息吹アシスタント(息吹という名の援護人)

jun( ̄▽ ̄)ノ

文字の大きさ
212 / 223

212・自分VS自分1

しおりを挟む
212・自分VS自分1


「はぁ……」

 午前10時過ぎ、息吹は公園のベンチに寝転がって空を見上げていた。なぜだろう、いったいどうしてだろうと思うのは、ひどくキブンが不安定だから。あえて根暗な方向へ心が行きたがっている。

「なんだろう、この憂鬱は……」

 息吹、のっそり起き上がると感情真っ平って表情で立ち上がる。いったいこの憂鬱はどこから来ているのかと思いながら、とりあえずやや曇って灰色って世界を歩き出す。

(ん?)

 向かいから全力ハッピーとイチャつくカップルがやってきた。2人のよろこびを他人に見せつけてやろうってオーラがレインボーカラーで浮かび上がっている。

(カップルかぁ……いいなぁ……)

 いまフッとらしくない事を内側でつぶやいた。息吹自身、なんだ、いったいおれはどうしてしまったんだ? と思うような事だった。

(やべ……なんでこんなにさみしくなるんだ……今さら、今さらこんなキモチになってどうしようっていうんだ)

 リターン人生をする前の息吹はバッチリ売れっ子ってホスト。その仕事に就く前から、モテる男って星に生まれた事を有効利用。あれこれ膨大な女を食いまくってセックス三昧。死ぬまでにトータル500人ほどの女とセックスをかました。
 
 だからという感じで今は悟っている。ホストをやって客の女に刺殺されてしまったのは当然、それはもう自業自得……と。よってリターン人生で特殊能力を持つ者となっても、それは人のために役立てようとしか思わない。もう女を食いまくってどうのって不埒な人生をやりたいと思わない。そして以前の自分が女に対して不誠実だったことを反省してもいる。

(さみしいってか……)

 もう悪いことは十分やった、いまのおれには悟りがあると思っていたが、急にさみしさに襲われる息吹。

(昔に戻りたいとか思っているのか……おれ……)

 信号の目玉が赤色になったので立ち止まる。それから何気なく周囲を見渡してみる。そうすると凶悪っぽいさみしさに耐えきれないばかり、女を見てしまう、女の温もりが恋しいとうたいたくなる。

―ぽつぽつー

 まるでさみしいキモチを察した空が同情するかのように小雨を落とし始める。そして泣きだしたいキブンを演出するかのようにゴロゴロとうなりだしもする。

「湿っぽい感じになってきた」

 これはよくない。さっさと気を取り直さねば息吹がそう思って心を立て直そうとしたまさにその時、天空より超ドハデな高圧電流がプレゼントされた。

―ドッカーンー

 それは冗談抜きで大爆発のごとしだった。車が信号チェンジに備え、歩行者が歩き出すのを待っている瞬間、つまり人にもモノにも直撃しなかったのが不幸中の幸いというウルトラライトニング。

「やっべぇ……心臓が止まるかと思った」

 息吹、ふぅっと吸い込んだ息を吐きながら、道路に出来た焦げ穴を見る。そして、今日は調子が最悪な日なのだなと思って歩き出そうとする。

「ちょっと待った!」

 突然に真後ろから声をかけられた。それは聞いた事があるような気のする男の声。そしてグッと黒Tシャツの背中をつかみ引っ張られる。

「なんだ、誰だ?」

 息吹がいら立って振り返ると……え? とおどろきによって身を固めてしまう。

「お、おれ?」

 そう、たしかにそれはもうひとりの自分としか思えなかった。唯一のちがいとしてあるのは色黒ということで、それを除けばもうひとりの息吹でしかない。

「ま、歩きながら話をしようか」

「雨が降っているぞ」

「だからいいんじゃねぇか。水も滴るいい男って言うしな」

 色黒息吹はゆっくり歩き出すと、おれはおまえだと自己紹介をする。そしてすぐに続けて、おれはおまえが抱え込んでいる吹っ切れていない部分だと付け足した。

「吹っ切れていない部分?」

「あぁ、そうだ。とりあえずおまえの事は本家息吹とか言おう。おれはブラック息吹とかでもでいい、それで会話しよう」

「で、なんでもうひとりのおれが色黒になるんだ」

「それは決まっている。腹の中にある欲求不満、それを反映するのは黒色しかないからだ」

「なんだよ欲求不満って、おれはそんなモノ持っていない」

「そうかなぁ、ほんとうにそうかなぁ」

 ククっと笑ってから雨に濡れる前髪をクッとかきあげる色黒息吹。彼はとなりにいる本家をちらっと見ながらこう言った。

「欲求不満がないとかいう割にはえらくさみしいって落ち込んでいたじゃねぇかよ。カップルを見るとうらやましいと思っただろう? 女が欲しい、女の温もりが欲しい、女とやりたい……とか思いまくっただろう」

