれば、子供の10人くらいは喜んで産もう」

「ちょっと待て、ちょっと待て!」

 あまりに唐突な展開にたまらず息吹は立ち上がる。そうして頭を切り替えるために喫茶にでも行こうという。

「おぉ、それは息吹とわたしのデートだな」

「閻美……おまえ急にキャラを変えるなよな、脳みそがついていけないんだよ」

「いいだろう、せっかく若返ったのだから」

 閻美は綴じていた傘を再びシュパ! っと開ける。その姿と表情は甘い青春におぼれてみたいとする女の欲望が濃厚なだし汁みたいに見て取れる。

「傘なんか別にいらないだろう。どこか屋根のある所まで四次元で歩けば」

「いやいやそれはダメだろう。男と女が2人で歩こうっていうのだから、相合傘をするのが乙ってものだろう」

「この大雨で乙とか……」

 まったく女ってやつは……と言いかけたら、スマイル継続の閻美がクッと傘を差し出す。男が傘を持ちたいせつな女を守るように相合傘をやるのが基本だとかんとか。

「なんだよ基本って」

 ブツブツ言いながらも息吹は傘を開く。そうして三次元に移行すれば、大雨のど真ん中という事実に五感が奪われる。それはもう激烈な滝の下にいるようですらある。

「よいしょっと」

 クッと白い着物の女が息吹にかわいく密接。そうするとフワーっといい匂いが広がる。次に女は有無を言わさずという感じで息吹の腕を胸に抱き寄せる。そうすると、たしかにすごいボリュームが下に潜んでいるような……という電流が息吹に流れ込む。

「息吹、わたしは爆乳だぞ」

「あぁ、そうかい」

「一応言っておくと、バスト108cmのIカップとかだ」

「知るかよ……」

「まったく、そこはドキッとした顔で、そ、そうなのか? とか言うのが女に対する礼儀だろう」

「そんな高校生みたいな反応、今さら恥ずかしくてできるか」

 そう言って息吹は女と共に歩き出す。数分もすればびしょ濡れになるのが必然という中を10分くらい2人で進んでから、喫茶「恋人たちの愛し合うひと時」に入っていった。
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