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一章【王城脱走編】
第二話:ロイヤルギアス
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――レイノールにとっては予想だにしない発言、いや狂言だったのだろう。
底の見えない微笑を浮かべるデオドラに対抗するように、レイノールは眼力を強めて歩み寄った。
「……歴史が、間違っているだと? どういう意味だ?」
「どう受け取ってもそのままの意味でしょ」
デオドラは笑みを崩さず続ける。
「種族王を倒したのは俺だ。四天大聖? 誰だその連中は。気恥ずかしいけど、有り体に言うならそう……世界を救ったのは俺だ」
流石に自分の功績を誇示するのは照れ臭いのか、言葉を選ぶように途中で声を途切れさせつつ、しかし明確にデオドラは自分の正体を明かした。
だが、得体の知れない余裕で裏打ちされたその様子は、周囲の者の目には虚言を吐く蛇のようにでも見えたのだろう。誰一人として、デオドラの発言をまともに取り合うことはなかった。
「なっ、貴様、四天大聖を愚弄するか!?」
「お前が世界を救っただと! 冗談も大概にしろ!」
「魔人が……! お前のせいで、どれだけの人間が苦しんだか……!」
憤慨に満ちた罵声が、各所からデオドラへと向けられる。
その中でもレイノールの声は、一段と熱量が低かった。
「奇妙な話だ。が、興味はない。我々が貴様に求める機能は暴力だけだ。仮に貴様の話が真実とするなら、なおさら貴様は我々に協力してくれる筈だな?」
この王はデオドラ・ロイーゼを人間として見ていないのだ。
デオドラの言が嘘か真実か以前の問題として、デオドラを自分たちの味方にどう取り入れるかばかりに執着している。偽りの歴史によって栄光を完全に潰されたデオドラの心境を、欠片ほども考えようとすらしていない。
……そんなレイノールの胸中が分かったからこそ、デオドラは首を縦に振らなかった。
「さぁ、どうかな。この状況、ぶっちゃけあんまり面白くないからな」
「我々の要望を拒否する気か」
当たり前だ、とばかりに肩をすくめるデオドラ。
「手を貸すことで、俺に利点があるのかと考えた。たった今、無いと結論付けた」
「……では望みを言ってみろ。金銭か? 女か? 名誉か? 最後者以外なら叶えてやるぞ」
「もらえるなら全部欲しいが、戦う理由にはならないな」
彼が望むのは戦いの動機だ。物欲も食欲も性欲も、命を尽くすほどの価値はない。デオドラ・ロイーゼは理由がないと行動できない、ごく普通の受動的な青年なのである。
デオドラが生きていた千年前、戦いは死と限りなく近いところにあった。にも拘わらず、彼が戦争の大役を担い、実質的に彼一人のみで大戦を終わらせられたのには明確な動機があったのだ。
「昔はさぁ、こんな俺でも、守ってあげたいって思う人たちが少なからずいたんだよ。だけど俺にとってここは千年後の未来だ。知ってる人間なんていない。――だからどうでもいい」
突き放すような言葉。もちろん、完全に彼の本音という訳ではない。デオドラは相手の出方を伺うためにも、少し背伸びをして言葉選びをした。
だが、確かに、デオドラは誰彼構わず助ける英雄という訳ではない。
赤の他人が不運に襲われる事故が世界の何処かで起こったとしても、それを仕方ないと許容できるだけの、自然な人間としての感性を持っていた。
「誰がどこでどんな目に遭おうと、俺がどんな風に中傷されようと、少なくとも俺の目と耳に入らない範囲では、感知するところじゃない。それに神秘論じゃ、意図して未来の生物を殺すことは涜神に値するらしいからな。たしか、きっと、おそらくそんなことを学んだ気がする。忘れたけど」
冗談を交えながら饒舌っぷりを発揮するデオドラが、いたく不愉快だったのか、レイノールは明らかに顔をしかめた。
魔人『デオドラ・ロイーゼ』は正体不明の深淵のような男だった。しかし、今のデオドラはまるで言い訳をする子供だ。レイノールから恐怖は抜け落ち、今はただ、目の前の男を嫌悪する感情のみが渦巻いている。
「ソルセインは貴様の故国だ。それが滅ぶ――いや、ソルセインだけでなく、人類が滅びかねない有事なのだぞ。それでも拒否すると言うのか」
「……」
そう言われて、デオドラの表情が一瞬だけ強張る。が、それは本当に一瞬の出来事で、すぐに彼は嘲笑のような仮面を取り繕った。
「他人がどうなろうと知ったことじゃない。――何て、そんなことを言い出したらどうする?」
そして、相手を試すかのように、言葉を紡ぐ。
「災厄の魔人だっけ? 命を削って人類のために戦ったのに、そんな風に言われたら誰でも嫌な気持ちになるって分かるよな?
