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ぶらり旅
溢れる涙
しおりを挟むようやく、この町でセーブハウスにしているビジネスホテルに到着した俺達は直ぐにホテルには入らず警戒して周りを確認する。もちろんバイクはアイテムボックスに収納してからですよ。
「そんなものまで持ってるのね」
「便利だから使ってるだけだよ」
I-PATで仕掛けた監視カメラの映像を見て中に入ってないか確認する。よし、大丈夫だな。
「それじゃ、入ろうか」
「ええ、そうしましょう」
俺達はようやく寛げることに喜びながらホテルへと入る。
最上階まで来た俺と零奈はまず俺の部屋で改めて自己紹介をした。そのあとは俺の能力ついて話し合った。違うな質問攻めにあったんだったな。
その内容とはこんな感じかな。
「それで、貴方の不可思議な能力はなに?」
「ま、簡単に言えばアイテムボックスかな」
「アイテムボックスってゲームとかの?」
「そう、それが使えるんだ」
「なにそれ羨ましい」
拗ねた態度をとる零奈。あ、可愛い。ゴホンッ!ゴホンッ!
「それで、その中には何があるの」
「ま、武器、爆弾、車両、金と装具、医療品にあとは食糧かな」
「ホントに便利ね」
「まあね」
いや、ほんと便利だわ!
「でも、武器とかは整備する必要があるでしょ?」
「アイテムボックスに戻しとけばきれいな状態ででるからしなくていいし、破損とかしても修理もしてくれるから楽だよ」
「ほんと羨ましいわ」
あまりにも便利すぎて零奈は呆れていた。
「さてと、食事にしようか」
俺は缶飯を取り出して零奈に渡して自分は平然と食べる。
「え、いいの? 今の時代食料品は貴重品よ?」
「別にいいよ。無限に出てくるから枯渇すること無いし、種類も豊富だから」
「ほんと便利ね。でも、有り難く頂くわ」
俺達は食事しながら楽しく会話した。少しは打ち解けたかな?
俺は今、少し驚いてる。なぜなら、
「零奈って煙草吸うんだ」
「当たり前でしょ。こんな世界で生き抜くには煙草でも吸ってないと精神が持たないわ」
なんか棘のある言い方ただな。ちょっと怖いよ!
「別に、弘毅を攻めてる訳じゃないわよ。それよりも弘毅だって煙草吸うのね。確かに私より歳上だろうけど1つ上にしか見えないもの」
「そうかな。何歳に見えたの?」
「18歳」
「ありがとうって! え、ええ!零奈って17歳なの!」
「そうよ」
「いや、なら吸ったら――」
「――この世界に法律なんて役に立つと思うの?」
「ゴモットモデス」
※もう一度言うけど煙草は二十歳からだよ!
「これからどうする? 俺は目的地とか無いからどこでも良いけど」
「私は………私もどこでも良いわよ。知り合いはもう居なくなったし」
「え、それって……」
零奈はタバコの火を消すと俯いて語り出した。
「弘毅が最後に撃ち殺した奴ね、あれ、私のお父さんなの」
「え?」
「最初は私たちも田舎にすんでたんだけど食糧が無くなってきてね。仕方なく食糧を求めて旅に出たの。でもね、予想通り食べ物なんて直ぐに見つかるわけもなくて……そ、それでね……お、お父さんが………疲れた私を………置いて……食糧を探しに……出たの! ………でもね………結局………奴等になっちゃた………」
大粒の涙を流しながら話してくれる零奈に俺はかけてやれる言葉が見つからなかった。くそっ!情けねぇ!
