世界を救ったハズなのに

ラストサムライ

文字の大きさ
12 / 22
二章【亡霊教会編】

第十二話:少年少女

しおりを挟む
 デオドラは目を開く。
 視界に広がる白い漆喰の天井には汚れ一つない。空気も澄んでいて肺が生き返るようだった。極めつけに、現在身体を預けている寝具だ。何の材質で作られているのか、抵抗と柔軟性が共生し心地良い弾力があった。

「――ふかふかだ」
「なのです」

 気を失う直前まで聞いていた女の声が耳に届く。
 上体を起こして見れば、直立不動で此方を見守る藍色の少女がいた。

「誰?」
「亡霊教会のリーダーを務めているのです! 名はルピスなのです!!」
「……そっか。よろしくな」

 まず第一に必要な説明が抜けている気がするが、ひとまず名前だけ把握してデオドラは会釈した。
 すると、ルピスはわなわなと身体を震わせ、両手で頬を抑えると、喜悦のあまり悶絶し始めた。

「はぅぁぁぁあああ……っ! 魔人様が私の目を見て『よろしく』だなんて……! や、やめて欲しいのです! 悔いが! この世に悔いが無くなってしまうのです! 死んでも良いくらい幸せになってしまうのです……!」
(こいつやば)
 
 どうして少女がこうも悦ぶのか。理由はおおよそ分かる。
 しかし、デオドラは自分に向けられる期待が的外れで筋違いだということも察していた。今はあまり深堀りせず、状況判断に努めるのが賢明だろうか。

「助けてくれたんだよな?」
「なのです!!」
「じゃあ礼を言うべきか。本当に助かった。ありがとな」
「……ふぐぁああ!!!」

 ルピスは胸を抑えて昏倒した。断末魔のような絶叫が響き渡り、部屋のドアが強引に開かれた。

「どうしたボス!?」
「魔人様が、私に謝辞を――」
「――何ィ!? ま、魔人様が起きていらっしゃるだとぉぉぉう!?」

 狂暴な顔立ちで、荒々しく髪を逆立たせた獣のような少年が素っ頓狂に叫んだ。
 赤毛の少年は駆け足でベッドの上のデオドラへと近寄り、その際に床に伏すルピスのことを、

「退けボス! 邪魔だ!」

 まるでゴミでも扱うかのように蹴り上げる。宙を舞って壁に衝突したルピスは「ぐはッ」と呻くが、少年はボスである少女に目もくれず、デオドラの膝下で跪いた。

「ようこそ亡霊教会本部へ。オレはフィルマートというしがない殺人鬼でございます。かれこれ苦節十五年、魔人様と同じ志を胸に生きて参りました。今生におかれましては、どうかこのオレを貴方様の右腕にして頂きたく――」
「――ゆ、許さねぇのです!! ボスであるルピスを足蹴にした挙句、抜け駆けだなんて!! 死ぬがいいのです!!」
「るせぇ邪魔すんな殺すぞガキ!!」

 フィルマートもルピスも、外見上はさほど歳の差を感じさせない。互いに物怖じせず言い合えるのは親密な証拠……と受け取っていいかはデオドラにとって悩ましかった。
 殺人鬼と名乗る少年もそうだが、少女の言葉選びも物騒だ。快活な点だけは好ましいと感じられたが。
 ともかく、二人を仲裁すべくデオドラは身を乗り出した。

「おいおい、喧嘩は良くない」
「仲直りするのです」
「ガキなんて言って本当にすみませんでしたボス!」
(……秒で豹変しすぎだろ)

 デオドラは薄い絆に失笑する。漫才なら良い出来だが、素でやってそうな部分がどうも度し難い。
 困ったように微笑を浮かべるデオドラに対し、ルピスは深々と頭を下げた。

「お見苦しい所をお見せしましたのです魔人様」
「い、いや、俺は良いけど……」

 その時だった。
 ぐぅぅぅ、と誰かの腹の虫が悲鳴をあげる。音の発信源はどう考えてもデオドラの腹だった。よく思い出してみれば、転生してから今まで何も食事を摂っていない。仕方のない生理現象である。
 だが、太古の人間であるデオドラでも、自分を恥じらう常識くらいは持ち合わせていた。

「……」
「……」
「……」

 素直に自分の腹が鳴ったと名乗るのを怖じるデオドラと、沈黙する魔人の意を汲んで懊悩するルピスとフィルマートの構図だった。
 照れ隠しにデオドラが咳払いをしてみると、それをどう受け取ったのか、ルピスが声を荒げた。

「おいフィルマート! テメェのお腹が鳴ったのです! 魔人様のお耳を穢したことを全力で謝るのです!!」
「粗相してしまって申し訳ございませんッッ! 死んで詫びます!!」

 フィルマートは罪を被った。いや、別に罪ではなかったのだが、どうやら二人にとって魔人の前で腹を鳴らすのは死に値する大罪らしかった。

「やめろって変な気を遣うの! 今鳴ったの普通に俺の腹だから!!」
「なっ!? ……くぅ、魔人様にご心労をおかけしてしまったのです! やはりフィルマートは死ぬのです!!」
「死んで詫びますッッ!」
「俺が殺したみたいになるからやめてくれ! 生きろ少年!!」

 どう足掻いても死を以って何かよく分からないものを償おうとする少年を、デオドラは全力で諫めた。本当に殺人鬼だとしても、子供が目の前で死ぬのは快くない。
 するとその諫言を聞いた二人は、感極まって涙を浮かべながら言った。

「な、何と慈悲深い……! 流石は我らが魔人様だ!」
「このルピスは感動したのです。では、大至急お食事をご用意させて頂くのです!」

 先程から過剰反応が過ぎるのはともかくとして、食事という申し入れはありがたい。

「……良いのか、食事まで?」
「勿論なのです!! 至上のもてなしをするのです!!」
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。普通に腹減って死にそうだし」

 久々の食事に想いを馳せ、デオドラは頬を緩めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!

雪奈 水無月
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。 ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。 観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中… ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。 それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。 帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく… さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...