もしも、俺がアンタたちの願いに承諾して、再び闘争の日々に戻ったとする。そんなとき、たまの休日に散歩をしていて、路上で魔人呼ばわりされたどうなる。俺はあまりの悲しみに戦意を失い、絶望して戦うことをやめてしまうだろう。それが若い美人の女性ならなおさらだ。俺は失意の中で自分を見失い、この命を引退するだろう」
「……何が言いたい? 要点を率直に言え」
「俺を屈服させる手段があるんだろ? 知的好奇心ってやつかな。兵か技術か知らないが、ソレに興味があるんだ」
デオドラが現代人を救うことに難色を示していた理由は、まさにそれだった。
彼は正真正銘の英雄であり、識者でもあり、挑戦者だった。デオドラの力量なら彼自身が誰より正しく評価できる。贔屓も忖度も謙遜もなく、彼は史上最強の人類であるとの自負があった。
そんな自分を屈服させられると言うのならどうぞしてみろと、要するにデオドラは挑発しているのだ。
「俺は本質的に怠惰な人間だ。働かせたかったら、足に鞭打って奴隷よろしく強制労働させると良い。だけど、俺って頑固な時は頑固だからなぁ。まぁ、歴史を修正して俺への評価を正した上で、王様のアンタが鼻水垂らしつつ泣いて懇願するなら、考えてあげなくもなかったり――」
その時だった。
レイノールが溜息を交えながら右手をデオドラへと翳し、おもむろに口を開いた。
「――誅罰」
「? 何を言って――っ!?」
瞬間、何かが迸る。
筋肉が捻じれるような、内臓が引き裂かれるような、骨が細切れにされているかのような、身体の内側が灼熱に襲われているかのような、筆舌に尽くしがたいあらゆる種類の苦痛が一斉に押し寄せ、激痛の波となってデオドラを襲った。
「がっ、ああぁああああああああぁァァァァぁあああアッッ!!」
地に伏し、のたうち回り、思わず絶叫する。
体験したこともない激痛だった。竜王の牙にも巨人王の殴打にも屈しなかったデオドラが、声を荒げて発狂してしまう程の苦しみだった。
「何、だ、……ぐゥ、コレはァ! 何を、した……ッ!?」
デオドラが喉の奥に詰まったような声でようやく言葉を吐き出すと、レイノールは翳していた手を下ろす。すると、デオドラを蝕んでいた地獄の苦痛も同時に解けた。
「ロイヤルギアスと呼ばれる王族の特権魔法だ。貴様の死後に開発された魔法なのだから、貴様が知らなくても道理か」
「ロイヤル、ギアス、だぁ……?」
「対象の魔力炉に植えつけられる絶対服従の呪い。種族王ですら抗えない束縛術だ。本来であれば人間仕様ではないのだが、貴様にも有効なようで安心したよ」
魔力炉は体内で魔力を生成する器官だ。それを起点とする魔法なら抗いようがないという理屈も筋が通っていた。大方、デオドラが意識を完全に取り戻す前に呪文を植え付けたのだろう。
「呪い……いや、毒魔法だな」
「その通り。神代の遺物なだけあって、頭も回るらしい」
「コレが、俺を服従させる手段、か」
頑健なデオドラを外側からでなく内側から責めるというのは、彼の苦しめ方として正解に近い。とは言え、想像よりも姑息な手段で攻撃されたデオドラは、もどかしさに歯噛みする。
憤りの表情を浮かべるデオドラを見て自分の優位を確信したレイノールは、得意げな声音で続けた。
「今後、貴様が王族や王侯貴族に反意を持ち、それが実際の行動に反映されるほど高ぶる時が来れば、ロイヤルギアスは自動で発動する。逃げることも、逆らうことも貴様にはできない。残された選択肢は、無限の苦痛によって調教されるか、素直に我々に服従するかのいずれかだ」
「……」
素直に認めたくない気持ちを押し殺して評価すれば、間違いなくデオドラはロイヤルギアスになすすべがない。唯一の対抗方法は素直に痛みを受け入れて我慢することくらいだが、毒魔法を耐え続ければ心は無事でも肉体はそうもいかない。
魔力炉を軸に発動する魔法ならば、その使用回数は魔法をかけた側でなくかけられた側の魔力総量に依存するだろう。となると、一度発動すれば、デオドラが死ぬまでロイヤルギアスは停止しない可能性だってある。
考えれば考えるほど窮地だった。
だからデオドラは、理屈でなく感情に判断を委ねる。不義理な子孫に対する憤りの感情に。
