鬼神転生記～勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。～

月見酒

文字の大きさ

大中小

333 / 351

第七章忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第九十七幕ミレーネたちと海賊

しおりを挟む

　そんな千夜の心境など知る由もない蒼水八大蛇ヤマタノオロチは海賊たちを次々と襲い呑み込んでいく。
　船内へと逃げようとする物には壁を破壊し、武器を構えるものには床から飛び出して丸呑みにした。
　蠢く巨大蛇の姿はまさに怪物といって相応しく船に乗る海賊たちは完全に戦意喪失していた。
　しかし非常にも蒼水八大蛇ヤマタノオロチの勢いが弱まることはなく、次々と海賊たちを襲っていった。

「さて俺たちは残りの三隻の始末だ。各一隻ずつ殲滅だ」
「綺麗な彼岸花を咲かせてみせるえ」
「魚の餌にしてやります」
　ランプの火で薄く照らされた千夜たちの顔には不敵な笑みを浮かんでいた。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　敵の海賊船へと乗り込んだ千夜たちと同時刻エリーゼたちの船でも戦闘が開始されようとしていた。
　ゆっくりと近づいていた海賊たちに突如白い光によって照らされる。

「お、おい！どうなってるんだ！」
　夜目に慣れていた目は突如襲った強烈な光に思わず目を覆いながら現状に困惑する。

「先遣隊の奴らは何してやがるんだ！」
　徐々に慣れ始めた目を船に向けると、弓を構えた戦闘奴隷と詠唱する冒険者たちの姿が目に映った。

「しまっ！」
「全員攻撃開始！」
　気づいたが既に遅くエリーゼの掛け声と同時に矢と魔法が数十隻の小船に襲い掛かる。

「ぎゃあああああぁぁ！！」
「あ、熱いいいいいぃぃ！！」
「俺の腕があああああぁぁ！！」
　矢が腕や足、胴体などに矢が刺さる者や運が悪いものは頭に直撃する者が続出し、火、水、風などの魔法攻撃が直撃した者たちは火達磨になりその熱さに海に飛び込む者や風魔法によって腕や足を切断されるものまでいた。
　そんな中たった一撃で一隻の小船を海の藻屑と変える者がいた。
　白に近い金髪を靡かせるエルフは弓を構え次の的に標準を合わせていた。

「す、凄げぇ……」
「綺麗だ……」
　そんなミレーネの姿に冒険者たちは攻撃するのも忘れて見とれていた。

「攻撃を緩めるな！」
「「「「「は、はい！」」」」」
　エリーゼの叱責に一瞬体を震わせた冒険者たちは急いで攻撃を再開した。

「下がっても殺られるだけだ。お前ら船に乗り込むぞ！」
『おおおおおおぉぉ！』
　男たちの咆哮が黒い海に波を生み出すと続々と船へと接近する。
　降り注ぐ魔法と矢の雨の中を進む姿は勇ましい男を彷彿とさせるが、エリーゼたちからしてみればただ己の欲望を満たすだけの犯罪者。海賊としか映らなかった。
　しかし思いのほか切り替えたてからの海賊たちの動きが早く数メートルで船に到着する距離まで近づいていた。

「このままでは乗り込まれます！」
　海流の流れも海賊たちの見方になったこともあり次々と船に接近していく。

「一部の者は攻撃を続行！それ以外の者達は船に乗り込んでくる海賊たちを海に叩き落としなさい！」
　ミレーネの指示に冒険者と戦闘奴隷たちは即座に行動を開始した。

「ミーナの姉御！」
「何ですか」
「他の船も海賊たちが乗り込んでくる勢いだそうです！」
「分かりました。各船のリーダーの指示に従って行動しろと伝えてください！」
「分かりました！」
「海賊が乗り込んできます！」
「弓の人たちも剣に切り替えて下さい！魔法専門の人は仲間の邪魔にならないよう後方支援に専念してください！」
「はい！」
「皆さんここからが正念場です！」
　そんなミレーネの言葉と同時に次々と海賊たちが船に乗り込んできた。

「全員攻撃開始！」
『おおおおおおおおおぉぉぉ！！』
『死ねやああああああぁぁぁ！！』
　ミレーネの合図と同時に海賊との接近戦が開始された。
　正規兵隊ではない冒険者たちに連携など存在しない。甲板上は完全な乱戦へと即座に変わった。
　その光景を見ながらミレーネは矢を何度も射る。
　見方に当てないように。邪魔にならないように。神経を研ぎ澄ませながら何度も射る。
（仲間のみんなと違って他の冒険者の動きが悪すぎる。狙いにくい！）
　何度も千夜たちの戦い方を目にしてきたミレーネにとって現在の戦いは苦戦を強いられていた。
　次々と乗り込んでくる海賊たち。千夜たちと違ってスピード、しなやかさ、技術の劣る冒険者たちの動きの悪さは苛立ちを覚えさせるのに十分だった。ましてやリーダーとして指示も出さなければならないため攻撃に集中するわけにもいかない。
（センヤさん、やはり貴方は凄い遺跡内でよく冷静に指示が出せるなんて！）
　内心そんな事を思いながらミレーネは矢を射る。

「ウィル君大丈夫ですか？」
「はい。まだまだ戦えます」
　最初の時と比べ集団戦にも慣れてきたのかまだ呼吸は荒くなかった。その後姿に微笑を浮かべたミレーネはそくざに真剣な表情へと切り替わる。
（そうです。ウィル君も頑張っているんです。私が心を乱してどうするんですか！）

「全員に指示を出します！海賊たちを出来るだけ一箇所に集めなさい！」
　気持ちを切り替えたミレーネは冒険者たちに指示を出したあと短縮詠唱を唱える。
　突然の指示に冒険者と戦闘奴隷たちは一瞬困惑するが迷う事無く指示通りに行動し始めた。

「お前らミーナの姉御の指示に従え！」
「出来るだけ一箇所に集めるんだ！」
　汗だくになりながらも不敵な笑みを浮かべる冒険者たち。それはミレーネを信頼しているからこそ出来ることであり、その結果落ちかけていた士気が再び巻き戻す事にも繋がった。
　甲板を見下ろすミレーネの目には一箇所に集められる海賊たちの光景が目に入り込む。
（今です！）

「全員下がりなさい！暴風の一矢ストーム・ヴァレット！」
　

しおりを挟む