「まぁ……でもそれは」

「それは? なんだ?」

「気の迷いかと……たまにはこういう事もあるのかなと」

「ちげぇよ、何いい子ぶってるんだよ。気の迷いなんかじゃなく、それがおまえの本音なんだよ。だからおれが出てきた。だっておれはおまえだから」

 色黒息吹、ここで足を止めたら周りを満たす。そしてちょっと離れたところからこっちに向かってやってくる一人の女を見てから本家に言う。

「なんならあの女をナンパしないか? 2人で共食いとかどうよ」

「そういうのは嫌いなんだ、やらない」

「でも女の体は欲しいだろう? だいたいリターン人生になってから女を食ってねぇだろうが。何、それって悟りを得たから? おれはもう女に対して不誠実な事をしないと誓ったみたいな話? で、そんな風にかっこうつけておきながら、さみしいとか女の体が欲しいとかウジウジ憂鬱に陥る。それはなんだ? 結局、おまえが正直に生きていないからだ。ほんとうは毎日ひたすら女とやりまくるのが自分なんだよ。だからさ、元の自分に戻ろうぜ。せっかくリターンしたんだ、世のため人のためにがんばるんじゃなく、女とやってイカせるためにエネルギーを使うとしようぜ。それこそが息吹ってもんだろう」

 ブラック息吹は長いセリフを高めのテンションでぶっ放す。それはたしかに下品であったが、昔の自分はこうだったのかな……ちがうと思いたいなぁと、本家を悩みに落とし込む。

「で、おまえ戻れよっていうか消えろよ。同じ人間が2人いるとしか見えないんだから、やっぱりまずいだろう」

 息吹、となりのうざいやつが消えたら今度はうっかり出てくることがないようにしたいと考える。

「イヤだね、誰が戻るか。おれはもうこのまま色黒息吹で生きるんだ」

「はぁ? なに言ってんだ」

「どうせ本家はいい格好をしていい子を演じながら、心の中ではさみしいとウジウジする。そんなやつが主導権を持っているとかうぜぇんだよ。戻ったらおれは本家に抑え込まれるだけ。アホかよ、おれは戻らないぜ。戻ったりせず野望を達成する」

「野望ってなんだ」

「まずは1000人だ、1000人の女とやる。そして1万人とやったところでハーレムを建設する」

「だからそういう話は……」

「そういうわけだ、じゃぁな」

「ふざけんな!」

 息吹、叫び片方の腕を勢いよく水平に振った。それによりにぎったこぶしが相手の顔面に当たるはずだったが、ひょいっと避けられてしまう。

「おれ、家満登息吹は決めたんだ。リターン人生をやる前みたいなゲスい男は卒業するってな。女に対して不誠実な意識を持つのもやめようってな。そういう崇高な意識を同じ自分が下げようというのはだまっていられない。おまえ、戻らないというなら斬る」

 息吹は立ち止まりおれは本気だと顔にでっかい空気文字で書く。

「だったらおれもおまえを斬りたいな。そうだよ、どっちか片方が死んで消滅すればいいんだよ。だったらおまえが死ねばいいんだ。おれは女とやりまくってたのしく暮らしたい、そのためにおまえを斬る!」

 雨が降る中、両者は互いに戦うしかないと受け入れた表情でにらみ合う。それは自分VS自分の始まりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

【完結/番外追加】サリシャの光 〜憧れの先へ〜

ねるねわかば
恋愛
彼女は進む。過去に囚われた者たちを残して── 大商会の娘サーシャ。 子どもの頃から家業に関わる彼女は、従妹のメリンダと共に商会の看板娘として注目を集めていた。 華々しい活躍の裏で、着実に努力を重ねて夢へと向かうサーシャ。しかし時には心ないことを言う者もいた。 そんな彼女が初めて抱いた淡い恋。 けれどその想いは、メリンダの涙と少年の軽率な一言であっさり踏みにじられてしまう。 サーシャはメリンダたちとは距離をおき、商会の仕事からも離れる。 新たな場所で任される仕事、そして新たな出会い。どこにあっても、彼女が夢を諦めることはない。 一方、光に囚われた者たちは後悔と執着を募らせていき── 夢を諦めない少女が、もがきながら光を紡いでいく軌跡。 ※前作「ルースの祈り」と同じ世界観で登場人物も一部かぶりますが、単体でお読みいただけます。 ※作中の仕事や制作物、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。

俺様御曹司に飼われました

馬村 はくあ
恋愛
新入社員の心海が、与えられた社宅に行くと先住民が!? 「俺に飼われてみる?」 自分の家だと言い張る先住民に出された条件は、カノジョになること。 しぶしぶ受け入れてみるけど、俺様だけど優しいそんな彼にいつしか惹かれていって……

ドリンクバーさえあれば、私たちは無限に語れるのです。

藍沢咲良
恋愛
同じ中学校だった澄麗、英、碧、梨愛はあることがきっかけで再会し、定期的に集まって近況報告をしている。 集まるときには常にドリンクバーがある。飲み物とつまむ物さえあれば、私達は無限に語り合える。 器用に見えて器用じゃない、仕事や恋愛に人付き合いに苦労する私達。 転んでも擦りむいても前を向いて歩けるのは、この時間があるから。 〜main cast〜 ・如月 澄麗(Kisaragi Sumire) 表紙右から二番目 age.26 ・山吹 英(Yamabuki Hana) 表紙左から二番目 age.26 ・葉月 碧(Haduki Midori) 表紙一番右 age.26 ・早乙女 梨愛(Saotome Ria) 表紙一番左 age.26 ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載しています。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-

プリオネ
恋愛
 せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。  ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。  恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。

処理中です...