「……言ったろ、俺は頑固だって。流石にムカつくから、せめて悪人呼ばわりを訂正してくれなきゃ力は貸さない」
「反抗的だな」
デオドラとしては、些細な要求のつもりだった。現代人の手助けをするついでに、自分への評価を正せれば儲けものだと考えたのだ。逆を言えば、本来あるべき自分の名誉が最低限回復されさえすれば、デオドラはレイノールに協力して良いと思っていた。
だから、そんな当たり前の小さな見返りを断られるのは、デオドラにとって少々予想外だった。
「――残念だが、貴様が何と言おうと、貴様は『災厄の魔人』デオドラ・ロイーゼだ。私はそう信じているし、ほぼ確信すらしている。それに、敬慕する英霊である四天大聖の名に泥を塗るような真似は出来ない」
「……だから誰だよ、そのなんとか大聖って連中は? 言っておくけど、そんな人間本当は存在してないから。アンタたちは俺を差し置いて、架空の人物を奉ってるんだぞ」
歴史が多少脚色されただけなら納得もできるし、許容する気にもなる。しかし、千年前の舞台に上がりすらしていない他人に、自分の功業が盗まれるのは我慢できなかったし、納得もできなかった。
おそらくはデオドラの死後、何の成果もあげていなかった人間たちが、自らを四天大聖と名乗り、デオドラの手柄を自分たちのものだと吹聴でもしたのだろう。
そんな不義理者に対しても憤慨を覚えるが、簡単に誤った歴史を語り継ぐ後の世代にはもはや辟易する。
偽史を真実だと思い込む後世たち。その筆頭格であるレイノールは、デオドラの訴えを当然の如く一蹴した。
「良い返事が聞けないのならもう良い。今告げるべきことは全て告げた。後ほど、改めて躾の者を寄越そう。それまでは静かに待っているんだな」
そう一方的に告げて踵を返すレイノールには、呼び止める言葉すら浮かばない。
護衛を引き連れてその場を後にする国王の背中を見つめながら、デオドラは漫然と呟く。
「全く、こんな地味で卑怯な魔法、誰が作ったのやら……」
デオドラは自虐的に笑うと、壁に背中を預け、しばらく腰を下ろしたままだった。
底の見えない微笑を浮かべるデオドラに対抗するように、レイノールは眼力を強めて歩み寄った。
「……歴史が、間違っているだと? どういう意味だ?」
「どう受け取ってもそのままの意味でしょ」
デオドラは笑みを崩さず続ける。
「種族王を倒したのは俺だ。四天大聖? 誰だその連中は。気恥ずかしいけど、有り体に言うならそう……世界を救ったのは俺だ」
流石に自分の功績を誇示するのは照れ臭いのか、言葉を選ぶように途中で声を途切れさせつつ、しかし明確にデオドラは自分の正体を明かした。
だが、得体の知れない余裕で裏打ちされたその様子は、周囲の者の目には虚言を吐く蛇のようにでも見えたのだろう。誰一人として、デオドラの発言をまともに取り合うことはなかった。
「なっ、貴様、四天大聖を愚弄するか!?」
「お前が世界を救っただと! 冗談も大概にしろ!」
「魔人が……! お前のせいで、どれだけの人間が苦しんだか……!」
憤慨に満ちた罵声が、各所からデオドラへと向けられる。
その中でもレイノールの声は、一段と熱量が低かった。
「奇妙な話だ。が、興味はない。我々が貴様に求める機能は暴力だけだ。仮に貴様の話が真実とするなら、なおさら貴様は我々に協力してくれる筈だな?」
この王はデオドラ・ロイーゼを人間として見ていないのだ。
デオドラの言が嘘か真実か以前の問題として、デオドラを自分たちの味方にどう取り入れるかばかりに執着している。偽りの歴史によって栄光を完全に潰されたデオドラの心境を、欠片ほども考えようとすらしていない。
……そんなレイノールの胸中が分かったからこそ、デオドラは首を縦に振らなかった。
「さぁ、どうかな。この状況、ぶっちゃけあんまり面白くないからな」
「我々の要望を拒否する気か」
当たり前だ、とばかりに肩をすくめるデオドラ。
「手を貸すことで、俺に利点があるのかと考えた。たった今、無いと結論付けた」
「……では望みを言ってみろ。金銭か? 女か? 名誉か? 最後者以外なら叶えてやるぞ」
「もらえるなら全部欲しいが、戦う理由にはならないな」
