【完結・加筆修正中】横暴領主が平民狩人の俺に執着してくるんだけど、どうしたらいいと思う?

ゆらり

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家に帰りたい

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 もう一度眠ることはできなくて、モヤモヤとしているうちに陽が落ちた。

 朝に小屋で野菜の汁物と黒麺麭パンを食べただけで、なにも口に入れていない。

 さすがに腹が減った。寝台の脇には水差しと、椀の置かれた机があった。寝台の上でもぞもぞとにじり寄りながら手を伸ばして水差しを取り、椀を使わずに直接飲む。

 香りの付いた甘い水が、するりと喉を落ちていく。


 ……口移しされたのはこれだ。


「うっ、うぅ……」

 口付けされたときの気持ち良さを思い出してしまい、きゅっと眉間にシワが寄った。

 嫌な感じだ。でも腹が減っているから甘い水が飲みたくなる。もう一度飲んだら止めようと思っても止まらなくて、また一口、やっぱりもう一口と飲んでいるうちに水差しが空になった。

「はぁ、腹減ったなぁ。もう帰りたい」

 情けないぼやき声を上げたとき、扉を軽く叩く音がした。

「失礼いたします。灯りを持って参りました」

「えっ? ああ、ありがと」

 片手持ちの蝋燭ろうそく立てを携えた老人が入って来た。

 しゃきりと伸びた背筋をした老人は、滑るように歩きながら灯りを点けていく。あっと言う間に、部屋の中が明るくなった。昼間のようだ。


かわやなどは、あちらの部屋にございます。お使いなられますか」

 老人がついと手を向けた寝室の壁に 黒っぽい木の扉があった。

「あ、そうなんだ……。うん、使わせてもらいたいかな……」

「かしこまりました」

 穏やかに微笑みながら、老人はシタンの腕からゆったりとした動きで水差しを受け取って脇の机に戻してくれた。

夕餉ゆうげは既にご用意致しておりますので、直ぐにお出しいたします。まずは所用を済ませましょう。さあ、奥へどうぞ」
 
 そう言われて、寝台を下りたシタンはよたよたとした足取で歩き始める。

「ご無理はなさらぬよう。ゆっくりと歩いてください」

「う、うん。ちょっと、腰が痛い……」

「でしたら、私めにおつかまりください」

「いや、そこまでじゃないから、大丈夫だよ。歩きにくいけど」

「左様ですか」

 倒れそうになったら支えるつもりなようで、横を歩く老人を気にしながらまだ痛む体をやっとの思いで動かして隣室へと入った。そうして、諸々の用を済ませて寝台に戻ったシタンは、そこで自分の状況にはっとする。

 老人の丁寧な態度に流されてすっかり忘れていたが、ここは領主の城だ。

 また対価を払えとか言われる前に、こんな場所からとっとと逃げ出して家に帰りたい。禁猟の期日まではそう遠くない。今のうちに出来るだけ狩りをして金を貯めておきたい。

 「あ、あの、俺、どうなるのかな。家に帰りたいよ……」

 老人に行ってみると、悲しそうな顔になって首を横に振られた。人の良さそうな老人にそんな顔をされると、悪いことをしたような気になってしまうから止めて欲しい。

「私めはお仕えしている身ですので、どうにもして差し上げられません。そういったご相談は領主様になさられるのがよろしいですよ」

「え、あ、ごめん、そうだよな……」

 そう言えばそうだ。領主に真っ向から文句を言って逆らえる人間なんて、いない。やっぱり悪いことをした気になってしまった。

「あの方は、貴方様を無碍に扱ってはならないと命じられました。きっと何かしら思う処が、お有りになるのでございましょう」

「そ、そうなのかな? だけどさ、あ、あんな……、いや、その……」

 もごもごと言葉を誤魔化していると、労わりたっぷりな目で見られた。

 領主に何をされたかを、老人は知っている。

 そう考えると、とても顔が熱くなった。恥ずかしい。

「……な、なんでもない……。どうせろくに歩けないし、やっぱりここにいるよ」

 がっくりと肩を落として、シタンは話を切り上げた。悪目立ちというか、自分で傷を広げているような気分になったからだ。

「それがよろしいかと思われますよ。……では、夕餉をこちらへお運び致します。少々お待ちください」
 
 老人はにこにことした笑顔で小さく頭を垂れてから、足音も立てずにするりと寝室を出て行った。
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