鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第百十幕 革新的商品と赤い液体

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 次の日、千夜たちはベノワに会うべくグレムリン商会へとやって来ていた。
 受付にベノワに会いたいと言うだけで簡単に個室に案内された千夜たち。それだけグレムリン商会とベノワに信頼されているからだろう。
 個室に数分もせずにベノワと秘書がやってきた。

「今回の海底遺跡探索は今までに無いほど財宝と探索速度です。下の階層だけでもあと5回は探索が可能でしょう」
「だろうな。あの遺跡にはまだ色々と秘密が隠されているだろうからな」
 ベノワの賞賛の言葉など気にするようすもなくただ真面目に返答する。堅物と言い方も出来なくはないが、千夜の年齢を知る者なら可愛げが無いと思うことだろう。

「そして依頼を見事達成してくれました。報酬は冒険者ギルドの方に行けば受け取れます」
「なら、後で向かうとしよう。それで俺を呼び出した理由はなんだ?」
 既に依頼は完遂されている。なのに呼び出される理由が千夜にはまったく分からない。海賊団を討伐したことだったとしても呼び出すほどの事ではないだろう。
 そんな千夜の言葉にベノワは一瞬呆れた笑顔を浮かべるが直ぐに真剣な面持ちに変わる。

「単刀直入に言います。ベノワ商会の専属護衛になっていただけないでしょうか。もちろんそれ相応の報酬は支払います」
 このダラでは有名な商会からの頼みだ。この都市で冒険者活動をしている者なら誰だろうと即答で了承するだろう。だが千夜は違う。

「ベノワには俺がこの都市に訪れた理由も話したと思うが?」
「ええ、ご存知です。ですから現在の依頼を終えてからで構いません。どうか引き受けてくださいませんか?」
「悪いが断らせて貰う。確かに冒険者としてはとても魅力的な話だ。魚も美味しいしな。だが生憎と俺はすでに拠点とする場所があるし何よりお店を開いているんでな。トップの席を長く空けるわけには行かないんだ。今回の依頼も依頼主に頼まれたわけだが私情が絡んでるくるから引き受けただけのこと。だからベノワの頼みは嬉しいが断らせて貰う」
「そうですか……ですが仕方ありませんね」
 そこまで期待していなかったわけではないようだ。ただ小さな期待だけは抱いていた。

「さて、ここからは貴方に頼まれた事を報告するわね」
「頼まれたこと?」
「あら、忘れたの他の商会を調べて欲しいと言ってたでしょ」
「そうだったな」
(海賊やギルガメッシュの事ですっかり忘れていたな)

「まずはドゥーナ商会だけど、これといった怪しいところはないわね。海賊の情報が入ってからはそこそこ手だれの冒険者を長期間やとっているみたいだからその出費がそこそこだけど。それ以外でおかしなお金の動きはないわね。マリーシ商会支部は本部から命令で海上を使った輸送回数を減らしたから昨年に比べれば売り上げは落ちるけど赤字ではないわ。大きな収入記録も無いし」
「ただギグ商会が黒字なのがおかしいのよね」
「なぜおかしいのですか?」
「ギグ商会は最近まで赤字で倒産寸前だったの」
「そこをこの商会が潰しにかかったらしいな」
「あら知ってたの。でも別に非合法な事はしてないわよ。合法的に潰そうとしただけ」
 一つでも商会が減ればそこの顧客が自分の所に流れてくる可能性は大きい。そうなれば利益に繋がる。それは誰にだって考え付く答えだ。

「たしか革新的な商品で売り上げを急上昇させたって聞いたが?」
「ええ。その通りよ。だけどギグ商会は私たちの次に被害を受けている商会。確かにギグ商会はここのところ革新的な商品で売り上げを上げてるけど、まだまだ弱小商会。そんな商会は一度の被害でもそれなりの金額になるのが普通なの。それなのに何度も被害にあって今のところ黒字っておかしのよ」
 ベノワの言葉に千夜は考え込む。

「どこが変なのじゃ?その革新的な商品のお陰で未だに黒字なだけじゃないのかえ?」
「小型とは言え商船がいったい幾らすると思ってるの?馬車なんかより十数倍は高い値段なのよ。それに一度で運べる商品の数も桁が違う。それを何度でも被害にあえば間違いなく被害総額は甚大のはずよ。なのに黒字って」
「ベノワ」
「何かしら?」
 考え込んでいた千夜の言葉に誰もが耳を傾ける。特にエリーゼたちはこう言う時の千夜の質問は手掛かりへと繋がる時だと経験的に知っている。そして千夜の口から吐かれた質問はそんなエリーゼたちの期待を裏切らなかった。

「ギグ商会が倒産から脱出したその革新的商品って一体なんだ?」
「今の話と関係あるの?」
「ああ。だから教えてくれないか?」
「分かったわ。なら実物を見て貰ったほうが早いわね。悪いけど持って来てくれる」
「畏まりました」
 ベノワに言われ秘書が持って来たのは赤い液体上の物が入っているだけの小瓶だった。

「これよ」
「絵具か何かしら?」
(この匂い……まさか)

「舐めてみても良いか?」
 そんな千夜の言葉に驚く面々。だがベノワは別の意味で驚き笑みを浮かべて言った。

「ええ」
 指につけたドロッとした液体を舐めると口の中に酸味と穂のかな甘味が広がる。
(間違いないこれは)

「ケチャップか」
「あら知っての?」
「ケチャップ?旦那様それは何かしら?」
「トマトを使って作られた調味料だ」
「その通りよ」
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