【完結】金の王は美貌の旅人を逃がさない

ゆらり

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本編第二部「金の王と不変の佳人」

6 仲睦まじい番のように

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 ――絶え間なく打ち合わされる木剣の乾いた音が、広い庭に響き渡る。数十回を過ぎてもそれは途切れることがなく、二人は息を切らすこともなく打ち合いを続けられた。

「結構な腕前だね。加減は要らぬか……」

 キュリオはにこやかに言ながらリヤスーダの顔面目がけて、容赦のない突きを繰り出した。

「容赦ないなっ!」

 首を傾けるだけでかわしながら素早く後ろへ退こうとするリヤスーダへ向けて、鋭く踏み込んでの袈裟懸けの振り下ろしが襲い掛かる。

「それでは面白くあるまいて」

 目にも留まらぬ速さで繰り出されたそれは、幅広の木剣にガツリと受け止められた。

「闘士で食べていけるのではないかね?」
「それも良いかもしれんなっ!」

 強く弾き飛ばす勢いで押し戻される力に逆らわず、キュリオは軽業師顔負けの身軽さでふわりと後ろへと飛んで、よろめきもせずに着地する。

「どうせなら二つ名持ちを目指すか」
「君なら直ぐに名を持てるだろうよ」

 瞬きの間に距離を詰めて、リヤスーダが眼前へと踏み込んでくる。鍛えられた剛腕から幾度も繰り出される重い一撃を刀身の上を滑らせるようにして細身の木剣で受け流していく。

 力と技を駆使した、激しい応酬が続いた。

「――ところで、君の妃は決まったのかな」

 キュリオが絶妙の剣捌きで打撃を受け止めつつ、大剣を巻き込むようにぐるりと己の剣を動かす。その回転に絡め取られたリヤスーダは、剣を手から引き離されてしまった。

 宙に舞い上げられ高く弧を描いて落ちてきた木剣が、鈍く音を立てて二人から離れた地面に突き刺さる。

「……来春には婚儀を上げる」  
「それは重畳なことだ。私がこの国へ入ったばかりの頃には、お妃選びの話題を聞いていたから長かったね。1年余りになるかな?」

 そこへ歩み寄って木剣を引き抜いたのはキュリオだ。
 参ったと手を上げながら近寄ってくる相手へと、柔らかな笑みを浮かべながら柄の方を差し出す。

「そのくらいだな」
 
 剣を受け取る相手の顔を見上げて、キュリオは苦笑した。

「何て顔をしてるんだね、リヤ」
「……いや、別に」
「何か言いたいなら言うと良い」
「言葉にはし辛い」

 リヤスーダは何とも言い難い複雑な表情で、木剣を持つその手首を返して刀身を肩に当てながら遠くの方へ視線を向ける。

「ならば、そのまま言わずにいれば良い。言葉に出来ないことなど幾らでもあるのだからね」

 穏やかな声と同時にキュリオがゆるりと両手でもって剣を正面に構えれば、リヤスーダは視線を戻して片手で構えた剣をぐっと突き出してそこに触れ合わせる。

「……次は今のような隙を作るでないよ」
「言われるまでもない」

 再び木剣が打ち合わされる音が庭に響き始めた。
 
 手加減なく繰り広げられる二人の手合わせは、息を呑む激しさがあったが、彼らは実に楽し気で、笑い声すら上がる。それは戯れながら舞う番の鳥にも似ていて、妙に仲睦まじい空気を醸し出していた。
 
「ベル、あの二人凄いね! それに楽しそうだ。羨ましいよ」 

 そんな手合わせの様子に、イグルシアスが感嘆の声を上げる。

「私には剣術の良し悪しは解りかねますが、確かに凄いですね。仲睦まじくも見えます……。ところで、いつも言っていますが私はベルではありません。ベルセニアとお呼びください。イグルシアス様」
「ええ。ベルって呼び名可愛いと思うのに」
「可愛いと思いませんので、ご遠慮為さって下さいまし」

 取り付く島もない侍女の態度に「もう、つれないなぁ……」と、わざとらしく不満げに唇を尖らせて見せてから、イグルシアスは彼女の供した茶に舌鼓を打つ。

「んん、君の淹れるお茶は美味しいね。そろそろ僕の侍女になってくれない?」
「お褒め頂き真に光栄でございますよ。いつもながら身に余るお誘いでとても嬉しゅうございますが、それにつきましてはリヤスーダ様のお許しを頂かなければいけません。もしも、お許しが頂けたのでしたら、私、今すぐにでも喜んでイグルシアス様の侍女を勤めさせて頂きます。お許しが頂けたのなら、でございますが」

 眉一つ動かさず滑らかに返された答えに「無駄に長いよ! しかも拒否感しかないじゃない!」と、苦笑しながら叫んだ。

「では手短に申しますね。……謹んでお断りさせて頂きます」
「言い直さなくていいよ。ほんとうに君、いい性格してるね」
「よく言われます」

 慇懃無礼もここまでくると、いっそ清々しいもの。イグルシアスは気分を害する様子もなく、愉快気にケラケラと笑った。

「あーもう! 兄さんはずるい! 僕もベルみたいな侍女が欲しい!」

 笑いながら大人気ない文句を言う彼に、ベルセニアがつられるようにして品よく笑う。

「お言葉ですが、それはない物ねだりというものでございますよ」
「そうだけどさぁ……。キュリオだってさ、僕も食客に欲しかった闘士だよ。あ、このお菓子とても美味しそうだね。ベルのお手製?」
「はい。私が今朝方に焼き上げておいたものです。そちらはイグルシアス様のお好きな胡桃入りの菓子でございますよ」

「さすがベル!」と、イグルシアスは喜びながら、こんがりとした良い焼き色のついた菓子を口に放り込み、サクリと音を立てて幸せそうに噛みしめた。 
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