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二章【亡霊教会編】
第二十一話:離別と思惑
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教会堂に戻ると、デオドラを待っていたのは不気味なまでの閑寂だった。
「……あれ、誰もいない?」
リエスが暴れた大広間を見渡してみる。壁が割れ、照明が落ち、調度品が乱雑に散らばっている。痛々しい戦闘の痕はデオドラが教会堂を出る以前と変わらなかったが、どれかけ細やかに探しても見当たらないものがあった。
(伸びてた連中が、消えてる……)
竜人に叩きのめされたルピス以外の教徒は、大多数が気絶して転がっていたと記憶している。あれだけ大勢が目覚めたのなら、教会堂は普段のように騒狂としている筈なのだが。
「……俺が居ない間に、全員で何処か出かけたのか」
デオドラに心酔している教徒たちのことだから、勝手な真似はしないと踏んでいたが、ルピスなどの一部の行動は予測が出来ない。彼女は普通の人の尺度を越えた動機を持っている。
ルピスとは喧嘩別れのようになってしまっていた手前、デオドラの懸念は強まるばかりだ。その矢先、ふと地下で幽閉されている人間たちの安否が気になった。
(傷つけるなとは言っておいたけど、まさかな……)
どうしようもない不安に駆られて、デオドラは地下室にまで赴いた。
「何だ、普通にいるじゃないか」
囚われの人々は相も変わらず闇然とした様相で震えており、それを傍らで一人の男性門徒が監視している。男はデオドラの姿を視界に収めるや否や、姿勢を正して会釈した。
「あ、魔人様。おかえりなさいませ」
「えっと……アルベルト、だったか」
教会の関係者はアルベルトただ一人だけだった。
「他の皆はどうした?」
最初に口をついたのは、当然の疑問。ルピスやフィルマート、その他の亡霊教徒の所在を問い詰めると、アルベルトはあっけらかんと、
「“出ていく”とのことです」
「へ?」
あからさまに敬服の念を集めていたデオドラは、高慢になっていた部分があったのかもしれない。教会は自分に盲従していると決めつけ、まず離れていくことはあり得ないだろう、と楽観的に予測していた。
「……マジ?」
「はい。俺は最後の伝言役として残されました」
アルベルトの真剣な声の温度に触れて、デオドラの意識は現実に引き戻される。
本当に、彼女たちは去っていた。この世界で初めて手に入れたと己惚れていた居場所は、砂上の楼閣だったのだ。まさか、こんなに簡単に崩れ落ちるとは。
しかし、不可解なのはルピスたちがデオドラを見限った理由である。
「この教会堂は貴方様に明け渡します。忠義を貫けなかった我らをお許しください、とのことです」
「……そんなことはいい。どうしてルピスたちは居なくなった? 俺の何が悪かった?」
唐突に突き付けられる孤独は、想像以上に痛かった。得心がいかないデオドラは、何が問題でこうなったのか、原因を究明しようと声を荒げた。
「俺に足りない部分があったなら改善しよう。教えてくれ!」
「……そうではありません。ボスは嘆いておられました。自分たちは魔人様に使えるに能わない、と」
「…………彼女たちを小間使いにしたかった訳じゃない」
やはりと言うべきか、デオドラと教会の想念は繋がっていなかった。どこかで歯車がずれ、心が噛み合っていない。
本音を言うと、孤独はもう嫌だ。誰かに隣にいて欲しい。
縋るような想いでデオドラは問うた。
「……俺はルピスに手を挙げた。それを謝りたいんだ。彼女が何処に向かったか分かるか?」
「すみません」
どういう意味での謝罪かは斟酌しかねた。ルピスの目的地を知らないのか、それとも話せない理由があるのか。どちらにせよ、デオドラには深く問い詰める資格などない。
ルピスの自尊心を削いだ人間がいるとすれば、デオドラ本人である。やはり言葉足らずだった。彼女にもっと説明を労し、共感と同意を勝ち取った上で納得してもらうべきだった。逸った結果、少女たちは猜疑心に負け、此処を去ってしまった。
「…………嫌われたのかな、俺」
「いえ、そんなことは!!」
「良いよ、もう。気を遣わなくても」
向かう先が分からずとも、今からルピスたちを追うことは可能だ。王国中を探せば、数日かかるだろうが必ず見つかる。
しかし、自ら望んで離れていった者を追跡するような度胸が、どうにもデオドラの心に灯らなかった。
どう言い繕っても、自分が教会の期待に沿う魔人でいられなかったのは事実だ。
いや、魔人などという呼称に未だ順応できていないのだから、遅かれ早かれこうなっていたのかもしれない。
