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第五章 依頼が無いので、呆気なく新婚旅行に行く事になりました。
第九十八幕 少女時代と少年時代
しおりを挟む王都を出発して2日。最初に向かったのはクロエが住んでいた国境付近の山である。
まとに植物が生えないその山は針山のような岩山である。
「クロエ、あとどれぐらいだ?」
「あと3日なのじゃ。王都が火の国側に近いお陰でそこまで時間は掛からん。しかし、それは山の麓までの話じゃ。そこからは我らダークエルフでも最短でまる1日は掛かるのじゃ」
「となると俺たちだと早くて2日といったところか」
「そうじゃの。じゃが、我らの力ならもっと早くつくかも知れんが、それでもほんの僅かの時間じゃ」
クロエが住んでいた山は天然の要塞と言っても過言ではない場所。いりくんだ道、舗装されていない急斜面、落ちれば即死の崖道と歩き慣れたダークエルフでさえ、油断が許されない場所なのだ。
「よく、そんな場所で生きていけたわね」
「我らの祖先が昔、行き着いた場所らしいからの」
「それって昔は違ったってこと?」
「よくは知らぬ。じゃが、戦いに巻き込まれたと聞いた事はある」
「戦い…………つまりは戦争か」
戦争で家族、土地を失うのは今も昔も変わらないと言うことなのだろう。
「もう夕方か。スケアクロウ。近くに河か野宿出来そうな場所を見つけたら止まれ。今日はそこで休む」
「畏まりました」
「さて、クロエ。今から訊くことは前にも聞いたが、今度は詳細に教えてくれ。どうしてそんな場所にいながら奴隷になった?」
「…………あれは我自身が招いた事じゃ」
クロエは語り出す。何も知らない無垢な少女が広大な世界に憧れた軌跡を。
少女は有望な狩人だった。将来はダークエルフを率いる長となるだろうと周りから期待されていた。
しかし、少女は違った。
確かに長になることは嬉しくもあり誇りに感じていた。が、少女は外の世界に興味を持ち、憧れてもいた。そんな少女は年に数度行われる取引にこっそりと同行し、毎度取引を山の麓で降りたのだ。
そして、隙を見計らって取引商人の荷馬車に乗り込んだ。
しかし、数日が過ぎた時、乗っている事が商人たちにバレ慌てて逃げ出した。右も左も分からない土地で少女は何日も歩き続けた。河で水を飲み、山で狩りを行った。自給自足していくには問題は無かったが、お金が無かった。お金がなければ街に入ることも出来ない少女は偶然、出会った集団に頼み込んだ。その時、少女は商人だと思った。しかし、その集団は人拐いを行う集団だった。
で、優しく接してくれた男たちを無垢な少女は疑うことなく信じた。睡眠薬入りの食事を食べているとも知らずに。そして、気がつけば、両手両足に鎖をつけられ檻に入れられた。
「…………これが我が奴隷になった経緯じゃ」
「辛かったわね」
「酷い人たちです」
「人間以下ですね」
それぞれの感想を述べる女性陣。しかし、千夜から帰ってきた言葉は違った。
「ま、自業自得だな」
「なっ! 旦那様それは酷いんじゃない!」
「外の世界に憧れて旅立った。その気持ちは分からないでもないが、なんの準備もしないで飛び出したのか?」
「………そうじゃ」
「アホだな」
「うっ!」
「「だっ──」昔の俺と同じだな」
「「「「え?」」」」
エリーゼの言葉を遮って出た言葉がそれだった。その事に一瞬理解が及ばなかった。
「旦那様もなの?」
「なんだ、俺がそんな事をするのは可笑しいか?」
「可笑しくは無いけど、用心深い旦那様ならあり得ないと思って」
エリーゼの言葉に頷く妻たち。
「俺だって少年時代はあった。英雄に憧れもした。外の世界を旅したいとも思った。で、結構した。お金、水筒、食べ物、武器を持ってな。が、結局は疲れて木に持たれて寝てしまってな。気がついたらいつものベッドで寝ていた。勿論起きたときに怒られたがな」
「旦那様にもそんな可愛い過去があったのね」
「可愛いかは分からないが俺にだって少年時代はあった」
(前の世界での話だがな)
「…………可愛いのじゃ」
「ん?」
「センヤ小さい時の話し聞きたいのじゃ! 可愛いのじゃ!」
「あ、私も知りたいわ!」
「私もです」
「出来れば私も」
迫り来る妻たち。その瞳には好奇心で輝いていた。
「別に構わないが、その前にクロエ」
「なんじゃ?」
「ちゃんと謝罪の言葉を考えておけよ」
「うっ……」
千夜の言葉に長い耳は垂れる。
そして野宿の場所に到着したら千夜たちは食事をしながら千夜の少年時代の話で盛り上がったのだった。
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