鬼神転生記～勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。～

その頃、百鬼家では？

我輩は、ラムに慰められる。

　あれから数週間が過ぎ、殿から旅行の延期の知らせが届いたときには嘆いたが、それでも我輩は鍛錬を続けた。
　嬉しいことがあったとすれば童ラムが我輩の弟子になった。強くなりたいからと言われ最初は断ったがあまりの頑固さに負けてしまった。そのかわり、ちゃんと家の手伝いや教養を学ばせることにしたのだった。
　そんなある日、バルディから今すぐ来て欲しいと言われ現在ギルドへ来ていた。勿論ラムも一緒だ。どういうわけかあの日から我輩の傍から離れなくなった。勉学や手伝いなどで離れる時もあるが、それ以外は何時も我輩を追いかけ、肩に座りたがる。まったく可愛い童である。これは余談だがラムを初めて屋敷に招くのには苦労した。殿に連絡したら快くペンダントを送って下さった。でもまさかあの謎の封筒に小物も入れられるとは流石は殿。

「で、今回呼び出した理由はなんだ？」
「ワイバーンの件だ」
「まさか他にも居たのか？」
「いや、そうじゃない。ワイバーンを追い出した連中についてだ」
　なるほど。そういうことか。

「で、何が分かったんだ？」
「どうやら、急激に強くなったってのは本当らしい」
「本当なのか？」
「ああ、なんでもある日を境に突如ステータスが上昇したらしい。しかし、それがどうやって強くなったのかまでは分からなかった。だが、調べて分かっただけでもすでに5名も居るらしい。その他にもお前と同等の強さを持つ者が数十名いるという話だ」
「一つ聞くがその強さはどれほどなんだ？」
「これは推測に過ぎないが、間違いなくSSSランクのエルザちゃんよりも強いだろう。いや、もしかしたらセンヤよりも」
「そうか」
「冷静だな」
「意外そうだな」
「当たり前だ。お前が主と認める男と堂々だと言っているのだぞ。それを侮辱されたと思われても仕方が無いからな」
「なるほど。だが、我輩は知っているからな」
「何をだ？」
「生ける伝説が本当に伝説の存在だということにだ」
　我輩は自信たっぷりに断言しする。

「そうか」
　バルディもどこか嬉しそうに答えていた。
　それに我輩は知っている。殿が本当に伝説の存在なのだと。確かにフィリス聖王国の急激な増強には然るべき対処が必要だが殿が負けることはないと確信してる。

「話は戻すが、ワイバーンの事を国王陛下に報告したら、どうにかしてセンヤから情報を聞き出せないかと頼まれてな。すまないが頼めるか？」
「そういうことか」
　正直、殿に迷惑を掛けたくは無いが、この国と敵対するつもりは殿にはない。ましてや奥方であるエリーゼ殿には息子がおられる。その事を考えれば殿は快く教えてくれるだろう。

「分かった。今すぐには無理だが、今晩にでも聞いてみることにする」
「すまないが、頼んだ」
　我輩はラムを連れて屋敷へと戻る。

「タイガー」
「なんだ？」
「悪いことが起きるの？」
「いや、そうと決まったわけではい。だがもし起こったとしても大丈夫だ。なんせ我輩が仕える殿は最強なのだから」
「そんなに強いの？」
「勿論だ」
「タイガーよりも」
「我輩など殿の足元にも及ばない」
「タイガーは強いよ」
　ラムは我輩の頭を撫でる。慰めてくれているのだろう。別に落ち込んではいないのだがな。

「ありがとな。さて、帰って夕食にしよう。今日は肉料理だそうだ」
「やった！ お肉だ！」
　こういったところはまだ子供だな。
　それなら殿への報告は夕食の後にするとしよう。