「こんな、呆気なくサヨナラか……」
漫然と呟くデオドラに、応える者はいなかった。
◇◆◇
囚われていた人々を全員解放すると、デオドラは軽く身形を整えて外出の準備をした。
「魔人様はこれからどうするので?」
「仕事が出来た。それに取り掛かるよ」
「やはり、ソルセインを征服するのですか」
「アホか」
きっと最後になると悟っているからか、アルベルトとの談笑には華が咲いた。友人とも言い難い知人以上の関係性での談話は、どこかぎこちなかったが、暫く孤独を凌げる程度には愉快だった。
「……アルベルト。お前は、どうする。俺に着いてくるか? 正直、これからすることを考えると歓迎は出来ないが」
「ボスが魔人様の元を去ったのですから、俺が癒着していては申し訳が立ちません」
それもそうか、とデオドラは分かりきっていた返答を淡泊に受け止める。
「貴方という柱を見失った亡霊教会は、事実上瓦解しました。もうただの盗賊団です。俺はそんなの嫌でしたから、こうして残って、貴方様を話すことで憂いを解きたかった」
……ふと、違和感があった。
アルベルトの言が素直に耳を通らず、何かが何処かでひっかかる。
果たして本当に、亡霊教会は魔人を捨てたのだろうか。千年間も脈々と受け継がれてきた信仰を、たった一度や二度の意見の相違で諦めきれるものなのだろうか。
少し考えて、違和感の正体が分かった。
「…………お前、今嘘をついたな」
「えっ」
「亡霊教会はまだ生きてる。アイツらは“本当の魔人”を探しに行った。そうだろ? 安心しろ、そっちが望むなら俺もお前たちのこと忘れるからさ」
図星だったのか、アルベルトは言葉もなく呆然と立ち尽くす。
「さてはお前、この後ルピスたちと合流するんだろ」
「……っ」
アルベルトが何を懸念して一人で教会堂に残ったのか、ようやく理解が及んだ。
教会は自分たちの魔人像と一致しない“デオドラ・ロイーゼ”と離れる為に、それらしい方便でデオドラの教会への関心を自然消滅させたかったのだろう。
騙したことを見抜かれたアルベルトは、デオドラからの報復を恐れて目を閉じる。
そんな震える鼠のような男を、デオドラは笑った。
「はは、無用の心配だぞ。知ってるか、俺って実は悪い人じゃないんだぜ。あんま良い人でもないケド」
デオドラはアルベルトの肩を叩き、旧知の間柄に向けるかのような笑みで、この離別を祝福した。
「……貴方様は――本当に、災厄の魔人ですか?」
アルベルトの目には、いかにも善人にしか映らかなったのだろう。
悪意の一欠片も見せないデオドラが、女を凌辱し、子供を犯し、男を殺すような“災厄”だとは、到底受け入れられなかったのだろう。
紛いなりにも英雄だと自負するデオドラは、鷹揚に言い残した。せめて、自分が最後に恩義を果たせるように、教会の道標となりますようにと。
「不憫なルピスに伝えてくれ。
いつか、探し物がどうしても見つからなかったら、俺の元を訪ねてこい。一番目立つ場所に俺は居るから、ってな」
◇◆◇
教会堂から数十キロ離れた秘境の村落にて。
肥沃な大地に恵まれた農業地域として知られるソコは、今や阿鼻叫喚の地獄と化していた。
亡霊教会の襲撃により、あらゆる施設は焼き落され、女子供を中心に惨殺と拷問、そして略奪が行われている。この後、教会には巨大な祭りが控えており、これはそのための英気を養う慰安戦だった。
部下が村の人々に悪逆の限りを尽くす様を、ルピスは高台の上から傍観していた。
そんな彼女に、アルベルトからの報告が届く。教会堂で魔人と分けれたこと。魔人側から教会に関与する意欲はないということ。そして、最後にデオドラは残した言葉も。
「そう、ですか。魔人様はそんなことを……」
ルピスは、一時的にとは言え袂を分かったデオドラに想いを馳せ、顔に影を落とした。
「しかし、都合良く誤解して下さって助かったなぁ。これからオレらのすることを知ったら、今の魔人様は必ず反発なさる」
ま、今してることを知っても全力でお止めになっただろうけどな、と付け加えたフィルマートは、最後にケタケタと笑った。
「……その時はその時なのです。きっと、それも含めて教会に課された試練なのです」
高台の上のルピスは、声帯に魔力を込め、声の音波を拡大させる。「あ~、あ~」と声調を整えると、村中に響き渡るように叫んだ。
「では野郎共! これから出発するのです! 今宵は“祭り”! 魔人様の新誕祭となるのです!!」
一頻り殺戮を繰り返して満足していたのか、部下たちは残った村人たちから簡単に興味を外し、ルピスの号令に反応した。
「血を焚べ、嘆きを焚べ、命を焚べるのです!! さすれば魔人様はお目覚めになる!!
