息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

jun( ̄▽ ̄)ノ

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162・キャラクターの反乱バトル6

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162・キャラクターの反乱バトル6


「よし、いよいよ書いてやるぞ、書いてやる!」

 本日、午前9時より書矢は核兵器のように燃えまくっていた。心に貼りつく少しばかりの罪悪感を滅菌してやると意気込む。

「ビアンカ……汚してやる、汚してやるからな!」

 罪悪感に負けないようつぶやきキーボードに手を置く。自作小説において自分が作ったキャラがひどい目に遭うという展開を書くわけであるが、それをやって何が悪い! と何度も心に言い聞かせる。

「とりあえず……話の流れ確認。ヒロインのアデリーヌが魔物とのバトルに苦戦。それをビアンカとブルーノが援護しにやってくる。しかし魔物の放った魔法によってアデリーヌは気絶。そしてブルーノがおかしくなり……ビアンカを殴り倒しそのまま……」

 流れを確認とつぶやいてから早速書き始めた。それは心の潤滑油が抜群の滑りをもたらし、昼までには余裕で書き終えられると思われた。

「よし、このまま外道ファックに突入だ!」

 が……しかし……ブルーノがビアンカを殴り倒すところまではスムーズな予定調和が成された。だが問題はその後……さぁ、ここからが楽しみですぜ! というところからすさまじいブレーキが心にかかる。

「あぅ!」

 来た、作家の勢いを殺そうとする良心のブレーキング!

「負けるか……負けてたまるか、おれはやるんだ、やってやるんだ、そのために昨晩は早めに寝て気合を温存したんだ」

 これまさに勝負所。この痛みを乗り越えれば書ける。一度エンジンがかかれば後は自分のモノ。

「くぅ……」

 苦しい感じを追い払いたいとイスから立ち上がった。そして両手をにぎり脇を閉め、呪文のように何度も繰り返す。

「たかが小説……たかが小説……たかが小説……たかが小説……たかが小説……たかが小説……たかが小説」

 それから再び着席、そうして深呼吸してからドキドキしながら書き始めた。まずは適当にやってみようと、リラックスしながらひどい展開を書いてみた。

「まずは試し書きって感じで……」

 悪い魔法によってブルーノがトチ狂う。そして自分の事を信頼している女性たるビアンカに殴る蹴るの暴行を加える。そうしてビアンカが気絶すると、ここぞとばかり服を脱がし始める。

「いいぞ、これはたかが小説だ。しかもキャラは自分のだから何をしてもいいんだ。だっておれは神だから……自分のつくったキャラには何をしても許されるんだ」

 ビアンカを全裸にするところまでは書けた。さぁ、これからがおもしろいところであり読者をひきつけるところだ! と気合を入れ、キーボードに置いた指を動かそうとする。

「んぅ!」

 やっぱりって感じで来た、胸が痛む。バカじゃねぇの? と自分で思いながら悪い人になるような感覚におびえて指が動かない。

「ハァハァハァ……ち、ちくしょう、ちくしょう!」

 おれは弱虫なのか? ちがう、絶対にそうじゃない! と書矢は思いながら、なんとかしてゲスなシーンを綴ろうとして苦悩しっ放し。

「そ、そうだ、最初から丁寧にやろうとするからダメなんだ。とりあえず書ける所から書いて、後で編集というかくっつけたり切ったりすればいいんだ。だったら、景気付けのためにもいきなり挿入する所から書けば……」

