【完結】金の王は美貌の旅人を逃がさない

ゆらり

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本編第一部「金の王と美貌の旅人」

9  部屋へと向かうその途中で

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 ――すっかり別人のように磨かれた姿で、キュリオは侍女の後に続いた。
 
 最初に入った広間を横切り、別の扉を通り抜けて螺旋階段を上った先に、緑豊かな庭が広がっていた。涼やかな夜風がそよぐ中を、庭の脇にある石畳の廊下を進んでいく。

「リヤスーダ様は、この先の客間においでです」

 衣の裾を軽く摘み、楚々とした所作で先を行く侍女の歩む早さは駆け足に近い。
 
「急ぎ過ぎではないかな。少しで良いから、ゆっくりと行かないかね?」
「あら、申し訳ございません。少しでも早くキュリオ様のお姿をリヤスーダ様にお見せして差し上げたくて」
 
 キュリオの言葉に、侍女は緩やかに歩調を遅めてやがて立ち止まった。

「待っているリヤはどうあれ、私は貴女の方が心配なのだよ。躓きでもしたら危ないだろうし、どうか落ち着いて欲しい」

 じっと彼女を見つめ、キュリオは出来るだけ柔らかく穏やかな口調で諭した。侍女は「まぁっ!」と、声を上げて年若い娘のように両頬に手を当てた。だが、すぐに「失礼いたしました」と表情を引き締める。

「……キュリオ様、お気遣いを有難うございます」
「いやなに、怪我はしないに越したことはないのだから」
「リヤスーダ様の御友人様が、キュリオ様のような御方で良うごさいました」
「そうかね。私も彼と知り合えて幸いだよ」

 侍女の言葉に、キュリオは目を細めて微笑んだ。

 「私的なお客様を此処へ御招きにならないリヤスーダ様が、御友人を連れて来られるとおっしゃられたのには皆で驚きました。お迎えの支度をお命じになられる時も随分と落ち着かないご様子で……」

「少年のようにお可愛らしかったのですよ」と、その整ってはいるが是といった特徴を感じさせない顔に、微笑ましさを滲ませて語った。

「ああ、ここだけの話にしておいてください。リヤスーダ様が恥ずかしがられると思いますので」
「……わかった。後で笑わないように気を付ける」

 侍女はまた表情を引き締めて、「それではゆっくり参ります」と、言いながらも結局は次第に急ぎ足になっていくのを、やれやれと小さく溜息をつきながらキュリオが後に続く。

 ――そうこうしながら行き着いた回廊の先で、侍女が良く磨かれ飴色をした扉へと声を掛ける。

「リヤスーダ様、キュリオ様をお連れいたしました」

 すると中から、「ああ、入って貰ってくれ」と、聞き慣れた、しかし威厳の滲む若者の声が返ってきたのを合図に、侍女がおもむろに扉を開けた。

「キュリオ様、私はこれにて失礼させていただきます。良い夜をお過ごし下さいませ」

 侍女は部屋へと入っていくキュリオにふわりと頭を垂れて挨拶をし、最後に小声で「先程のお話は、内密にお願い致します」と、真顔で付け足した。

「ありがとう。……わかっているとも」

 同じく小声で返したキュリオにもう一度頭を軽く下げてから、侍女は静かに扉を閉めた。
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