ソルセインの最大人口集中地区――王都を潰せ!!」
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
雄叫びは一つの嵐となり、その矛先は、明瞭に示された。
そして、同刻。
「……さ、て」
森の果実で腹ごしらえしたデオドラは、空を覆うように反射する夕陽を浴びて、次なる目的を定める。
ソルセインで竜の食用利用を廃止させるため、この国の全権を担う者と直接交渉をすること。その為に何処へ向かい、どういう手順で何をするか、具体的な計画も組み上がった。
「善は急げだ。早速、クソ王レイノールに話を付けるとしようかね」
陽光が照らす先――目的地を見定めて、苦い思い出が脳裏に蘇る。
癪に障る王の姿を思い出して憤り、加虐愛者の女を想起して震え上がり、そして、誰より純粋だった少女を想って高揚した。
まさか、あの場所に自分から戻ることになろうとは。
「乗り込むとしますか、王都に」
――かくして、史上最悪の祭りが幕を開ける。
「……あれ、誰もいない?」
リエスが暴れた大広間を見渡してみる。壁が割れ、照明が落ち、調度品が乱雑に散らばっている。痛々しい戦闘の痕はデオドラが教会堂を出る以前と変わらなかったが、どれかけ細やかに探しても見当たらないものがあった。
(伸びてた連中が、消えてる……)
竜人に叩きのめされたルピス以外の教徒は、大多数が気絶して転がっていたと記憶している。あれだけ大勢が目覚めたのなら、教会堂は普段のように騒狂としている筈なのだが。
「……俺が居ない間に、全員で何処か出かけたのか」
デオドラに心酔している教徒たちのことだから、勝手な真似はしないと踏んでいたが、ルピスなどの一部の行動は予測が出来ない。彼女は普通の人の尺度を越えた動機を持っている。
ルピスとは喧嘩別れのようになってしまっていた手前、デオドラの懸念は強まるばかりだ。その矢先、ふと地下で幽閉されている人間たちの安否が気になった。
(傷つけるなとは言っておいたけど、まさかな……)
どうしようもない不安に駆られて、デオドラは地下室にまで赴いた。
「何だ、普通にいるじゃないか」
囚われの人々は相も変わらず闇然とした様相で震えており、それを傍らで一人の男性門徒が監視している。男はデオドラの姿を視界に収めるや否や、姿勢を正して会釈した。
「あ、魔人様。おかえりなさいませ」
「えっと……アルベルト、だったか」
教会の関係者はアルベルトただ一人だけだった。
「他の皆はどうした?」
最初に口をついたのは、当然の疑問。ルピスやフィルマート、その他の亡霊教徒の所在を問い詰めると、アルベルトはあっけらかんと、
「“出ていく”とのことです」
「へ?」
あからさまに敬服の念を集めていたデオドラは、高慢になっていた部分があったのかもしれない。教会は自分に盲従していると決めつけ、まず離れていくことはあり得ないだろう、と楽観的に予測していた。
「……マジ?」
「はい。俺は最後の伝言役として残されました」
アルベルトの真剣な声の温度に触れて、デオドラの意識は現実に引き戻される。
本当に、彼女たちは去っていた。この世界で初めて手に入れたと己惚れていた居場所は、砂上の楼閣だったのだ。まさか、こんなに簡単に崩れ落ちるとは。
しかし、不可解なのはルピスたちがデオドラを見限った理由である。
「この教会堂は貴方様に明け渡します。忠義を貫けなかった我らをお許しください、とのことです」
「……そんなことはいい。どうしてルピスたちは居なくなった? 俺の何が悪かった?」
唐突に突き付けられる孤独は、想像以上に痛かった。得心がいかないデオドラは、何が問題でこうなったのか、原因を究明しようと声を荒げた。
