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第五章 依頼が無いので、呆気なく新婚旅行に行く事になりました。
第九十七幕 衝動買いと王都出発!
しおりを挟むエリーゼたちの目標であった強さは手に入れる事が出来たためようやくまともな新婚旅行を楽しむ事になったが、千夜は地味な疲労に悩まされていた。
それは新たな強さを手に入れたことにより心の重りに解き放たれたエリーゼたちがこれまで我慢していた買い物やデートや買い物や買い物で毎日のように王都に繰り出していたからだ。
お金に関してはブラッドワームの報酬とこれまでに稼いだお金を存分に使うエリーゼたちだが、財布の紐が緩みきり完全に衝動買いを繰り返しているのだ。
「おい、そんなに買い物していたらお金がなくなるぞ」
「大丈夫よ。まだあるから」
「はい大丈夫です」
「我も平気じゃ」
「私はちゃんと計算して使ってますので」
不安しか感じない返答に千夜は頭を悩ませる。
(どうなっても知らないからな)
忠告はした。と言って千夜は先に何が起ころうが助けないと決めた。
あれから数日が過ぎ、王都に来て一ヶ月が過ぎようとしていた。
「忘れ物はないな」
「ええ、無いわ」
「私も無いです」
「我もじゃ」
「ありません」
「それじゃ、行くとしよう」
一ヶ月の間過ごした一室を眺め扉を閉める。
受付に行くとそこには来た時に出迎えてくれた二人の受付嬢が立っていた。
「これは千夜様、お早うございます」
「ああ、おはよう」
現在の時刻は8の鐘がなったばかりだ。つまり8時過ぎである。
「チェックアウトを頼む」
「ちぇっくあうととは?」
「ああ、すまない」
(たまにこの世界には無い言葉があるな)
「今日、王都を出ていく。世話になったな」
「そうですか。今までにどこか不都合な所はございませんでしたか?」
「いや、無かった。とても過ごしやすかった」
「そうですか。それは良かったです。それで一つ宜しいですか?」
「なんだ?」
「サイン頂けますか!」
「出来れば私も!」
「ああ、構わない」
恥ずかしそうに色紙を差し出す受付嬢二人。そんな二人の色紙を受け取りサインを行う。
「これで、いいか?」
「はい! 有難うございます。それでお願いだなんですが、実はオーナーにも頼まれまして……」
もう一枚の色紙を出してくる。
「別に構わないぞ」
「有難うございます」
こうして再びサインをした。
「それじゃあな」
「はい。またの御来店をお待ちしております」
綺麗な一礼で送り出す職員たちに軽く手を挙げて千夜たちは黄金の木天蓼亭を後にするのだった。
「出てこい。スケアクロウ」
「はっ! ここに」
人気のな居場所に移動した千夜は御者のためスケアクロウを呼び出す。
「預けてある馬車をギルドまで頼む。俺たちは一足先にギルドに行って挨拶してくる」
「畏まりました」
スケアクロウに指示を出した千夜はエリーゼたちと共にサシャが居るギルドへと向かう。
「アリスちょっと良いか?」
「あ、センヤ様。今日はどの依頼を受けに?」
「今日は依頼を受けに来たんじゃない。今から旅立つから挨拶に来たんだ」
「っ! 分かりました。少々お待ち下さい」
アリスは他の受付嬢に仕事を任せてサシャを呼びにいく。
ドドドドドドッ!
「センヤ!」
「よ、よう」
慌ててきたサシャに千夜は一瞬気圧される。
「今から王都を出るようね」
「ああ」
「また、王都に来たときは寄ってね」
「ああ、もちろんだ。じゃあな」
「ええ、また」
挨拶を終わらせた千夜たちはギルドを出る。と、外でスケアクロウが馬車のドアを開けていた。
「どうぞ」
「ありがとう」
千夜たちは馬車に乗り込む。が、
「待ちなさいよ!」
突然、大声で呼び止められる。
「環」
「婚約者である。私に挨拶も無しに行くつもりだったの」
「いや、お前とは何時でも会話が出来るからな」
「会って話すのとはまた違うわよ! まったく女心が分からない人ね」
(いや、俺は男だからな)
確かに男に女心を分かれと言う方が無理な話ではあるが、それは行き訳でしかない。
「行くのね」
「ああ」
「待ってるわ」
「環も何かあれば連絡しろ。直ぐに駆けつける」
「ええ、分かってるわ」
「早くても2年後だが、その時は必ず迎えに行く」
環を抱き締める千夜。周りの視線などガン無視である。
「愛してる」
「俺もだ」
二人は見詰め合い、キスを
「駄目です、母様!」
ナヤタによって邪魔されるのであった。
「ナヤタ、少しは空気を読みなさいよ!」
「それより母様こそ場所を弁えて下さい!」
「むぅ~」
「環」
「なに? え?」
名前を呼ばれ振り返った瞬間額にほんのりと温かい感触が訪れる。
「お返しだ」
千夜は笑みを浮かべ表彰式での出来事を脳内に思い浮かべる。それは勿論環も理解していた。
「ずるいわ」
頬を赤めながら俯く。
「またな」
「ええ」
挨拶をすませた千夜たちはこうして王都を後にするのだった。
知り合いに見送られながら。
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