200年後の日本は、ゾンビで溢れていました。

月見酒

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ぶらり旅

この世界だから出来ること。

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 街にやって来た俺たちはまず安心して眠れる場所を探していた。

「なかなか見つからないね」
「そうね」
 え、それだけ!もっちょっと話そうよ!確かに今は警戒しとかないと危険だけど、せめてもう少し言葉返してよ。素っ気ないよ。寂しいよ!
 俺は内心号泣しながら道路のど真ん中を走行する。うん、普通なら出来ないよね、街のど真ん中を走るなんて。

「ねえ、少しやってみたいことない?」
「やってみたいこと?」
「うん。この世界が平和なときなら絶対に出来ないこととか」
「そう言われても。私生まれたときにはすでにこの世界だったし」
 そうだった。俺とは違うんだった。なるほどこれが自然に刷り込まれる一般常識ってやつか。恐ろしいな。一種の催眠術だな。

「あ、でも1つだけあるかな」
「なに?」
「押すなって書いてある赤いボタンおもいっきり押してみたい!」
「あ~あれか」
 確かにあれは普段は押さないよな。押したくなるけど。てか、零奈押したことないんだな。意外だな。

「いつも押そうとしたらお父さんが駄目って言ってたのよね」
「確かにね。押すと大音量でサイレンが鳴るからね。そしたらゾンビどもが群がってくるから仕方ないよ」
「そうなんだけど」
「ま、いいんじゃないの?俺もやってみたかったし」
「本当に!なら押してみるわ!」
「ああ」
 こうして俺たちは寄り道がてらに火事を知らせるサイレンのボタンを押すことにした。いや、普通は寄り道がてらには出来ないよね。今の世界だから出来ることだな。
 俺は嬉しくもあり悲しくもあり複雑な気分で零奈がボタンを押すのを見ていた。
 そして勿論結果は、

 リィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィリィ!!!!!!!!

 五月蝿かった。

「ヤバイ!どうしよう!」
「逃げよう!」
 そしてそのまま放置。サイレンゾンビは任せた!
 俺たちはそのまま車に乗り込むと脱兎のごとくその場から逃げ出した。ふう、セーフ。いったい何にセーフなのか分からないけど一安心だ。

「ねえ、弘毅」
「なに?」
「あれなんだろ?」
 零奈が突如声をかけてきたかと思ったが何かを指差していた。俺は指差す方を見る。そこには

「教会だね」
「教会?」
「そうだよ。お祈りしたり懺悔したりするところだよ」
「へえそうなんだ。私は寺や神社しか知らないわ」
「ま、確かにあれは日本ではなくて外国から入ってきた宗教だからね」
「そうなの?」
「うん。日本で神様が崇められている建物は寺や神社で、あれはキリスト教っていう外国の宗教の建物なんだ」
「へぇ~」
「あと、あそこでは夫婦の誓いを立てたりするんだよ」
 その言葉に零奈は即座に首をこちらに向けた。ちょっと怖いな。

「え、えと行ってみる?」
「べっ、別に興味は無いけど。奴等が居ないか確かめないといけないからね。仕方ないけど見に行きましょ」
 うわ、初めて見たよツンデレ。俺は思わず噴き出しそうになるのを我慢して教会に向けてハンドルを右にきる。
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