「俺に足りない部分があったなら改善しよう。教えてくれ!」
「……そうではありません。ボスは嘆いておられました。自分たちは魔人様に使えるに能わない、と」
「…………彼女たちを小間使いにしたかった訳じゃない」
やはりと言うべきか、デオドラと教会の想念は繋がっていなかった。どこかで歯車がずれ、心が噛み合っていない。
本音を言うと、孤独はもう嫌だ。誰かに隣にいて欲しい。
縋るような想いでデオドラは問うた。
「……俺はルピスに手を挙げた。それを謝りたいんだ。彼女が何処に向かったか分かるか?」
「すみません」
どういう意味での謝罪かは斟酌しかねた。ルピスの目的地を知らないのか、それとも話せない理由があるのか。どちらにせよ、デオドラには深く問い詰める資格などない。
ルピスの自尊心を削いだ人間がいるとすれば、デオドラ本人である。やはり言葉足らずだった。彼女にもっと説明を労し、共感と同意を勝ち取った上で納得してもらうべきだった。逸った結果、少女たちは猜疑心に負け、此処を去ってしまった。
「…………嫌われたのかな、俺」
「いえ、そんなことは!!」
「良いよ、もう。気を遣わなくても」
向かう先が分からずとも、今からルピスたちを追うことは可能だ。王国中を探せば、数日かかるだろうが必ず見つかる。
しかし、自ら望んで離れていった者を追跡するような度胸が、どうにもデオドラの心に灯らなかった。
どう言い繕っても、自分が教会の期待に沿う魔人でいられなかったのは事実だ。
いや、魔人などという呼称に未だ順応できていないのだから、遅かれ早かれこうなっていたのかもしれない。
「こんな、呆気なくサヨナラか……」
漫然と呟くデオドラに、応える者はいなかった。
◇◆◇
囚われていた人々を全員解放すると、デオドラは軽く身形を整えて外出の準備をした。
「魔人様はこれからどうするので?」
「仕事が出来た。それに取り掛かるよ」
「やはり、ソルセインを征服するのですか」
「アホか」
きっと最後になると悟っているからか、アルベルトとの談笑には華が咲いた。友人とも言い難い知人以上の関係性での談話は、どこかぎこちなかったが、暫く孤独を凌げる程度には愉快だった。
「……アルベルト。お前は、どうする。俺に着いてくるか? 正直、これからすることを考えると歓迎は出来ないが」
「ボスが魔人様の元を去ったのですから、俺が癒着していては申し訳が立ちません」
それもそうか、とデオドラは分かりきっていた返答を淡泊に受け止める。
「貴方という柱を見失った亡霊教会は、事実上瓦解しました。もうただの盗賊団です。俺はそんなの嫌でしたから、こうして残って、貴方様を話すことで憂いを解きたかった」
……ふと、違和感があった。
アルベルトの言が素直に耳を通らず、何かが何処かでひっかかる。
果たして本当に、亡霊教会は魔人を捨てたのだろうか。千年間も脈々と受け継がれてきた信仰を、たった一度や二度の意見の相違で諦めきれるものなのだろうか。
少し考えて、違和感の正体が分かった。
「…………お前、今嘘をついたな」
「えっ」
「亡霊教会はまだ生きてる。アイツらは“本当の魔人”を探しに行った。そうだろ? 安心しろ、そっちが望むなら俺もお前たちのこと忘れるからさ」
図星だったのか、アルベルトは言葉もなく呆然と立ち尽くす。
「さてはお前、この後ルピスたちと合流するんだろ」
「……っ」
アルベルトが何を懸念して一人で教会堂に残ったのか、ようやく理解が及んだ。
教会は自分たちの魔人像と一致しない“デオドラ・ロイーゼ”と離れる為に、それらしい方便でデオドラの教会への関心を自然消滅させたかったのだろう。