俺は自分の不甲斐なさに強く拳を握りしめた後、本能的か、同情からなのか、分からないが、勝手に零奈を抱き締めていた。
「え、弘毅?」
「……………」
「…………………う、うわわわわわわわわわわわわわわわわわわわあああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
零奈は俺の胸の中で我慢していた感情を爆発させるように泣いた。零奈、今は泣け。そして、一緒に強くなろう。
それにしても念のためにとスキルで防音にしててよかった。ふう、一安心だぜ。
「……………」
「……………」
「…………もう、大丈夫?」
「………うん……」
良かった。
「ん?」
俺が離れようとすると俺の服を掴んだままのてが見えた。
「………お願い弘毅………もう少しだけ…………」
「分かった」
俺は待つことにした。それにしたも零奈から柑橘系の良い匂いが。あ、はい! すいません!
いや、それにしてもまさかあのまま寝るとは思わなかったよ。
零奈はあのあと泣きつかれたのか、それともいままで気を張っていたせいなのか分からないが、いや、多分両方だな。寝てしまった。
寝顔可愛かったな。勿論なにもしてませんよ! 自分は紳士ですから!はい、そこ! ヘタレとか言わない!こう見えても働いてた頃は彼女いましたからとっくにDTは卒業してます!え、今はそんな事関係ないって。はい、その通りです………。
零奈をベッドに寝かせると見張りもかねて窓から夜の景色を眺めながら煙草を吸った。何年たっても月だけは変わらないな。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
私の名前は如月零奈。
物心つく頃には母は亡くなり、父が育ててくれた。必要とは思えないけど勉強もした。銃の撃ち方も教わった。楽しかった。父と二人暮らしで塀の向こう側は危険だったけど楽しかった。
でも長くは続かなかった。食糧が無くなりだしたから。毎日食事は一日2回朝と夜だけ、それもお父さんが作ってくれた薫製のお肉と賞味期限切れのパンを食べて育った。今思えば十数年よく保った方よね。
私たち親子は食糧を求めて旅に出た。コンビニを漁ったりもした。色々とした。
それでも食糧は殆どが集まらなかった。
流石に疲れたのか私は寝てしまった。寝てはダメだったのに!
目が覚めると父は居なかった。でも、置き手紙があった。『食糧を探しに行ってくる。待ってろ』と書いてあった。
私は待った。
待った。
待ち続けた。
少しずつ数少ない食糧を食べながら待った。
再び待った。
待ち続けた。
でも、帰ってこなかった。私は見捨てられたのかと思った。でも、違うと思って私は探す決意をして飛び出した。
ま、上手くいくはずもなく、突如現れたゾンビに驚き咄嗟に手に持っていた拳銃――USPを発砲した。やってしまった。奴等は音に反応して寄ってくる。
私は逃げた。近づいてくる奴は撃った。
そして、逃げた。
撃った。
逃げた。
その行為が、沢山のゾンビを誘き寄せる行為だとは気づくことなく。
私はとある工場に逃げた。振り替えると奴等が沢山の追いかけてきた。来るな!あっちに行け!私は少しでも長く生きようと照準を合わせることなく撃った。
撃ったうちの一発が燃料が入ったドラム缶にでも命中したのだろう爆発し、黒い煙が出ていた。
私は再び逃げた。
偶然見つけた梯子を登り二階に上がり梯子の留め具を壊し梯子を外した。ふう、なんとか休めそうね。
周りを確認するとどうやら私がいる場所は機械を操縦する場所のようね。隔離されてるし襲われることは無いわね。
私は体力を回復するために休んでいた。だけど奴等は減るどころか増える一方だった。私の命もここまでかな。
なんて、思ったときだった、
突如、工場入り口からバイクに乗った黒髪、黒装束の18歳位の少年が突っ込んできた。何を考えてるの!死にたいの!奴等になりたいの!
