息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

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94・いけない先生と悪夢6

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94・いけない先生と悪夢6


 朝、太一はやろうと思いながらできなかった。何を? といえば、教師が殺人を犯したという事実を親に報告することだった。なぜか、どうしてか、不思議も不思議ってくらいできなかった。奇妙すぎる罪悪感みたいなモノが口をふさいでしまうせいだ。

 そして太一は学校へ行きたくないと言う事も口にできなかったので、仕方なく家を出る。もし今日も昨日と同じ学校へ行かないって戦法を取ると家族裁判にかけられる可能性あり。

(どうしよう……どうしよう……)

 一歩一歩学校へ向かって刻むほど胸が苦しくなる。いくらなんでも学校の中で、しかも放課後ではない時間帯なら殺されるなんて事はないはず……と思ってみるが、この世は何が起こるかわからない。

(あ、だけど……ずっと友だちといっしょにいれば……べったりしまくっていればだいじょうぶかもしれない)

 太一はこの考えに望みを託す事にした。そうして学校というモノの重力圏に踏み込んだ。

(うあ……)

 気のせいかもしれないが……学校が見えると空気がモワーっとするように思えた。すっかり見慣れているはずの校舎がちょっと怖いモノに感じられたりもする。しかし周囲には同じ学校の生徒がたくさんいる。今ここで回れ右して学校以外へ進むのは不可能。

(神さま……)

 こうして太一は門をくぐってしまった。一度くぐったら最後、早退が認められでもしない限りは、すべての時間割を消化するまで出られない。どうか今日一日無事でいられますように! と祈りながら校舎の中に入っていった。

(さて……中野太一は来ているかな?)

 すでに職員室内にいる関口澱夢はイスから腰を上げた。太一が登校しているかどうか確かめたくてウズウズが抑えられない。

 職員室を出る。にぎやかという言葉のSEを耳にしながら階段を上がり始める。そうしてお目当ての階に到着すると、廊下でおしゃべりしている生徒たちから見られる事などおかまいなしに、太一クラスのドア前に立ち四角いガラスに顔を近づけた。

「それでさぁ……」

 いま太一は友人たちと話をしていた。あまりにも不安でたまらないわけであるが、数人の友人と固まって会話していると少しだが命拾いしているような安心感を得られる。

 しかしそんな太一がまったく何気なく、ふっとドアの方に目を向けたときだった。

(はんぅう!)

 なんと廊下に立って教室の中を見つめる関口澱夢がいるではないか! しかも思いっきり目が合ってしまった。

(おぉ、いた、いるじゃないか中野太一)

 これはジッとしていられない、中野太一に声をかけなければと思い、澱夢はドアに手をかけようとした。しかしどうだ、ここでまったく思いもしない事が生じる。

 ブーン! と音が聞こえるほど空気が震えた。なぜか太一クラスのドアに触れる事ができない。中野太一という少年を意識する自分を、何かがはじくような感じに襲われてしまう。

(な、なんだ……いったいなんだ……)

 なぜだ! いったい何事だ! と思いながらもドアに触れられない澱夢、一度後退して深呼吸して考えた。

(まるでバリアか何かが張られているみたいな感じだ。し、しかし……生徒はドアを開けられるのか。おれだけ、このおれだけがドアに触れられない、いや、教室の中に入るのもできないと感じるぞ)

 そこで澱夢は他生徒に声をかけ、ここへ来るよう中野太一に伝えてくれと言う戦法を取ろうとした。

 が、しかしどうして……中野太一という名前が出せない。あの少年をここに呼んでくれないか? という感じのセリフも言おうとすると声が出なくなってしまう。

「あ、いや、すまない」

 いったい何事? と怪訝な顔を向ける生徒に謝ると、何食わぬ顔で一旦引き下がる。教室内にいる太一は関口が中に入ってくるとか、もしくは呼び出されるとかされるのでは? と怯えていたから、ここで九死に一生を得たと胸を撫でおろす。

「くそぉ、なんだ……いったい何なんだ!」

 職員用のトイレに入ってドアを閉めた澱夢、握った手でカベを叩いて怒りの感情を声にする。

「まるでおれがあいつに近づけないようになっているみたいだ。なんだ、中野太一は何かに守られているのか……中野太一は神に愛されている子どもとでも言うのか。夜にあいつの家に行った時もそうだ、結界が張られて入れなかった。ちくしょう、なぜだ、なぜなんだ!」

 どうしたものか……と大急ぎで考え始めたとき、ふっとこう思った。いま、あいつの家はどうなっている? と。

「単純に……あいつがいないとき家に結界が張られていないなら、そのとき家の中に入ればいい。同じ家の中にいれば、たとえ神に愛されし者であろうと殺せるはず」

 こう思ったら急に興奮してきた。いますぐ学校を飛び出し確認しにいきたいと思った。だがここでチャイムが鳴ったので、燃えるような高ぶりに一時停止をかける。

「仕方ない……昼休みになるまで待つ。中野家は学校からそう遠くはないからな、車なら10分ちょいで往復できる。よし、そうしよう」

 こうして澱夢は辛抱強く待った。大人になればすぐに流れすぎる数時間を、まるで3倍引き延ばしされていると叫びたくなるほどイラつきながらも耐える。そうして給食というのを流し込むような勢いで食べてしまうと、ちょっと用事があるからとか言って教室を出る。

「よし、確認だ。もしおれの期待通りなら中野太一を殺せる。楽しみだ、まるで遠足へ出かけるみたいにワクワクする」

 20分ほど外に出るという許可はすでに取っていた。適当なウソをでっちあげての外出であるが、いかんせん澱夢にとっては切実な事ゆえウソも俳優レベルにうまく吐けてしまう。

「さぁ、どうだ……中野家、中野家よ」

 猛スピードで走りたい衝動を抑えながら、ノロノロっと愛車を走らせる。そうして中野家の前を通り過ぎるとき、わざとらしく一時ストップ。スマホで電話するって演技をかましながら中野家に目をやる。

「ない、結界が張られていない。どういう事かくわしくは分からないが、中野太一って存在がいなければダメだって事はわかった。つまり中野太一より先に家の中へ入ってしまえばおれの勝ちって事だ」

 澱夢はスマホを後部座席に放り投げると、車を発進させるが嬉しさのあまり大声で笑ってしまう。

「わははははははは!!」
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