騙したことを見抜かれたアルベルトは、デオドラからの報復を恐れて目を閉じる。
そんな震える鼠のような男を、デオドラは笑った。
「はは、無用の心配だぞ。知ってるか、俺って実は悪い人じゃないんだぜ。あんま良い人でもないケド」
デオドラはアルベルトの肩を叩き、旧知の間柄に向けるかのような笑みで、この離別を祝福した。
「……貴方様は――本当に、災厄の魔人ですか?」
アルベルトの目には、いかにも善人にしか映らかなったのだろう。
悪意の一欠片も見せないデオドラが、女を凌辱し、子供を犯し、男を殺すような“災厄”だとは、到底受け入れられなかったのだろう。
紛いなりにも英雄だと自負するデオドラは、鷹揚に言い残した。せめて、自分が最後に恩義を果たせるように、教会の道標となりますようにと。
「不憫なルピスに伝えてくれ。
いつか、探し物がどうしても見つからなかったら、俺の元を訪ねてこい。一番目立つ場所に俺は居るから、ってな」
◇◆◇
教会堂から数十キロ離れた秘境の村落にて。
肥沃な大地に恵まれた農業地域として知られるソコは、今や阿鼻叫喚の地獄と化していた。
亡霊教会の襲撃により、あらゆる施設は焼き落され、女子供を中心に惨殺と拷問、そして略奪が行われている。この後、教会には巨大な祭りが控えており、これはそのための英気を養う慰安戦だった。
部下が村の人々に悪逆の限りを尽くす様を、ルピスは高台の上から傍観していた。
そんな彼女に、アルベルトからの報告が届く。教会堂で魔人と分けれたこと。魔人側から教会に関与する意欲はないということ。そして、最後にデオドラは残した言葉も。
「そう、ですか。魔人様はそんなことを……」
ルピスは、一時的にとは言え袂を分かったデオドラに想いを馳せ、顔に影を落とした。
「しかし、都合良く誤解して下さって助かったなぁ。これからオレらのすることを知ったら、今の魔人様は必ず反発なさる」
ま、今してることを知っても全力でお止めになっただろうけどな、と付け加えたフィルマートは、最後にケタケタと笑った。
「……その時はその時なのです。きっと、それも含めて教会に課された試練なのです」
高台の上のルピスは、声帯に魔力を込め、声の音波を拡大させる。「あ~、あ~」と声調を整えると、村中に響き渡るように叫んだ。
「では野郎共! これから出発するのです! 今宵は“祭り”! 魔人様の新誕祭となるのです!!」
一頻り殺戮を繰り返して満足していたのか、部下たちは残った村人たちから簡単に興味を外し、ルピスの号令に反応した。
「血を焚べ、嘆きを焚べ、命を焚べるのです!! さすれば魔人様はお目覚めになる!!
ソルセインの最大人口集中地区――王都を潰せ!!」
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
雄叫びは一つの嵐となり、その矛先は、明瞭に示された。
そして、同刻。
「……さ、て」
森の果実で腹ごしらえしたデオドラは、空を覆うように反射する夕陽を浴びて、次なる目的を定める。
ソルセインで竜の食用利用を廃止させるため、この国の全権を担う者と直接交渉をすること。その為に何処へ向かい、どういう手順で何をするか、具体的な計画も組み上がった。
「善は急げだ。早速、クソ王レイノールに話を付けるとしようかね」
陽光が照らす先――目的地を見定めて、苦い思い出が脳裏に蘇る。
癪に障る王の姿を思い出して憤り、加虐愛者の女を想起して震え上がり、そして、誰より純粋だった少女を想って高揚した。
まさか、あの場所に自分から戻ることになろうとは。
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