私は大声を出して助けようとした。だけど、止めた。なぜなら目の前で起こっている出来事に見とれていたからだ。
「凄い……」
まるで、羽ばたく鳥のよりのように飛び。
全てのゾンビを撃ち殺す姿は神に捧げる舞。
そのすべてに私は驚き見惚れていた。
そして、少年は腰に取り付けていたホルスターから拳銃を引き抜くと工場入り口に立つゾンビに向けた。
「お父さん………」
そこにいたのは私のお父さんだった。あの優しくて時には厳しかったお父さんだった。
私は直ぐに彼に撃つのを止めて貰おうと叫ぼうとした。だけど出来なかった。
何故ならば、彼が呟いた言葉に私の心が救われたからだ。
「安らかに眠れ」
彼の呟きとほぼ同時に銃声が鳴り響いた。
私は心の中でお父さんに感謝した。今まで育ててくれて有り難うと。
そして、彼にも
「有り難うと」
分かっている。彼が私のためにしてくれたわけでもなく、私と最後のゾンビが親子だったなんで知るわけがない。それでも私はお礼がしたかったのだ。
「終わったな」
彼が周りを確認する。ほんとに凄い。一体も残ってないなんて!
「人を探さないと」
ああ、彼は私を助けに来てくれたんだ。嬉しい。
私は嬉しかった。まだ彼がどんな人なのか解らないのに嬉しかった。お父さんからは人であろうと直ぐに信用するなと言われた。それに対しては異論はない。今の時代、人と同士が助け合うことなんてそう無いのだから。でも彼は………。
私は拳銃を握りしめて彼に突きつけた。平和な時代なら最低な行動かもしれない。でも、この世界ではこれが、正しい。
「その必要はないわ」
一瞬、彼のからだがビクッと動く。
そして、色々と話して少し分かったことがある。まず、彼が規格外な力と戦闘力を持っていること。戦闘時とそうでない時の態度の違い。少し面白くて、可愛かったな。
私と彼――烏羽弘毅はバイクに乗って彼がアジトにしてるホテルに向かった。私はその途中で再び驚いた。工場内でも100体近くいたのに。それまでにこれだけの数を倒すなんて。それも殆どがヘッドショットだった。彼はいったい何物なの?
私はそっと彼の横顔を見る。あ、欠伸してる。変な顔。
ホテルに入り詳細に彼のことについて質問した。ほんと、規格外な人。
彼は突如、何も無いところから缶飯を出した。そして、私に渡してきた。
その行為に私は戸惑った。この時代食糧は貴重品だ。福沢諭吉の絵が描かれた紙切れなんかよりも数倍の価値があるのよ。それなのに彼は平然と渡してきた。嬉しかった。そして、後悔した。そんな能力があるなら早く出会いたかったよ。
弘毅がもつ特殊な力。なんでもそろう通販があり、そこで買えば現実で使えるらしい。私も信用してなかったけと目の前で見せられたらね。信じるしかないのよ。
それから少し話した後、私はなぜか弘毅に話していた。私の過去、どうしてここにいたのかを。涙を流しながら。
そんな私に弘毅は何も言わなかった。正直有り難かった。今、どんな言葉をかけられても受け止める自信がなかったから。
そして弘毅は無言で私を抱き締めた。最初は驚いた。押し倒されて犯されるのかもしれないとも思った。でも弘毅は抱き締めるだけでそれからはなにもしなかった。
その瞬間、今まで我慢してたものが一気に込み上げてきて泣いた。号泣した。
それから後の記憶は覚えてなかった。恥ずかしいことに寝てしまったの私は。
「……うぅ………んぅ………こ、こは?」
見慣れない天井に私は戸惑ったけど直ぐに思い出した。
「私、寝てたのね」
その瞬間、一気に恥ずかしくなった。
周りを確認するとどうやらベッドで寝ていたらしい。ああ、運ばれたのね私。恥ずかし。情けない。
私は起き上がり、弘毅を探した。一瞬、あのときの後悔が甦る。でもそれは杞憂に終わった。弘毅は壁に凭れて寝ていたのだ。
そんな彼に近づいて頭を撫でる。無警戒にも程があるでしょ。ほんと、間抜けなんだから。
そんなこと思いながら私はいつの間にか呟いていた。
「あんなにも強くて優しいのに普段の時は間抜けで、口下手で………………………こんなにも可愛い寝顔だなんて…………ほんと、変な人」
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