鬼神転生記～勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。～

第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第八十三幕 暗殺会議と妙案

　小屋に戻った千夜たちは作戦会議を始めた。
　だがウィルは既に寝ている。と言うより無理や睡眠薬入りの飲み物を飲ませて寝かせたと言うべきだろう。
　家族に対してそこまでする理由は別にウィルを信用していないわけではない。
　ウィルには聞かせられないからだ。
　今から行う作戦会議はどちらかと言えば闇。暗部に近い内容だからだ。
　そのため念入りにと千夜は防音と盗聴防止の結界を発動させていた。
　揺らめく小さな灯火のみで照らされた室内には鋭い眼光が複数見詰め合っていた。

「今日は上手く言ったが肝心な二人はまだだ」
「そうね」
　千夜の言葉にエリーゼの同意する声が静寂しじまな室内に浸透する。

「クロエ、エルザ。今日はよくやってくれた」
「いえ。あの程度主の眷属として当然のことです」
「容易いことじゃ」
　数時間前に暗殺を行ったとは思えないほど二人は平然と答えた。
　そう。今日の探索で最初に死んだ二人は残りの海賊の二人だ。そしてその二人を殺したのがクロエとエルザなのだ。
　昨夜エリーゼたちに教えた作戦は自作自演。
　それが見事に成功したのだ。
　まさか庇った張本人が殺人の立案者だとは誰も思わないだろう。

「それで明日ですが、どうしますか？」
　真剣な面持ちで問うてくるミレーネ。彼女もまた暗殺に関して躊躇いも同情もない。それは一番恐ろしく、見方であれば心強く、そして勇治が一番嫌う存在だろう。
　しかし、冒険者として勇治たちより遥かに戦闘繰り広げてきた彼女たちにとって躊躇いや同情は仲間や愛するものを失う危険性があると言う事を身をもって知っているからこそだ。

「そうだな。明日は今日みたいに奇襲による暗殺は不可能だ。ここにいる全員が明日の探索に参加するからな」
「そうね」
　そう、今日の作戦は暗殺を行いそれを千夜が建築の際に生成したグレータースケルトンたちに襲わせるというものだった。その結果、暗殺ではなく襲撃として塗り替えられ、千夜たちは犯人だとバレることはなかったのだ。

「今日と同じ作戦じゃ駄目なのかえ？」
「別に構わないが詳細を知っているからな警戒心がいつも以上に強くなっているだろう」
「それもそうか」
「それに決め手が無い」
「決め手？」
　その言葉にクロエは首を傾げて問い返す。

「そうだ。今回はクロエやエルザといった確実な決め手があった。だが明日は探索に参加するからエルザたちには行えない」
「それならスケルトンたちに殺らせれば良い話ではないのか？」
「出来なくはないが、生成したグレータースケルトンは職業で言えば兵士や戦士だからな奇襲が上手くいくか不安が残る」
「それでしたら、スケルトンアサシンを生成したら良いのでは？」
「それもそうなんだが、なんでも魔物生成に頼るのもな。あれはスキルだが強さの強弱には俺の魔力が不可欠だしな。まだ、完全に解明されていない海底遺跡で無駄に魔力を使うのは危険だ」
　千夜の言葉はもっともだが、千夜の実力であれば少しぐらい魔力を使おうが大丈夫である。それはエリーゼたちが心の中で全員が思ったことだ。
　そして戦闘に関して一番慎重なのはこの中で千夜と言えるだろう。

「ならスケアクロウ、バンシー、ラッヘンの誰かここに呼ぶのは駄目なのかしら？」
「それも考えたがあまり良い案と言えないな」
　ラッヘンたちは一旦亜空間に戻りさえすれば千夜の許に参じることが可能だ。しかし情報収集やルイラ村の護衛をしてるバンシーを呼び戻すわけにはいかない。
（さて、どうするか。一番手っ取り早い方法は新たな眷属を生み出すこと。だがそれに頼りきるのは危険だし。成長の見込みがない。現在俺の眷属はグレータースケルトンが四十五体とグレータースケルトンリーダーのみ。こいつらには明日もダンジョンモンスターとして戦って貰わなければならない。そうなるとやはり戦闘中の暗殺が手っ取り早いか。だが誤って他の冒険者に刺されば俺たちに犯罪記録が付いてしまう。それだけはなんとか避けなければならない）
　思考の海の中で千夜は作戦を模索する。
　まるで棋士が数手、十数手、数十手先を読むかのように千夜の脳内では海底遺跡での戦闘が繰り広げられていた。
（グレータースケルトンたちにタイチたちを集中的に狙わせるのはあからさま過ぎるし、どうすれば）
　どれだけ作戦を立案を考えようが、どれも最後の決め手に欠ける。
（できればもう少しダンジョンモンスターがいれば可能なんだが……モンスター……魔物……！）
　なにか閃いたのか千夜は目を見開けたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
　揺らめく灯火で照らされた千夜の表情を見てエリーゼたちもまた笑みを浮かべた。

「旦那様」
「ん？」
「どうやら妙案を思いついたみたいね」
「ああ、この方法なら確実とは言えないが高確率で成功するだろう」
「なら、教えてくれるかしら？」
「少し待ってくれ。連絡して確認しないといけないからな」
　不敵な笑みを崩す事無く答えた。