鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

文字の大きさ
249 / 351
第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第十三幕 都市ルーセントとヒッタクリ

しおりを挟む
 移動を開始して4日後、千夜たちは目的地である都市ルーセントを目視出来る距離まで来ていた。
 今すぐにでも入れる状態ではあるが、外套を着たまま入れば怪しまれるため、脱ぐ必要があった。それに他にも千夜には知っておかないといけない事があるため、一旦森の中に身を潜める事にしたのだ。

「出て来い、バンシー」
 魔物生成スキルで作られた3体目の魔人であり、死霊を使った闇魔法を得意とする魔女。その人格は極悪非道であり、己の欲望、欲求、探究心の為ならば殺戮も厭わないマットサイエンティストである。
 そんな人格にしてしまったのは千夜であるためどうする事も出来ないが、救いがあるとすれば千夜の命令には必ず従うという事である。この鎖があるかぎりバンシーが虐殺行為を行う事はない。言い換えればこれが無くなれば、何をするか分からないとも言えた。

「御呼びでしょうか我が君」
「ああ。こうして4日間移動したが盗賊たちに遭遇する事は無かった。他の所はどうなったか詳しく聞きたいと思ってな」
「畏まりました」
 魔物生成、死霊生成スキル使用者には作り出した魔物、アンデットの生死を知る事が出来、死んだ場合はその者の記憶を見る事が出来る。しかし現在の居場所を知る事は出来ない。
 また死霊生成スキルには魔物生成スキルと違い特有の力が備わっている。死霊生成スキルは使用者の技量にもよるが、離れていても生死の命令のみ送ることが出来る。

「既に全てのモルモットたちは目的地に到着したようで消滅していますね。ちょっと記憶を見せて貰うわね」
 バンシーは目を閉じて全てのアンデットたちの記憶を確認していく。その時間およそ5分。想像され初めてにも拘わらず短時間で出来るのは千夜の魔物生成スキルの凄さでもある。

「他のところは幾つかの盗賊と遭遇、殲滅していますね。ケアドに向かった二組は3つの盗賊。ダラに向かった二組は6つ、ルーセントに向かった一組は遭遇しなかったようですね」
「そうか。よくやってくれたな」
「勿体無きお言葉にございます」
 バンシーの返答にエリーゼたちの表情が険しくなる。理由はバンシーの声音が少し弾んでいたからだろう。

「記憶の中に戦闘を物陰から監視、もしくは傍観している存在は居なかったか?」
「いえ、記憶を見た限りではそのような人物は居ませんでしたが?」
「そうか……」
(となると、使い魔など動物や虫の目を使って監視してる恐れがあるな。となるとこの撹乱も意味をなしていない可能性だってあるが、ここで結論がでるわけではないからな)
 思考を巡らせ答えが出ないと判断するとすぐさま現実に戻る。

亜空間あっちに戻って休むと良い。もしかしたら近いうちにまた呼ぶ事になるかもしれないからな」
「その時を心待ちにしております。我が君」
 自分の気持ちを伝えるとバンシーは亜空間へと戻っていった。

「予想では分身が殲滅したと思っていたが、まさか一回も盗賊に出くわさなかったとはな」
「偶然ではないですか?」
「いや、一定の距離を離れて移動していたからな。それで一回も遭遇しないとなると、この街道には盗賊が居ないのかもしれない」
「どうしてですかね?」
「多分だが、都市ルーセントはこの領地の県庁所在地みたいな場所だからだろう」
「けんちょうしょざいち?」
「あ~……国でいう首都みたいなものだ」
「なるほどね」
 千夜にとって帝国は一国であり、帝都は東京、他の領地は都道府県という認識なのだ。

「さて、ここで長話をしていても答えはでない。さっそく都市に入るとするか」
「そうね」
 千夜たちは一冒険者として都市ルーセントの門に向かう。
 一時間程度でようやく順番がやってくる。
 門番にギルドカードを提示して数分後には問題なくルーセントに入る事が出来た千夜たちは大通りを歩き宿を探す。

「(エリーゼ、ウィルお前たちには懐かしく大切な都市である事は解っているが焦るなよ)」
「(解っているわ)」
「(はい、心は熱く心は冷静に。ですね)」
「(特に目立つ行動はなるべく控えるようにな。これはミレーネたちもだ)」
 千夜の言葉に全員が頷く。

「きゃああ! 泥棒おぉ!」
 女性の悲鳴に全員の視線が前方に集中する。
 覆面を被った一人の男が女性から奪った物を脇に抱えて千夜たちの方向に走ってくる。
(都市に入って早々ヒッタクリとはこの都市も帝都に負けず劣らず物騒だな。ん?)
 そんな事を内心思っていると既にヒッタクリの男は千夜の目の前まで来ていた。

「退け! 殺すぼへっ!」
 荷物を抱える反対の手に持っていた短剣を突き出したヒッタクリの男の顔面に拳を叩き込む。
 千夜自信は幻惑スキルで姿を変えているとはいえ、その力はXランク冒険者漆黒の鬼夜叉その者である。そのため、それなりに手加減したとはいえ、常人を遥かに凌駕する千夜の一撃は男を数十メートル後方に吹き飛ばした。
 その光景を見ていた周りの住民は呆気とられ、口が開いていた。

「旦那様……」
「センヤさん……」
「センヤ……」
「主……」
 エリーゼたちは目立つなと言った張本人にジト目を向けていた。

「し、仕方がないですよね!」
 ウィルは千夜を庇おうと必死にフォローするのだった。
(ウィル、お前は優しいな)
しおりを挟む
感想 694

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。