鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第九十八幕 命乞いと耳障り

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 ミーナが放った一矢は風を切り裂き海賊たちの中央の床に突き刺さる。
 この土壇場で的を外した事に落胆する冒険者たちと安堵し下世話な笑みを浮かべる海賊たち。

「ったく驚かせやがっ――!」
 安堵の言葉を漏らしていた瞬間強烈な竜巻が出現した。
 完全に安堵しきっていた海賊たちに竜巻から逃げることは不可能だった。
 竜巻に飲み込まれた海賊たちは強烈なカマイタチに襲われながら上空へと持ち上げられ、そのまま海面や床に叩きつけられ絶命した。

「地上と違って船を壊さないように戦うのは、思った以上に大変ですね」
 微笑みながら呟いたミレーネ。
 その姿は闇夜で戦う戦乙女そのものだった。

「海賊たちの数も減りました!このまま押し切りましょう!」
『おおおおおおおぉぉぉ!!』
 完全に士気が戻った冒険者たちの咆哮と熱気に怯む海賊たち。

「てめぇら怯えるな!本船から増援だってくるんだからよ!」
「増援はこないと思うわよ」
「なに!」
 エリーゼの言葉に海賊の男は怒気の含んで問い返す。

「あれを見なさい」
 エリーゼが指差した先に視線を向ける。

「な、なんだあれは……」
 その先には海賊たちの本船が巨大な大蛇に襲われている光景だった。
 御伽噺にでも出てくるような怪物の登場に海賊だけでなく冒険者、戦闘奴隷たちまでもが自分の目を疑った。

「ま、まさかヒュドラか?」
 そんな事を呟く海賊も居たがエリーゼは肯定も否定もすることなく口を開いた。
 
「今、あの船には私たちの仲間が乗り込んでいるわ。見たところ一隻は完全に全滅。もう一隻はあの怪物に襲われて海に沈むのも時間の問題。残りの三隻だって私たちの仲間と戦闘が開始されているでしょうね」
「ざけんなっ!本船の奴らはなにやってんだ!」
 予想外の展開に悪態を吐くがそれで戦況が変わるわけでもない。

「こうなったらこの船を奪って逃げてるやるぜ!」
 海賊たちは覚悟を決めたとのか武器を構え直す。
 残りは甲板に上がった海賊たちのみ。その全てを殲滅すればエリーゼたちの勝利。
 しかし負傷した獣が限界以上の底力をみせるように海賊たちの脳内には勝利か死かのどちらしか存在していなかった。

「お前ら殺して奪いつくせ!」
「全員殲滅しなさい!」
 二人の咆哮がぶつかると同時にし戦闘が再開された。

                       **********

 各一隻ずつに移動した千夜たちは再び血の雨を降らし続けた。
 罵詈雑言、阿鼻叫喚が飛び交う甲板上で戦う千夜にとってはBGMにもならないただの雑音でしかなかった。
 千夜にとって何よりも大事なものは愛する家族と友人だ。
 しかし今この場で戦っているのは己自身のみ。それならば己の中にある欲求に身を委ねるのも我侭ではないと考えていた。
 その結果ある思いが千夜の脳内に過ぎった。
 ――退屈だ、と。
 初めての戦闘で味わった達成感も何度もの実践で薄れてしまい。今となっては強者との戦いのみが千夜の中に疼きとなって身の内から湧き出るように襲ってくる。
 どれだけ敵が束になろうと雑魚相手では満足しなくなった千夜。それは覚せい剤中毒にも似た思いだった。
 だからこそ千夜この疼きを止めるために早く戦闘を終らせたい気持ちに駆られる。
 中毒症状が始まるのは決まって戦闘が開始されてから。なら戦わなければ済む話だと考えたのだ。
 一切の笑みも浮かべる事無く千夜は同じ作業を繰り返すように無表情で海賊たちを斬ってゆく。
(本拠地の場所を聞くためにも二人ほど生かしておかないとな)
 それでも頭は冷静であった。
 圧倒的力を持つ千夜たちの戦闘は戦闘と呼ぶにも不甲斐ないほど呆気なく終了した。
(エルザたちの方ももう直ぐ終りそうだな)
 耳に届く戦闘音を耳にしながら千夜は怯え涙を流す二人の海賊を見下ろしていた。

「さて正直に話せ。そうすれば楽に殺してやる」
「た、頼む!助けてくれ!俺はまだ死にたくなぎゃあああああああぁぁぁ!」
 男の命乞いを無視するように冷徹に相手の右足に刀を突き刺す。

「お前たちの命乞いなど耳障りだ。己の欲望のために平然と他人を苦しめ、その姿に興奮し、優越感に浸ってきたお前たちに待っているのは死のみだ」
「べ、別にやりたくてやってきたわけじゃないんだ!本当だ信じてくれ!」
「ならさっさとお前たち海賊の住処を吐け。そうすれば考えないでもない。勿論嘘だと発覚した場合は楽に死ねると思うなよ」
 千夜にも強い信念はある。
 もし正義では倒せない悪があるのなら?という問いが千夜に問いかけられたなら千夜は即答するだろう。
 喜んで悪に身を染める、と。
 いや、もう染まっているのかもしれない。犯罪にはならいにしても前世の世界ではあれば間違いなく忌避され、悪者扱いされる所業なのだから。
 親友を助けるために犯罪者を誤って殺した時ですら親友から、周りから、家族から見捨てられたのだから。

「さあ、さっさと吐いて貰おうか」
 しかし今の千夜に前世のことなど関係ない。あるのは愛する家族を少しでも早く悲しみから救い上げることのみなのだから。
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