鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第五章 依頼が無いので、呆気なく新婚旅行に行く事になりました。

第百二十四幕 青年と商人

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 青年は気絶した仲間を抱えて森の外に向かっていた。
 今回、青年がここに来たのは護衛として来たのだ。もともと今回の任務に興味が無く早く母国に帰りたいと思っていた。しかし思いがけない事に彼の前にとても面白うそうな玩具が現れたのだ。
(まさか生ける伝説に会えるとは思いませんでした)
 突如、仲間の魔力を感じた彼は護衛対象を置いてきぼりにして仲間の許へと向かった。
 青年に仲間思い、友情というモノは存在しない。
 ただ単に今暴れられては困るため止めに向かっただけなのだ。
(エクス君は心が弱いため短期ですからね)
 気絶するエクスに視線を向けながら思い出す。
(しかし今回は彼のおかげで思いがけない人物と出会える事が出来ました)
 今にも叫びたいほどの悦びが湧き上がる。
 しかし彼はそれを抑え森の外で待つ仲間の許へ向かう。
(どうせ今回の任務は失敗。あの商人を見捨てても平気でしょう)
 彼の中にエクスのような正義や悪といった感情は備わっていない。ただ、彼の中にある感情。欲求と言ってもいい。それを満たすために彼はエクスと同様七聖剣となったのだ。
 元々才能に恵まれていた彼にとって七聖剣になる事はそう難しくはなかった。
 しかし、難しくなかったからこそ本当の意味で彼がしたいことが楽しい事が何なのか分からないでいた。
 それでも彼の中にある唯一の楽しいと感じること。それは、殺し合い。
 武器と武器が火花を散らせ、一瞬の隙、油断で生死が決まる。そのような戦いを求め彼は今もなお強さを求め、戦場を求めた。
 そんな欲求を満たすのに今の地位は邪魔に感じる時もあれば最高だと感じつ時もある役職なのだ。
 そして今回は最高だと感じた時であった。

「あれほどとは……」
 歓喜に震える声で呟かれた。
(我が国にまでXランク冒険者の噂は届いていましたが、全てでは無いにしろそれほどの人物がこの世に居るとは思っていませんでした。そんな人物魔族の四天王や魔王で無い限り。しかし、どうやら噂は本当のようですね。あれほど底が見えない人物など初めて会いました。しかし我が国は人間至上主義。けして亜人種を認めない。ましてや魔族の血が半分流れている混合種など。ま、私には関係ありませんが。でも、もしかしたなら近いうちに交わることが出来るかもしれませんね)
 舌舐めずりをする青年。その姿は、飢えた獣のような。最高の玩具を見つけたサディストのような。どちらとも似つかない表情を浮かべて森を後にするのだった。

       **************************************

 予想していなかった戦闘はあったものの、作戦に支障することが無かった千夜は急ぎエルザたちの許へ向かった。
 木々の合間を縫うように駆け抜けた千夜とエリーゼの両名は数分してエルザたちと合流した。

「主様」
 戦闘後、エルザと通信結晶で状況確認を行うと、どうやら二人目の青年が先ほどまでエルザが警戒していた男だったと知る千夜。
(確かにあの男の強さは並大抵の者ではない。存在進化を果たした者たちの中では間違いなくトップクラスの強さだろう)
 もしも、フィリス聖王国となんらかの戦闘になった場合を考えると、このままではエリーゼたちの命が危険だと確信する。
(帰ったらまた特訓だな)
 意識の隅でどんな特訓にするか思案しながらも、今回の目的であるデセオを眺める。
 フィリス聖王国の七聖剣の一人であろう人物が居なくなった事で遥かに近づく事が可能となった千夜たち。
 デセオとの距離は直進でおおよそ30-メートル。僅かな音で気付かれる可能性のある距離である。
 しかし、千夜たちは気配遮断、隠密などのスキルをしようしているため気付かれる様子はない。
 視線の先にはエルザが報告してくれた人物たちがいまだに会話をしている。
(あの男がこの場から居なくなった事に不審に思わないのか? それとも気付いていないのか)
 あの中では群を抜いて強さを持つ男が居なくなったにも拘わらず互いに下卑た笑みを浮かべて楽しそうに会話を続けるデセオと商人。その事に千夜は呆れていた。
(きっと互いに見下しているんだろう。亜人種などに、人間風情が。と内心思っているだろうな)
 二人の心の声を代弁する千夜だったが、その必要はなくなる。
(終わりか)
 密会が終了したのか。商人は護衛に守られながら踵を返す。
 そんな商人が見えなくなると同時にデセオは商人が立っていた場所に唾を吐き捨てる。
(やはり、亜人も人間も関係ないな。傲慢な奴は傲慢だ)
 デセオも踵を返して集落へと戻る。

「(行動開始だ)」
 小声で呟かれた千夜の言葉に妻たちは頷く。それと同時に千夜たちの姿はその場から消えていた。
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