 そのつぶやき通り、主人公の仲間にして善人であるブルーノにひどい事をやらせる。気絶しているビアンカの温もりに突進させる。

「よ、よし……」

 第一段階クリア。そのまま月までブッ飛べ! と……書いた。やっと両手が動いたのである。

「おらぁ!」

 やる、やる、やる、やる……つまり綴る、綴る、綴る、綴る、ひどい展開を書く、書く、書く、書く……

「ハァハァ……ぁ……」

 およそ1時間くらいだった、ひとまず書いた。ついにひどいこと完了! って書き終えた。

「む、胸が痛い……」

 たかが小説、自分のつくったキャラクター、作者は神だから何をやっても許されるはず。それなのに罪悪感によって両目から涙がボロボロ出ていた。

「おれって最低……」

 ティッシュを取り何度も鼻をチーンとやり、両目から落ちる涙をぬぐった。そうして少しの間、人として終わった……というキモチに沈む。

 だが時間が経つとキモチが回復してきた。するとどうだ、泣く必要なんかないと心が前よりでっかくなった感覚に包まれる。

「ケッ、ばからしい。たかが小説、架空のキャラ、そんなモノにイチイチ気を使っていられるかよ」

 心の痛みを乗り越えた者らしくさっぱりした顔になっていた。だから残っている部分に着手。

「ビアンカは爆乳だからな、挿入前にたっぷり乳をねだられるってシーンを描くべし。そうすれば読者が興奮して作品の人気も回復するんだ」

 さっきと違い、実にテンポ良く作業は進む。そしてエロ大好きな読者がオナニーできるようにと、自分のエネルギーと感情をたっぷり落とし込む。

「あ、やべ……おれがオナニーしたくなってきた……」

 時々はズボンの真ん中ちょい下に手を当ててハァハァやったりした。でもそれはやっている事が太陽の輝き的に順調ってこと。

「書けた、書けた、ついに書き終えた、ついにビアンカを汚してやった、やってやったぞ!」

 我、勝者なり! と立ち上がり片腕を天井に突き上げる。それは午後3時の出来事であり、心地よい疲労感が書矢を包み込む。

「よし、今日はこれをアップすれば……」

 ノートパソコンに目をやって口にした時、ふと勢いが一時停止。

「……」

 最初に罪悪感を抱き、それを乗り越えてすべてを書き終えた。だがいざアップするとなったら再び迷いが生じる。

「せっかく書いたんだ、アップしろよ……っていうか、今からべつの展開とか書くだけの気力なんてないぞ」

 むぅ……と腕組みをした書矢、何がなんでもアップしてやると意気込む。しかし罪悪感とはおそろしいモノで、この期に及んでまだ残りカス程度ながらも心に引っ付く。

「し、仕方ない……アップはする。だけど区切ろう」

 そのつぶやき、半分は戦略で半分は逃げ。つまりブルーノがトチ狂ってビアンカが爆乳をねだられる所はアップし、エロに飢えた読者を引き付ける。そこで前半というカタチにして区切れば、早く次を読ませろよ! となるはず。

「読者ってエロに飢えた奴が多いだろうかな。よし、とりあえず前半をアップ。読者の反応とかウケ具合を見たいからな、いつもより早い時間にアップしておこう」

 こうして大変な内容というのはアップされた。読者がどんな反応をするか知りたくてたまらない無名の作家は、受験の結果を待ちわびる者と似たような感じで午後9時を迎えた。

「そろそろ見てみようかな」

 確認してみると、まずPVもユニークも大上昇。

「やっぱり! 読者はエロが好きなんだ、なんだかんだ言ってもみんなエロが好きなんだ。やっぱりエロは正義、エロこそこの世の道理!」

 やったぜ! と両手にぎって喜ぶ書矢。ブックマークもわずかだが回復しているから、エロは偉大だなぁとホクホク。

 しかしレビューを見てみると、そこには肯定的な意見もあるが、きつい批判の方が圧倒的に多いと知る。

―ビアンカってすごい爆乳なんですねー

―ビアンカの乳に甘えてみたいっすー

―ふざけんなよ、なんでブルーノが悪役になるんだよ、おい作者、おまえ絶対アタマがおかしくなっただろうー

―すげぇ、作者の歪んだ人間性がすげぇ。なに、おれ格好いい事をしたとか思ってんの? 人間のクズだよ、おまえの小説はもう二度と読まないー

―主人公のカルロスが意識不明で、今度はわき役のマジメ男がわき役の爆乳を汚すとか、ねぇ、いったいどうしたの? っていうか作者って元からアタマがおかしかったの? せっかく書籍化されるかもって応援していたのにさ、最近の展開はないわ。応援するだけムダだなって思うー

―単純に……作者はアホですー

―こんな作者を追いかけていた自分が恥ずかしい―

 圧倒的に多い批判の数々を目にして、書矢という無名作家の心がまた折れた。アップしたモノを引っ込める事はできないし、かといって大幅な修正って反則技を使うとクソ野郎認定されてしまう。だから彼はイスに座ったまま天井を見上げ、泣きそうな顔でぼやく。

「あぁ……なんかもう……生きているのがイヤになってきた」
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