彼が望むのは戦いの動機だ。物欲も食欲も性欲も、命を尽くすほどの価値はない。デオドラ・ロイーゼは理由がないと行動できない、ごく普通の受動的な青年なのである。
デオドラが生きていた千年前、戦いは死と限りなく近いところにあった。にも拘わらず、彼が戦争の大役を担い、実質的に彼一人のみで大戦を終わらせられたのには明確な動機があったのだ。
「昔はさぁ、こんな俺でも、守ってあげたいって思う人たちが少なからずいたんだよ。だけど俺にとってここは千年後の未来だ。知ってる人間なんていない。――だからどうでもいい」
突き放すような言葉。もちろん、完全に彼の本音という訳ではない。デオドラは相手の出方を伺うためにも、少し背伸びをして言葉選びをした。
だが、確かに、デオドラは誰彼構わず助ける英雄という訳ではない。
赤の他人が不運に襲われる事故が世界の何処かで起こったとしても、それを仕方ないと許容できるだけの、自然な人間としての感性を持っていた。
「誰がどこでどんな目に遭おうと、俺がどんな風に中傷されようと、少なくとも俺の目と耳に入らない範囲では、感知するところじゃない。それに神秘論じゃ、意図して未来の生物を殺すことは涜神に値するらしいからな。たしか、きっと、おそらくそんなことを学んだ気がする。忘れたけど」
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魔人『デオドラ・ロイーゼ』は正体不明の深淵のような男だった。しかし、今のデオドラはまるで言い訳をする子供だ。レイノールから恐怖は抜け落ち、今はただ、目の前の男を嫌悪する感情のみが渦巻いている。
「ソルセインは貴様の故国だ。それが滅ぶ――いや、ソルセインだけでなく、人類が滅びかねない有事なのだぞ。それでも拒否すると言うのか」
「……」
そう言われて、デオドラの表情が一瞬だけ強張る。が、それは本当に一瞬の出来事で、すぐに彼は嘲笑のような仮面を取り繕った。
「他人がどうなろうと知ったことじゃない。――何て、そんなことを言い出したらどうする?」
そして、相手を試すかのように、言葉を紡ぐ。
「災厄の魔人だっけ? 命を削って人類のために戦ったのに、そんな風に言われたら誰でも嫌な気持ちになるって分かるよな?
もしも、俺がアンタたちの願いに承諾して、再び闘争の日々に戻ったとする。そんなとき、たまの休日に散歩をしていて、路上で魔人呼ばわりされたどうなる。俺はあまりの悲しみに戦意を失い、絶望して戦うことをやめてしまうだろう。それが若い美人の女性ならなおさらだ。俺は失意の中で自分を見失い、この命を引退するだろう」
「……何が言いたい? 要点を率直に言え」
「俺を屈服させる手段があるんだろ? 知的好奇心ってやつかな。兵か技術か知らないが、ソレに興味があるんだ」
デオドラが現代人を救うことに難色を示していた理由は、まさにそれだった。
彼は正真正銘の英雄であり、識者でもあり、挑戦者だった。デオドラの力量なら彼自身が誰より正しく評価できる。贔屓も忖度も謙遜もなく、彼は史上最強の人類であるとの自負があった。
そんな自分を屈服させられると言うのならどうぞしてみろと、要するにデオドラは挑発しているのだ。
「俺は本質的に怠惰な人間だ。働かせたかったら、足に鞭打って奴隷よろしく強制労働させると良い。だけど、俺って頑固な時は頑固だからなぁ。まぁ、歴史を修正して俺への評価を正した上で、王様のアンタが鼻水垂らしつつ泣いて懇願するなら、考えてあげなくもなかったり――」
その時だった。
レイノールが溜息を交えながら右手をデオドラへと翳し、おもむろに口を開いた。
「――誅罰」
「? 何を言って――っ!?」
瞬間、何かが迸る。
筋肉が捻じれるような、内臓が引き裂かれるような、骨が細切れにされているかのような、身体の内側が灼熱に襲われているかのような、筆舌に尽くしがたいあらゆる種類の苦痛が一斉に押し寄せ、激痛の波となってデオドラを襲った。
「がっ、ああぁああああああああぁァァァァぁあああアッッ!!」
地に伏し、のたうち回り、思わず絶叫する。
体験したこともない激痛だった。竜王の牙にも巨人王の殴打にも屈しなかったデオドラが、声を荒げて発狂してしまう程の苦しみだった。
「何、だ、……ぐゥ、コレはァ! 何を、した……ッ!?」
デオドラが喉の奥に詰まったような声でようやく言葉を吐き出すと、レイノールは翳していた手を下ろす。すると、デオドラを蝕んでいた地獄の苦痛も同時に解けた。
「ロイヤルギアスと呼ばれる王族の特権魔法だ。貴様の死後に開発された魔法なのだから、貴様が知らなくても道理か」
「ロイヤル、ギアス、だぁ……?」
「対象の魔力炉に植えつけられる絶対服従の呪い。種族王ですら抗えない束縛術だ。本来であれば人間仕様ではないのだが、貴様にも有効なようで安心したよ」
魔力炉は体内で魔力を生成する器官だ。それを起点とする魔法なら抗いようがないという理屈も筋が通っていた。大方、デオドラが意識を完全に取り戻す前に呪文を植え付けたのだろう。
「呪い……いや、毒魔法だな」
「その通り。神代の遺物なだけあって、頭も回るらしい」
「コレが、俺を服従させる手段、か」
頑健なデオドラを外側からでなく内側から責めるというのは、彼の苦しめ方として正解に近い。とは言え、想像よりも姑息な手段で攻撃されたデオドラは、もどかしさに歯噛みする。
憤りの表情を浮かべるデオドラを見て自分の優位を確信したレイノールは、得意げな声音で続けた。
「今後、貴様が王族や王侯貴族に反意を持ち、それが実際の行動に反映されるほど高ぶる時が来れば、ロイヤルギアスは自動で発動する。逃げることも、逆らうことも貴様にはできない。残された選択肢は、無限の苦痛によって調教されるか、素直に我々に服従するかのいずれかだ」
「……」
素直に認めたくない気持ちを押し殺して評価すれば、間違いなくデオドラはロイヤルギアスになすすべがない。唯一の対抗方法は素直に痛みを受け入れて我慢することくらいだが、毒魔法を耐え続ければ心は無事でも肉体はそうもいかない。
魔力炉を軸に発動する魔法ならば、その使用回数は魔法をかけた側でなくかけられた側の魔力総量に依存するだろう。となると、一度発動すれば、デオドラが死ぬまでロイヤルギアスは停止しない可能性だってある。
考えれば考えるほど窮地だった。
だからデオドラは、理屈でなく感情に判断を委ねる。不義理な子孫に対する憤りの感情に。
「……言ったろ、俺は頑固だって。流石にムカつくから、せめて悪人呼ばわりを訂正してくれなきゃ力は貸さない」
「反抗的だな」
デオドラとしては、些細な要求のつもりだった。現代人の手助けをするついでに、自分への評価を正せれば儲けものだと考えたのだ。逆を言えば、本来あるべき自分の名誉が最低限回復されさえすれば、デオドラはレイノールに協力して良いと思っていた。
だから、そんな当たり前の小さな見返りを断られるのは、デオドラにとって少々予想外だった。
「――残念だが、貴様が何と言おうと、貴様は『災厄の魔人』デオドラ・ロイーゼだ。私はそう信じているし、ほぼ確信すらしている。それに、敬慕する英霊である四天大聖の名に泥を塗るような真似は出来ない」
「……だから誰だよ、そのなんとか大聖って連中は? 言っておくけど、そんな人間本当は存在してないから。アンタたちは俺を差し置いて、架空の人物を奉ってるんだぞ」
歴史が多少脚色されただけなら納得もできるし、許容する気にもなる。しかし、千年前の舞台に上がりすらしていない他人に、自分の功業が盗まれるのは我慢できなかったし、納得もできなかった。
おそらくはデオドラの死後、何の成果もあげていなかった人間たちが、自らを四天大聖と名乗り、デオドラの手柄を自分たちのものだと吹聴でもしたのだろう。
そんな不義理者に対しても憤慨を覚えるが、簡単に誤った歴史を語り継ぐ後の世代にはもはや辟易する。
偽史を真実だと思い込む後世たち。その筆頭格であるレイノールは、デオドラの訴えを当然の如く一蹴した。
「良い返事が聞けないのならもう良い。今告げるべきことは全て告げた。後ほど、改めて躾の者を寄越そう。それまでは静かに待っているんだな」
そう一方的に告げて踵を返すレイノールには、呼び止める言葉すら浮かばない。
護衛を引き連れてその場を後にする国王の背中を見つめながら、デオドラは漫然と呟く。
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